娘に就いて

 娘はいいよね。

 のっけから申し訳ないが、そういう貴男も娘はいいと思われているはずだ。そうでないとしたら、あなたは貴女なんじゃないかな。
 娘。語感もいい。姿もいい。なんといっても女が良いのだ。これでイチコロにならない牡がどこにいる。なにせ娘は、「娘さんよく聞けよ」と山男に訴えかけられたり「糸屋の娘は目で殺す」と諸国大名の弓矢以上の威力を歌われたりするのだ。
 お嬢さん。これもいい。失恋魔術師につきまとわれたり夏になるとチュウチュウチュチュとビキニで歌ったり「お嬢さんお手上げだ」とワインをふりかけられたりするのだ。でも、何かが足りない。娘ほどじゃない。まだ青く堅いのだな。青い果実、っていうか。そのまんまじゃねえか。なにしろ娘の凄いところは、カタカナでかくとそのまんま娘さんの一番大事な焦点を指す言葉になるということだ。きゃあああぁぁっ。指すですってエッチ。

 さらに娘の凄いところは、上に地名をつけるといくらでも破壊力が増すところである。たとえば。

「イタリア娘」。おぅ。のっけから強烈だぜセニョリータ。ピザとワインでこんなに育っちまったのかい、アレッサンドラ。もうチーズはいらないよ。ドンの指令で全身蜂の巣になったとしても、オレはお前を諦めはしないぜ。

「スペイン娘」。こいつはまた凄いぜ。黒い髪に黒い瞳、情熱をバラに込めて投げるお前の踊りはフラメンコ。片手にバラ太腿にナイフ。オレはたとえ破滅しても、カルメン、君を離しはしないぜ。君はオレの宿命の女さ。

「ブラジル娘」。あああお前の腰のくねりにオレはもうメロメロだぜドーニャ。サンバのリズムで忘れましょうよ。今日はカーニバル。陽気でどこか淋しげなマリアッチ。マリア様にかけて、オレはお前にぞっこんだぜ。オレは砂漠に立ち叫ぶ。ヘイ、ワンモアテキーラ!

「フランス娘」。……あれ、一気に冷めてしまった。こんなはずじゃないのに。一番素晴らしいはずなんだが、どうもグッと来るところがない。なぜだろう。ポピュラーすぎるのだろうか。細分化してみるか。「プロヴァンス娘」。ああああ、いいねえ。牧歌的だよおっかさん。都会育ちのオレが悪いこといろいろ教え込んでやるぜ。そして捨てる。それが定めなのさモナミ。「マルセイユ娘」。ブイヤベースの香りがするぜ。魚ばっかり喰ってるからスケベなんだろニーナ。魚の鱗よりオレの鱗を剥がしてくれよニーナ。「シェルブール娘」。傘はいかがですか、傘はいらんかね。そうして娘は売れ残った傘をお地蔵さんに被せて帰りました。その晩お地蔵さんがうんとこしょ、うんとこしょとやって来て娘に赤ちゃんをプレゼントしました。娘は未婚だったのでたいそう困りましたとさ。どっとはらい。何か違う。

「中国娘」これもフランス娘と同じパターンだな。「上海娘」。ああ、リル。リル。誰かリルを知らないか。髪の長い娘でね。マリのお客を取ったんだよ。ああリル。あんたリルの何なのさ。「北京娘」。ちょっとお堅いぞ。毛語録とトウ語録を常に携帯している。ポイントは農村だ。矛盾論で攻めればレベル40で倒せるぞ。「蘇州娘」。これは最強だ。纒足してるね春麗。柳腰だね春麗。ほのかな香だよ春麗。さあこっちへ…ぐわっ、げほっ、ごわっ。いきなり逆立ちして足を振り回すことないぢゃないか春麗。

「ロシア娘」。これもいいね。情が深そうだ。ボルシチとか作ってくれちゃったりして。剥いても剥いても中からどんどん小さな娘が出てきそうだ。でもなグルーシェンカ、トルストイには気をつけろ。あいつは嘘つきだからな。それからなグルーシェンカ、髭だけは生やさないでくれよな。

「ドイツ娘」。ちょっと怖いぞ。ゲルマン民族だからな。日本人が手を出すと優生保護法で即有罪、アウシュビッツ送りだ。でも「バイエルン娘」は陽気で愉快ないい娘さんだ。ビールを飲み過ぎてちょっと太めなのが難点だが。「プロイセン娘」…ちょっと手を出したくないな。鉄血娘だ。鉄骨娘と似ているがちょっと違う。

「酋長の娘」。ちょっと放送禁止っぽいぞ。私のラバーさんだ。ゴムじゃない、いや、あのいやらしい意味のゴムでもないんだ。避妊の概念なんかないぞ。ってますます人種差別的。腰にパイナップルぶら下げて。ああオレに投げるか。どかーん。こらこらパイナップルの意味が違うぞ。お茶目さん。

「カンカン娘」。銀座をのし歩くカンカン娘だ。フレンチカンカンだぞ。カンカン帽やカンカン照りや、ましてや官官接待ではない。可愛いんだカンカン娘は。他に歌詞を覚えていない、ごめん。

「カリプソ娘」。デーオ、イデデイデデイデデイデデ。お臍が可愛いぜ娘さん。お腰につけたバナナ、ひとつあたしにくださいな。いえいえ私のバナナをあげましょう娘さん。ああ娘さん娘さん。オレは馬鹿か。おやおやあっちは「ドドンパ娘」。語感の凄さでは随一だろうな。

 もはや興奮しきっているのでオチなんぞ考えてもいないぞ。ああ娘さん娘さん、オレはお前とどこまでも墜ちよう。こんなオチかよ。


戻る           次へ