タイガース・ジョークをしんさいな

 プロ野球もいよいよ開幕。甲子園に集まる阪神ファンには3種類の人間がいる。
「こんばんは」と挨拶するのは、昨夜から徹夜で行列していて、まだ寝ていない人間である。
「おはよう」と挨拶するのは、チケットを確保していて、昨夜ぐっすり寝た人間である。
「真弓タイガースは今年こそ優勝!」と叫ぶのは、まだ目が覚めていない人間である。


 デイリースポーツの開幕直前戦力分析。
 投手陣:岩田の復帰、新人榎田で万全の先発陣と、小林宏の加入でさらに厚みを増したリリーフ陣ががっちり噛み合って、球界最高レベル。
 打撃陣:俊介・平野の俊足コンビに、低反発球を苦にしないブラゼル・マートンの完璧外国人コンビ、さらに開幕延期で城島が滑り込みセーフ、新井も復調して、柴田・野原の新鋭と林・浅井・狩野ら中堅が競う打線は今年も12球団最強。
 首脳陣:これについて語ることは当社では禁じられている。


 甲子園球場に大きなカバンを持ちこんだ男がいた。危険物が入っているのではないかと、係員は男を尋問する。
「そのカバンには何が入ってるのですか?」
「このカバンには阪神首脳陣が入ってます」
「何ですって?」
「阪神首脳陣です」
 ますます怪しんだ係員は、カバンをあけた。
「なんだ、入ってるのはがらくたばっかりじゃないか」
「だから、言ったじゃありませんか」


「真弓監督は天才である。わずか6歳で、現在と同じ知性を備えていた」
「むしろ神童と呼ぶべきだろう。私は真弓の小学校の先生だったが、6歳の頃の真弓君は、今よりもずっと頭がよかった」


「ここが阪神球団の本社です」
「大きなビルですね。どのくらいの人がここでは働いているんですか」
「おおよそ、5分の1くらいですかね」


 元阪神OB会長の田宮謙二郎が死んだ。天国で神様に今年の阪神の活躍を見たいと頼み、地上に3時間だけ降ろしてもらった。
 マートンの先制打と新井のタイムリーを、城島のリードで久保が守り、小林宏が締めて鮮やかな勝利。
 田宮謙二郎は神様に言った。
「面白い試合だった。じゃあ、つぎは阪神の試合を見せてくれ」


 阪神の若手選手がぼやいた。
榎田「下柳さんが先発投手枠に入るから、僕は中継ぎだってさ。あーあ、この球団じゃ新人は報われないな」
柴田「先発投手なら外国人の帰国や岩田さんの怪我があるからまだいいさ。レフトの定位置となると、僕の孫の代まで……」


 金本が死んで地獄に堕ちた。悪魔は言う。
「ここでは地獄を選ぶことができる。見せてやるから、気に入った地獄を選べ」
 最初に案内された地獄は灼熱で亡者が真っ黒に焼けこげていた。金本は「これは気に入らないな」と言う。
 次に案内された地獄は大きな鉄の串で亡者が口から尻まで貫かれていた。金本は黙って首を横に振る。
 3番目の地獄は地上と同じ甲子園球場で、金本がレフトを守り、俊介がセンター、鳥谷がショートを守っていた。金本は言う。
「ここが気に入った。この地獄に入れてくれ」
 悪魔は笑って答えた。
「残念、ここは俊介と鳥谷の地獄だ」


 巨人の原監督が阪神の戦力分析をしていた。ヘッドコーチに聞く。
「阪神の金本は開幕に間に合いそうなのか?」
「ええ、開幕スタメンで出ると宣言しています」
「それならスコアラー2人を派遣しなければいけないな」
「いえ、金本は電撃移籍しまして、わが巨人軍のレフトで出場することになりました」
「ならばセンター2人とショート2人の合計4人は派遣しなければならないな」


 阪神の新鋭外野手がスタメンを争っていた。
 ひとりは高卒5年目。昨年ようやく長打力が開花し、二軍で20本塁打。しかし、鈍足が玉に瑕。
 二人目は大卒ルーキー。六大学で首位打者を2回獲得したシュアなバッティングが持ち味。しかし、長打力不足が玉に瑕。
 三人目は育成枠の外国人。俊足を活かした守備範囲の広さと、球界トップクラスの強肩を誇る。しかし、変化球が打てないのが玉に瑕。
 さて、この3人のうち、だれがレギュラーを獲得したでしょう?
 答え、金本。


 横浜と巨人と阪神の中継ぎ投手が、どんなときに幸せを感じるか話しあっていた。 横浜の中継ぎ投手が語る。
「ぼくは去年、ずっと調子が悪くて二軍暮らしだったんだ。そこへ突然電話がかかってきて、一軍の投手陣が壊滅したんですぐ横浜スタジアムへ来いっていうんだ。試合じゃ打たれたけど、一軍で投げたあの試合がいちばん幸せだったなあ」
 巨人の中継ぎ投手が語る。
「ぼくは一昨年、酷使が祟って肩を壊しちゃったんだ。それでずっと練習してたんだけど、ある日条辺さんから、お前の打つうどんはもう金が取れるレベルだ、って褒められたんだ。あのときはうれし涙が出たなあ」
 阪神の中継ぎ投手が語る。
「ぼくは去年、ずっとブルペンで待機してたんだ。そこへ久保コーチが現れて、『西村、緊急事態だからすぐにマウンドへ上がれ』って言うんだ。ぼくは答えた。『人違いです。西村は肩が痛いと言って病院に行きました』あのときは本当に幸せだったなあ」


 真弓監督は人望がないため、だれも監督室に電話をかけてこないことを悩んでいた。
 ある日監督室にたったひとりでいると、人が入ってくる気配がした。とっさに電話がかかってきたふりをする。
「ああ、なんだ落合君か。え? 桜井が欲しい? うーん、困ったなあ。桜井は原君からも欲しいって言われているんだよ。ジャイアンツは越智をくれるっていうんで、悩んでるんだ。ドラゴンズも小笠原くらいくれないと、釣り合いが取れないぞ。考えていてくれよ。今日は宮内君と三木谷君との会食があるんで、あした電話をくれるとありがたいな。じゃあ」
 真弓監督は電話を切ったふりをして、入ってきた男ににこやかに言う。
「すまないね、いろいろ忙しくて。要件はなんだね?」
「……失礼します。切断していた電話線の工事を頼まれていまして」


 甲子園球場を整備している阪神園芸の作業員に、真弓監督はにこやかに話しかけた。
「やあ、いつも精が出るね。こういう晴れの日はグラウンドが乾いて整備に疲れるだろう」
「いや、別に」
「じゃあ雨の日の方が大変だろう。シートを掛けたり、吸水したりして疲れるんじゃないかい」
「いや、別に」
「じゃあ、どういう時がいちばん疲れるのかね?」
「くだらん質問に受け答えするときですかね、監督」


 バント失敗が多いのに業を煮やした真弓監督は、自らバントをやってみせた。
 しかし選手たちは城島を中心に談笑していて、真弓のほうを見もしない。
 ついに木戸コーチが怒った。
「おい、おまえら、監督のバントを見ろ! 現役時代だって、バントのサインが出たらわざと空振りして、なかなかやろうとしなかったバントをやって見せているんだぞ!」


 楽天を解雇された中村紀洋が真弓監督のもとにやってきた。
「監督、ワイを傭ってもらうわけにはいきまへんやろか。打つほうではまだまだ自信がありまっせ」
「しかし君は、近鉄にいたころ、私のことを無能だとか役立たずだとか、さんざん言っていたんじゃないか」
「そうそう、正直なことにも自信があるんですわ」


「真弓阪神はもう駄目だ」と言い続けている悲観的な阪神ファンに、「何を言っているんだ。これまでだってそんなに悪いことは起こらなかったじゃないか」と楽観的な阪神ファンが反論した。
 悲観的阪神ファンは言い返した。「お前は、おれの親父みたいなことを言うね」
 楽観的阪神ファンは尋ねた。「お前の父親って?」
 悲観的阪神ファンは言った。「おれの親父は、61階建てのビルの屋上から転落したんだ。2階まで落ちたところで言ったそうだよ。『これまで60階分落ちたけど、命に別状はないじゃないか』ってね」


 野村監督は、自分の信じるところを述べた。
 星野監督は、自分の述べることを信じた。
 岡田監督は、自分の述べることが記者にはわからなかった。
 真弓監督は、自分の述べることが自分でわからなかった。


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