懐かしの漫画

 子供の頃はコロコロコミックという漫画を愛読していた。子供の頃、というのは語弊がある。中学生になっても読んでいたからだ。明らかに小学生向けの漫画雑誌を買うには躊躇われる年齢だったが、それでも読んでいた。とにかく分厚かったからだ。ジャンプやサンデーなどの雑誌よりひとまわり小さい版型だったが、厚さは倍以上だった。ほぼ立方体をしていた。「サイコロコミック」などと呼ばれていたくらいだった。いや別にあすかあきおが描いていたわけではない。誤解なきよう。
 今はどうだか知らないが、そのころのコロコロは、ドラえもんとウルトラマンが二本柱だった。
 ドラえもんは旧作の再録が二篇ほどと、新作が二篇くらい。新作はアシスタントに描かせていた。そのころは片倉陽二という人が描いていたと思う。この人は可哀想な人で、半年に一度くらいオリジナル作品を描くのだが、まるで人気がなく、やむなく翌月からまたドラえもんに戻る。その繰り返しだった。
 ウルトラマンは複数の人がひとつづつ描いていたと思う。中心は内山まもるの「ウルトラマン物語」というオリジナルストーリーだった。実に壮大かつ悲惨なストーリーだった。バルタン星人率いる怪獣軍団が地球を席巻、ウルトラ兄弟は多勢に無勢、次々に殺されてゆく。わずかにセブンとエースが地下に潜り、レジスタンスを行うが、非道なるバルタン星人は日本国民を人質に取り、ウルトラ兄弟が出てこないと一時間に千人の日本人を殺すという。セブンの制止を振り切って登場したエースがなぶり殺しに――というような話だったと思う。作者の内山まもるがなまじ筆の立つ人間だけに、なんかすごく陰惨な話で気持ちが暗くなったものだ。

 内山まもるは同時に「リトル巨人くん」という野球漫画も連載していた。主人公は小学生。リリーフエース不足に悩む長嶋監督が見つけてきた巨人の守護神である。ただし小学生のため、午後九時過ぎの出場は認められない。今だったらリリーフは不可能であろう。この漫画での阪神はまったくの引き立て役。掛布が売り出した頃だったが、だいたい巨人くんの前に三振していた。江本がまだ現役で投げていたが、巨人くんに会うたび、「どうや、チンチンに毛は生えたか?」などと卑猥な言葉を投げつけ、だいたい五回までにノックアウトされてすごすごとベンチに帰って行く役だった。思えばあれがストレスとなって、後の退団騒動に結びついたのかもしれない。

 はっきり覚えていないが、「ジャーマネ君」というのもコロコロの連載だったのではないだろうか。
 主人公は芸能マネージャー。これだけで子供には不向きな漫画だと思うのだが。しかも、実在したアイドルグループ、トライアングルのマネージャーである。もはや記憶する人も少ないと思うが、キャンディーズの類似品グループである。売れないアイドルとそのマネージャーが、レギュラー番組とレコード売り上げを求めて芸能界を疾走する、いわゆる芸能界内幕もののギャグ漫画である。キャンディーズ、ピンクレディ、沢田研二、郷ひろみ、山口百恵等の実在アイドルの登場が売り物だったのだと、思う。これはたしか最終回は、キャンディーズが引退し、寄生する宿主がいなくなってトライアングルも解散してしまい、おしまいだったと思う。

 そして、忘れてはならないのが、「ゲームセンターあらし」である。
 有名だから覚えている人も多いだろうと思う。そのころ大流行していた、インベーダーゲーム、ギャラクシアン、平安京エイリアンなどのテレビゲームを主題とした対決もの漫画である。主人公のあらしとそのライバル達は、小学生の身でありながら日本のみならずアメリカやインドにまで行ってゲーセン勝負を繰り広げ、しまいにはアメリカ大統領じきじきの依頼を受け、NASAの月基地から誤射された無数の核ミサイルを撃ち落とすのである。
 この漫画の大成功で、類似品が輩出した。対決するものが違うだけで、フォーマットはまったく同じである。なぜかキャラクターまでまったく同じで、主人公はチビの小学生。ライバルもみな小学生だが、大人よりも巨大な番長、お前小学生かとつっこみたくなるような気障な二枚目、カワイコちゃん(死語だよなあ)と判で押したように共通していた。
 ゲームの代わりに釣りでクロダイだのカジキだのを釣る「釣りバカ大将」というのもあったが、忘れてはならないのは「とどろけ!一番」であろう。

 これは受験戦争をテーマにした作品。というと重そうだが、主人公以下登場人物がすべて受験をゲームと見なしているため、それほどでもない。主人公はチビでブサイクというのは定番。でも秀才。とてもそうは見えないが。ライバルも定番。主人公の五倍以上の身長がある番長は、小学生の癖になぜか学帽と学ランを着込み、隣の受験生を脅して回答を書かせるのが得意技。それってカンニングじゃん。気障で二枚目のライバル(でも小学生だから半ズボン)は、豪邸に住み、執事と女中に囲まれて生活している。現役東大生の家庭教師を十人雇って勉強に余念がない。親父の会社の研究所に特注の「なめらかに書け、磨り減らない」鉛筆を作らせたりする。そんなに金持ちなら、受験なんぞやめちゃえと思うのだが。はっきり覚えていないが、定番のカワイコちゃんもいたと思う。

 こういうわけの分からない主人公とライバル達は、みな超難関中学校への入試合格を目指して切磋琢磨する。その切磋琢磨が妙だ。受験に合格したければ勉強すればいいような気がするのだが、主人公以下みな、そんな月並みはしない。なぜか松の木から逆さに吊されて答案を書く特訓をしたり、ピッチャーマウンドから鉛筆を投げてホームベース上の答案用紙に字を書く特訓をしたりする。そして模試の会場では、「秘技! 四枚重ね!」などと絶叫しながら逆立ちとなり、両手両足に鉛筆をくくりつけて同時に四枚の答案を書いたりするのである。なぜ会場から追い出されなかったのか、永遠の謎である。
 そんなこんなしながら主人公達は超難関中学を受験し、みごと合格する。主人公などは成績優秀につき特待生として学費免除の待遇まで受ける。しかしなぜかみんな、合格の証書を破り捨ててしまうのだ。もはや彼らには受験以外の楽しみはない。エスカレータ式に高校まで行くのは耐えられないのだ。「よおし、次は超難関高校受験の勝負だぜ!」「おお!」主人公とライバルの雄叫びが響きわたり、物語は終わる。ああ、だれかこの漫画を復刻してくれないものか。太田出版も手を出さないだろうなあ。


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