ワールドカップ栄枯盛衰

「いや、ついに日本勝ちましたね。歴史的なワールドカップ初勝利で、決勝トーナメントへ王手」
「勝った相手、ロシアだけどな」
「別にロシアだってかまわないじゃないか!」
「いや、ロシアじゃ相当荒れているらしいよ。暴動が起きたり、日本人観光客を袋だたきにしたり」
「そうらしいね」
「どうせなら、日本に来て暴動やってくれた方が面白いんだけど」
「そういうこと言うなよ! あれだけ警戒してるんだから」
「向こうでは日露戦争の再来と言われているらしいな。ロシアという名前では日本に連敗してるけど、ソ連では大祖国戦争で勝っているというので、国名をソ連に戻すという運動が起こっているとか」
「いいかげんなこと言うなよ! ともかく、日本中が大喜びしてるんだから」
「俺は別に嬉しくないけどな」
「おまえだけだよ! 世間を見ろよ! 街中でも日本代表のユニフォームを着た若いのがうろちょろ」
「なんかあーゆーのって、外国の真似そのものって感じで軽薄だよな」
「お前みたいな軽薄の代表に言われたくないよ!」
「でもさ、サッカーの応援って外国の真似ばっかりでつまんないんだよな。日本には日本の応援スタイルってのがあるだろ」
「まあ、そうだな」
「やっぱり日本の応援としたら、ユニフォームはいいけど、そのうえにワールドカップ法被を羽織らないと。もちろん、背中に『必勝』と書いてるやつだな。できれば袖のところにギザギザ模様」
「新選組かよ!」
「あと日本人なら忘れちゃならないのがはちまき。ワールドカップロゴを中心に、必勝と書いた二メートルくらいの長いやつ。それから扇子。もちろんこれも必勝だ」
「なんとなく、日本人らしいな」
「この格好でサッカー場に行けば最強だぜ。カメルーンサポーターに会ったら、『いやぁ、遠いところからようこそご苦労さんで。五日遅れるなんて些細なことですぜジャンボ』、ブラジルサポーターに会ったら、『よっ、旦那強くて羨ましいざんすね。決勝トーナメントではどうかお手柔らかにチュッチャ』、ドイツサポーターに会ったら、『いよっ、八点なんてなかなか取れるもんじゃござんせんよ。いちど秘訣を教えてほしいあやかりたいヒットラー』と」
「それって、まるっきりタイコモチじゃないか! 最後の言葉も意味不明だし!」
「出場国をもてなすのは、ホスト国の義務だ」
「そういう問題じゃないだろ!」
「その点ロシアに勝っちゃったのは、接待サッカーとして問題があるな。日本ってのは勝ちそうで勝たない、決定的なチャンスで鈴木がヘマをするところに妙味があるのに。トルシエ、クビになるぞ」
「接待麻雀で役満をあがっちゃった新入社員かよ! いいじゃないか、決勝トーナメント確実なんだから」
「その確実がいつの間にか消えてしまうのが日本」
「いやなこと言うなよ」
「日本って国は詰めが甘いのが伝統なんだよな。太平洋戦争では、真珠湾攻撃でアメリカ艦隊を叩いておきながらミッドウェイで大敗。秀吉の朝鮮征伐では、はじめ朝鮮半島を占領したがゲリラ戦で糧食を絶たれて大敗。天智天皇のときは、朝鮮半島に橋頭堡を築いていながら、大軍を送った白村江で大敗。だいたい最初は威勢がいいけど、最後に大敗するパターンなんだよな」
「せめて例をあげるなら、ドーハの悲劇とか言えよ!」
「いや、あれは単に弱っちくて負けただけの順当負けだから」
「いいかげんにしろ!」


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