あれの名前

 どうにも気になってしかたのないことがある。
 あれを、ぼくは何と呼んでいたろうか?

 少年の日。
 さかんに遊んでいた記憶はあるのだが。

 ルールは至って簡単。
 まず本拠地を決める。ふつう校庭の木などを本拠地とする。
 ジャンケンで負けたひとりが鬼。ほかの人間は本拠地から五十メートルほど離れたところから出発する。
 鬼は十数える間に、ほかの人間は本拠地に向けて移動する。
 ただし鬼が十数えて振り向いたとき、身動きしていてはならない。
 動いているのを見つけられたら鬼につかまり、本拠地に連れて行かれる。

 鬼に捕まることなく、本拠地にタッチしたら、それまで鬼に捕まっていた囚人は逃亡できる。
 その場合、鬼はタッチの瞬間から十数える。
 その十カウントの間に、囚人は逃げる。
 十数えたあと、鬼は十歩移動できる。
 その間に鬼がタッチした人間は、ふたたび囚人となる。

 全員が囚人となったら最初の囚人が鬼となり、ふたたびゲーム再開。

 こういうゲーム、皆さんもやりませんでした?
 なんと呼んでいました?

 ポピュラーなのは「ケイドロ」もしくは「ドロケイ」らしい。
 刑事と泥棒、ということですね。
 でも、そう呼んでいた記憶がないのだ。

 気になるので、友人に聞いてみた。
 友人A「あれねえ……たしかスパケン、と呼んでいたな」
 ぼく「どういう意味なんだ?」
 友人A「スパイと憲兵って意味じゃないか?」
 あんた、いつの時代の人なんだ。

 友人B「俺はルパンと呼んでいた」
 ぼく「ルパン?」
 友人B「ほら、よくあるじゃん。次元とか五右衛門とかが銭形のとっつぁんに捕まって、ルパンが助けに行くの」
 ううむ、実感はあるな。しかしちょっと頭悪そうなネーミング。

 友人C「デン切った、と呼んでいたぞ」
 ぼく「どういうこと?」
 友人C「ほら、本拠地にタッチして、囚人を助けるとき、『デン切った!』と叫ぶじゃないか」
 ……そんなこと、叫んだか?

 友人D「うちでは、ぼんさんがへをこいた、と呼んでいた」
 ぼく「何故?」
 友人D「鬼が十数えるとき、『ぼんさんがへをこいた』で数えるんだ」
 それは、「だるまさんがころんだ」でもいいんじゃないか?

 どうやら、攻守に別れての追いかけっこという形態上からの命名と、ゲーム中に発する音声からの命名と、大きく二通りに別れるようだ。皆様の情報を乞う。

 友人E「名前なんぞ知らん!」
 ぼく「やったことないのか?」
 友人E「やろうがやるまいが俺の勝手だ! いまいましい! 思い出したくもない!」
 ……こいつはどうも、どんくさい子供だったらしい。
 いつまでも鬼をやめられず、とうとう仲間が呆れて、そいつだけは捕まっても鬼にならないという特別待遇を受けるような。
 そんな奴いたよね。

 そういえば、そんな奴のことをなんと呼んでいたっけ。
 「オミソ」だったか、「ノーカン」だったか、それとも「ウンチ」だったっけ。
 どうにも気になって仕方がない。


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