タイアップ

「最近のアニメとか特撮番組を見てると、ずいぶん変わってきてるな」
「そうか? 全然変わってないじゃん。相変わらず戦隊ものはあるし、ウルトラマンと仮面ライダーはあるし、女の子向けアニメは相変わらず魔法の国がどーのこーので変な道具を使って変身するし、男の子向けアニメは相変わらず主人公がツンツン頭で、ヘビメタみたいな恰好の敵と闘ってるし、深夜のアニメは相変わらず、メイド服の女さえ出してりゃヲタクどもは萌えるんだろみたいなぞんざいな製作方針で」
「いや、そういう脚本とか演出では過去の遺産を食いつぶしてるだけなんだが、スポンサーとの関係が変わってきたな、と」
「どういうこと?」
「俺たちが子供のころは、アニメや特撮のキャラクターや道具がオモチャになったじゃない。仮面ライダー変身ベルトとか、怪獣ソフビとか、ガンプラとか、キン消しとか、アッコちゃんの変身コンパクトとか、ミンキーモモのグルメポッポとか、トトメスバトンとか」
「そうだな」
「ところが今は、子供のあいだで流行しているものが、アニメや番組でとりあげられるんだよな。PHSが普及してきたらそれで変身するぴちぴちピッチとか、マウンテンバイクが流行したらそれで闘う韋駄天翔とか。ポケモンだってムシキングだって、最初にゲームやカードバトルがあって、それがヒットしてから、それで闘うアニメが作られたし」
「なるほど。昔は番組がオモチャを作ったけど、今はオモチャが番組を作るんだな」
「まあ、昔もそういうのはあったけどね。女子高生のあいだでヨーヨーが大流行したんで、スケバン刑事を作ったり」
「そういう事情じゃねえよ!」
「スケバン刑事2のころは、女子高生に鉄仮面が大人気だったよな」
「ますますありえねーよ!!」

「そんなわけで俺も、これから絶対にヒットする、子供向けアニメの案を考えてきました。まずモーラ」
「なんなんだモーラってのは」
「ほら昔、大流行したでしょ。毛むくじゃらの毛虫みたいなオモチャで、鼻先に糸がついてて、それでひっぱると、どんな狭い隙間でもすり抜けてくって奴」
「ああ、あったね。机の引き出しとか扉の隙間をくぐり抜けさせてたな」
「女の子のブラウスの下を、お臍んとこから首筋までくぐり抜けさせて、女の子、『ああン』って感じちゃったりしてな」
「そんな羨ましいこと、やったことねーよ!」
「これをリバイバルで大流行させ、さらにアニメを製作します」
「どんなアニメになるんだよ」
「舞台は近未来だな。悪い独裁者がこの国を支配し、みんなその支配下で苦しんでるんだ」
「ハードな設定だな」
「独裁者は人民の情報交換や会合を禁止し、鎖国してだれも国から出ていけないようにしてるんだ。物資も完全に統制して、勝手に民間で交易なんかもってのほか。あちこちに関所を置いて、そこには、ばかでかい扉にがっちりした錠がかけられ、だれも通ることができない」
「圧制だな」
「そこに正義のヒーロー登場。かれはモーラを操り、その頑丈な扉の隙間を、いともたやすくするするとすり抜けていく。かっくいー」
「かっこいいか?」
「最終回は独裁者の守る国境の扉。1メートルの厚さの鋼鉄で作られ、オリハルコンの錠前がかけられているこの扉は、鍵穴も隙間もびっしりと特殊セメントで固められ、蟻の這い出る隙間もない。勝ち誇る独裁者。『ぐはははは、さすがのお前も、この扉は抜けられまい。できるものならこの扉、さわることなく抜けてみろ。そしたら許してやる。ふはははは』」
「その独裁者、もうちょっとマシな方向に努力できなかったもんかな」
「ところが独裁者の耳元で『抜けたよ』とささやく主人公の声。『ま、まさか』驚いた独裁者は、部下に命じ、セメントを剥がし、錠前をはずして扉を開く。すると、その扉を主人公が悠々と通っていく。『扉にさわったの、ボクじゃなくておじさんたちだよね』」
「それじゃ、ただのとんち小僧だよ! 絶対ヒットしねえよ!」

「じゃあ、こういうのはどうだろう。ムシキングが大流行したから、それに対抗して」
「二番煎じだが、そのほうが安心できるかもな」
「メイドクイーン」
「安心できねえよ! なんだよそのメイドクイーンってのは!」
「秋葉原のメイド喫茶とタイアップして、メイドさんの写真のラミネートカードでカードバトルするゲームを流行させるんだ。ティアラのミキちゃんはJAMのユキちゃんに勝つとか、BSDの小悪魔カードは革命で弱いカードが強くなるとか」
「それ、オモチャでもなんでもねえよ!」
「メイドさんなんて、大人のオモチャみたいなもんだろ」
「わざと誤解を招くような言葉を使うなよ!」
「これをアニメ化するんだ。テレビ東京で日曜深夜二時半くらいがいいかな」
「勝手に局と時間帯を決めるな!」
「舞台は近未来」
「また近未来かよ!」
「核戦争で崩壊したビルの地下街にわずかに生存した人類。そいつらを奴隷化し、帝国を作ろうとする独裁者」
「また独裁者かよ!」
「そこで立ち上がった主人公。彼は、メイド召喚という、過去の世界からメイドさんを召喚する特殊能力をもつ。メイドを召喚し、そいつらを闘わせてバッタバッタと敵を倒してゆく」
「自分で闘えよ!」
「メイドさんも二十一世紀の秋葉原の華やかな風景から、とつぜん廃ビルの地下に連れてこられて、凄いショックを受けるんだな。でも主人公の命令に従わないと元の世界に帰してもらえないから、パフェとかクレープを武器に、泣く泣くモヒカンのヘビメタ兄ちゃんみたいな敵に挑んでいくんだ」
「かわいそうだろ! 帰してやれよ!」
「最終回、独裁者に闘いをいどむ主人公。最後の必殺技、奥義超メイド召喚!」
「やっぱり呼ぶのかよ!」
「ところが現れたメイドさんは、今までのメイドと違って、ボロボロの廃ビルを見ても、怖ろしい顔の独裁者を見ても、ぜんぜん驚かない」
「なぜなんだ?」
「よく聞いてみたら、そのメイドさん、ウィッシュドールで働いていた」
「やめろぉ!」


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