ラグビー新選組!!!

 いろいろあって近藤勇、沖田総司と別れ、たったひとり北海道へ向かう土方歳三。しかし便利ですな、この「いろいろあって」てのは。
 蒸気船に乗りこんだものの、蝦夷地に着くまではとくに何もすることがありません。暇をもてあました歳三、ふと甲板に転がっている、楕円形のボールに気がつきました。
「おお、懐かしいのう。京にいたころはこのボールで、毎日薩長の連中を苦しめていたものだ」
 近藤と沖田の面影が浮かぶ、抜けるような青い空にむかってハイパント。蹴ると同時に突進、自分でチェイス。ジャンプして受け止めると同時に倒れこむ。腕が伸びてラインの内側に。トライ。
「トレビアーン!」
「おお、ブリュネ殿でござるか」
 歳三は照れくさそうに笑い、フランスから派遣された戦術教官のブリュネのほうへ振り返ります。
「ラグビー、オヤリデシターカ」
「いささか」
「サツマ、チョーシュー、本場イングランドのラグビー、学ンデイマース。ワレワレフランス、イングランドに恨ミ、アリマース。前回ワールドカップ、準決勝デ負ケター」
「われわれ幕府勢も、伏見で破れ、江戸で不戦敗、甲府で破れ、会津で破れ」
「マダ、笛ガ鳴ッタワケデハ、アリマセーン」
「むろん、イギリスと薩長に、ひとあわもふたあわも吹かせてみせる所存」

 蝦夷地におりたった幕府軍、まず松前城を占拠して陣地を作ります。やがて函館の街を占領し、五稜郭に本陣を作ります。
 そこまではよかったが、やがて薩長の怒濤のような攻撃が押し寄せてまいります。
 幕府軍は榎本監督のゲームプランで、守りを固めつつ機を見てカウンターで敵陣に斬りこむ布陣をひきます。
 函館をナンバーエイト松平太郎と左ウイング永井尚志が守り、二股から左フランカーの土方歳三、江差から右フランカー伊庭八郎の両剣豪が斬りこむ姿勢をみせつつ、宮古湾に置いた右ウイングの甲賀源吾、右センターの荒井郁之助が意表を突いて甲鉄艦に奇襲するというみごとな作戦。
 しかし相手の背の高さを知らなかったため、マイボールラインアウトのセービングに失敗、しかも荒井郁之助のノックオンと甲賀源吾のノットリリースザボールを招き、作戦は大失敗。さらに甲賀源吾と伊庭八郎が痛んでしまい退場、逆に敵に陣地深く、22メートルラインまで攻めこまれる事態を招いてしまいます。
 二股で形勢を見ていた歳三も、孤立し、もうカウンターのキックは来ないと見きわめ、やむなく自陣に撤退いたします。

 作戦会議では歳三と大鳥圭介が激論です。
「もはやロスタイムに入り、しかも2ゴール2コンバージョンでも逆転できない大差。これ以上試合を続けてもなんの意味もない」
「試合を捨てろ、と言われるか。ラガーマンにとって大切なのは、最後まで試合を捨てない姿勢でござるぞ」
 榎本監督の裁断で、ともかく最後までプレーすることに決まります。

 そして五稜郭最後の日。
 薩長軍はなにしろ人材豊富でありますから、リザーブの選手をどんどん繰り出し、みんな休養充分で元気いっぱい。対する幕府軍は連戦で疲れ切っています。もっとも危険な時間帯です。
 左フランカーの歳三は、ナンバーエイトの松平太郎、左フッカーの星恂太郎、左ウイングの中島三郎助に、
「私がボールを持って敵陣に錐のようにもみこんでゲインを取る。諸君はそれに続いてモールを作ってくれ。もはや自陣に還ることはあるまい」
 その言葉通り、パスを受けた歳三、とても人間とは思えぬ勢いでつっこんでいきます。タックルがまるで触ってもいないようにヒラリヒラリと抜けていく。あまりの勢いに、モールどころか、味方のだれもついていくことができません。
 いよいよ敵陣22メートルラインを越えて一本木が見えてきたころ、ようやく態勢をととのえた敵のスリークォーターバックスにぶつかります。
 長州人らしい右ウイングが、歳三に話しかけます。
「いずれの方か。ノーサイドの笛には、まだ時間があると思われるが。それとも、ペナルティを狙いに来られたのかな」
 歳三は立ち止まり、ゆっくりと振り返って、微笑むと凄みがあると言われたことのある三白眼をちょっと細め、言います。
「新撰組副長が敵陣に用事があるとしたら、トライを取りにいくだけよ」
 歳三は馬腹を蹴ってその頭上を跳躍した。
 鋭い笛が鳴りひびきます。
「スタンピング。反則。ノーサイド」


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