鬼怒川は昨年7月以来の2回目。
あのあと鬼怒川は、畜犬屍骸大量放棄事件、大水害などの惨禍に見舞われた。
もとから廃墟だらけの鬼怒川が、いったいどうなっているのか気になった。
そんなわけで今回も格安の伊東園。新聞のチラシによれば、鬼怒川のロイヤルホテルとニューさくらは、池袋とさいたま副都心からの送迎バスがあるという。
問題は出発時期だ。鬼怒川の紅葉は、11月いっぱいだという。そして伊東園ホテルは、12月1日からバイキングにズワイガニ食べ放題が追加、さらに送迎バスも千円から無料に変更されるという。
千円+ズワイガニ、VS、紅葉。
私は紅葉を選択した。あなたならどうする。
11月17日、朝9時半にさいたま副都心に集合。
やってきたバスは私の格安温泉宿遍歴史上初の、二階建てバスだった。
乗客は50人弱とほぼ満員。いつもなら伊東園に2、3人はいる男の一人旅が、私しかいない。
ま、おかげで隣の座席に誰も座らず、ひろびろできた。
年齢構成はジジババ主体という、いつもの伊東園。一組だけ若い女性の2人組がいた。20代……いや、30代かな。
11時ちょっと前に佐野SAで休憩し、12時半には鬼怒川に着いた。最初にロイヤルホテルで半分くらい降りる。このホテルは鬼怒川温泉駅の南西、楯岩大吊橋のちょうど隣にある。
12時40分にニューさくら到着。このホテルは鬼怒川温泉駅の北東にある。どちらのホテルも駅からの距離は同じくらい。
部屋に入れるのは15時からなので、とりあえずチェックインと前払いだけ済ませ、駅の方角に歩いてみる。送迎バス込みで一泊二食バイキング税込み9,276円。
駅前の土産物屋の隣に、「香雅」というラーメン屋があるので入ってみる。
平日の昼間だがほぼ満席。
カウンターの隣客が注文した、かた焼きそば大盛りとやらを見て仰天する。直径40センチほどの丸皿に、揚げそばが山盛り。隣客はそれでも足りないのか、羽根つき餃子2人前とライス大盛りも食べていた。
私はつつましくタンメンと餃子と小ライスのセットを注文。ビールももちろん注文。
この店は自家製の漬物を自由に食べていいらしく、カウンターの端に8つくらいのタッパーが並んでいた。キャベツしょうゆ漬け、野菜のラー油漬け、野菜のゆずポン酢漬け、キムチ、大根梅酢漬け、ハバネロしょうゆ漬けなどなど。ハバネロには「激辛注意」の貼紙があった。
タンメンはまあ普通だが、続いて出てきた羽根つき餃子を見て驚いた。餃子が羽根の中に埋没しておる。中生代の翼竜、プテラノドンやケツアルコアトルスなどは、その身体のほとんどが翼でできていたと言われる。普通の羽根つき餃子がカモメや白鳥など鳥類レベルなら、ここのはまさに翼竜レベル。
食後、東武鉄道に乗り、龍王峡に行く。(前回のコピペ)
前回の教訓があるのでちゃんと切符を買って乗った。
乗降客は前回より多い。まあゼロから数名への変化だが、やはり紅葉の季節か。
あと、改札口の猫も前回より増加した気がするのだが、これは雨が降ってたからかな。
前回も行ったハイキングコースを歩いたが、10分くらい歩いた先のむささび橋のところで、「水害のためこの先の通行禁止」というバリケードがあった。
前回、足がつり爪がはがれかけた経験のある私は、これ幸い、いや無念の涙をのんで、そこから引き返したのであった。
龍王峡はもう紅葉シーズン終了とのことだったが、まだ美しい。なにより、木の葉がだいぶ落ちているので、滝や川が見やすくなった。
駅前に戻って時間調整のため茶店でコーヒーを飲む。そこで売っていた地酒が、偶然にも、こないだ18きっぷの旅で訪れた烏山の酒造会社、島崎酒造だったので、奇遇を祝して購入。
さてこれからは、廃墟拝見タイム。
まず龍王峡の廃墟といえば元秘法殿。まあこちらは、まだ閉館してから1年弱ということで、それほど荒れていない。
ただ入り口にある立看板が涙を誘う。
鬼怒川公園で下車し、鬼怒川温泉まで約2キロの道のりを歩く。
公園のすぐ南に滝見橋という吊橋があり、その途中から南岸の二大廃墟ホテル、「鬼怒川第一ホテル」と「きぬ川館本館」が川に面して見える。
その北の対岸には、「あさやホテル」という、鬼怒川随一の規模と集客を誇るホテルがあり、勝ち組負け組の露骨なまでの対照を見せつけている。
国道沿いに廃墟ホテルに近づいてみる。
「きぬ川館本館」のかつて誇ったかっぱ風呂の、踊る河童のイラストと、「鬼怒川第一ホテル」入り口にいまだに立つ「入浴できます」の看板が哀しい。
「鬼怒川第一ホテル前」のバス停留所は、今でも乗降できるのか、確認できなかった。
そこから鬼怒川温泉駅方面へさらに歩くと、くろがね橋とふれあい橋があり、そこからは秋の増水で破壊された「鬼怒川プラザホテル」の露天風呂設備がいまだに川っぺりに転がっているのを眺めることができる。
鬼怒川プラザホテルもあやうく廃墟ホテルの仲間入りをするところだったが、さいわい経営は順調なので、それはまぬがれた。露天風呂もご心配なく。ホテルからちょっと歩いたところに貸切露天風呂があり、そちらで入れるらしい。
鬼怒川第一ホテルときぬ川館本館が廃墟と化したのは、どうやら立地条件が一因のようだ。
鬼怒川温泉郷は東武の2駅ほどにまたがって川沿いに細長く点在する。鬼怒川がさびれた時に持ちこたえたのは、風光明媚で観光スポットの近くにあるホテルと、駅に近く交通の便があるホテル、さらに駐車場や庭など敷地をひろびろと確保できたホテル。
廃墟と化した2ホテルは、鬼怒川公園駅と鬼怒川温泉駅のちょうど真ん中ほどで、電車で来るには不便。自動車なら国道に面していて便利なようだが、駐車場があまりなく、おまけに国道が殺風景で危険、散策に向いてない。対岸のあさやホテル側は、土産物屋や食い物屋が並ぶ温泉通りがあるのだ。まあもっとも、あさやホテルはホテル内に売店もレストランもあり、客はほとんど温泉通りで金を落とさないから、潰れて廃墟化した店も多いけどね。
駅に近いか周囲の景色のいいホテルなら、たとえ経営破綻しても、おおるり伊東園大江戸温泉の格安温泉宿チェーンに買収され、廃墟にはなっていない。
昔のバラエティ番組「欽ドン!良い子悪い子普通の子」風に言えば、良いホテルは大規模なあさやや格式と歴史の金谷ホテルのような勝ち組ホテル、悪いホテルは第一ときぬ川の廃墟ホテル、普通のホテルはいちど潰れて格安温泉宿としてリニューアルした、私の定宿みたいなもんか。
17時ごろ、降りが強くなってきた雨にズボンをずぶぬれにしながら、ようやく宿に到達。国道から入るロビーは6階にあり、大浴場はもっと下の1階にあるという、鬼怒川ではよくある造り。一人部屋は7階で、なんだかボイラー室のような設備で視界がふさがれ景色はまったく見えないが、事前にそう書いてあったのでいたしかたない。
濡れた服を浴衣に着替えて大浴場へ。男風呂は大浴場と露天風呂、それにサウナと水風呂がある。露天風呂は生垣で視界がさえぎられ紅葉は山のてっぺんくらいしか見えないが、それもいたしかたない。生垣がなければ、こちらが見られる。
夕食は18時から。きょうは二部制にするほどの客もいないので、18時から20時半まで、えんえんビールを飲み続けることも可能だとか。18時半くらいに行ってみたら、会場は7割くらいの入り。だいたい60人くらいといったところかな。
伊東園の料理はショボいという経験から、あらかじめ「とちぎ和牛しゃぶしゃぶ」という特別料理を、2,000円のところ特別価格800円で予約していたのだが、バイキングも意外と充実していた。
伊東園定番の、鳥から揚げ、春巻き、マーボー豆腐、ハンバーグ、枝豆、そば、カレーは健在だが、そのほかにも寿司の部(まぐろ、サーモン、こはだ、イカ、タコ、海老、穴子、玉子、稲荷、かんぴょう、カッパ)、刺身の部(甘エビ、ヒレジロマンザイウオというけったいな名前の、ビンチョウかメカジキに似た白っぽく脂ののった魚、鯉のあらい)、天ぷらの部(マイタケ、カボチャ)、ローストポーク、おでん、肉豆腐、サラダ、きのこ飯、アイスクリーム等々とあり、バイキングだけでも欲求不満にならないだけの力を持つメニューであった。
牛しゃぶしゃぶもうまかった。黒ずんだりしてない、ちゃんと赤みにサシが入った柔らかい牛肉を、観光旅館定番の固形燃料つき小鍋で、水菜と葱と一緒にいただく。肉は5枚しかなかったが、800円でこれにケチをつけてはバチが当たる。
料理を食いすぎて、ビールは5杯くらいしか飲まなかった。
20時前に部屋に戻り、風呂に入りなおしてから部屋で酒を飲む。つまみは龍王峡で買った燻製玉子と、佐野インターで買った「ご飯にかけるギョーザポテトチップス」という変な名前のチップス。
今回はスナックたろうで熱唱するのはやめておき、おとなしく寝る。
翌朝は健康的に6時ごろ起床。風呂に入ってから着替え、朝食会場へ。
朝食メニューはそんなにない。丸パンと食パン、ベーコンとハムとソーセージとスクランブルエッグ、めしと味噌汁と茶漬け、漬物と納豆と塩鮭ときんぴらごぼう、あとはイカソーメンくらいだったかな。かけそばはなかったので、めしと納豆だけで済ます。
そのまま外を散歩。きのうとだいたい同じところを歩き、昨夕は暗くて気づかなかった崩落露天風呂を発見するなどしたが、そのへんは昨夕のところでまとめておいた。
くろがね橋のたもとにある「おおあみ」という店でかりんとうまんじゅうを購入。10個で1,200円。揚げたてを入れてくれたのでついひとつ食ってしまった。確かに外はかりっとしてかりんとうの味、中身はほどよい甘さのこしあん。
ぐるっと回って宿に戻り、荷物の整理をして10時。最後にもうひと浴びしよう、と大浴場に行ったら、なんと「10時から清掃中」の貼紙があった。ホテルの案内には11時まで入浴可能と書いてあったんだがなあ。確かにその下に「予告なく変更する場合がございます」とは書いてあるが……。
どうも伊東園やおおるりは、こういうドタキャン変更が多いような気がする。開始時間は大勢が待っているのでめったに変更しないが、終了時間はヤバい。客がいないと勝手に閉めたりすることが多いのではないか。
チェックアウトして荷物をフロントに預け、帰りのバスが来るまでまた散歩。
こんどは廃墟ホテルと逆方向を歩いてみる。
鬼怒川温泉駅を通り過ぎてもうひとつの伊東園ホテル、鬼怒川グランドホテルまで歩く。
その隣の楯岩大吊橋は鬼怒川でも有名な観光スポットらしく、大勢の観光客が歩いている。もっともここも、先日の増水で楯岩の一部が崩落、復旧作業中のため、吊橋から先の展望台までの遊歩道は通行禁止となっているから、吊橋を渡ったら帰ってくるしかない。しかしこのへんは、確かに眺望がいい。
さすがに歩きつかれたので、吊橋の前にある「足湯カフェ」というところで小一時間休憩。足を暖めながらほどよく涼しい外気にふれ、紅葉を見ながら飲むチャイラテは、甘いけど安らぐ。ドリンクはだいたい600円前後。
近くの観光案内所みたいなところで、「がんばろう東北!」の垂れ幕を見たが、あんたががんばれと言いたい。復旧作業と廃墟なんとかしろ。
大震災の2年後に気仙沼に行ったが、あちらは「盛業中の突如の災厄」、鬼怒川は「弱りきったところの最後のとどめ」みたいな感じなんだよなあ。カルタゴの滅亡とローマ帝国の滅亡の違いとでもいうか。
ホテルに戻ったのが12時ちょっと過ぎ。ホテルの向かいにある「更科」という店は、手打ちうどんと手打ちそばの店。店長が趣味で採ってくるきのこを入れたきのこそばが美味いという評判だったが、まだ腹が減らないので断念した。ホテルの漫画コーナーで「ジョジョの奇妙な冒険」と「じゃりん子チエ」を読んで時間を潰す。
13時20分、送迎バスが到着。今回は普通の観光バスだった。
14時ちょい前に出発し、すぐ近くの漬物屋で休憩。そのあとは高速に乗って進む。
15時半ごろ、羽生PAで休憩したが、なんだか様子がおかしい。
木造建築風の外観に様変わりし、「近江屋」などと木製の看板が立っている。
どうやら鬼平犯科帳とコラボしたらしい。中の売店やレストランの名前も、ぜんぶ池波正太郎の小説に登場する店名に変更、食い物も「一本うどん」や「軍鶏鍋」など鬼平料理になっている。
食い物はそれでもいいが、土産物も浅草の佃煮や唐辛子、江戸前そばなどに様変わりしているのは困る。私ら、そっち方面に帰る途中なんですけど。
16時40分にさいたま新都心に到着。そこから埼京線で17時過ぎに家に帰れた。
どっとはらい。