乳房界における左と右

 前回の駄文では横乳に対する縦乳の優位を力説したが、むろん、横乳も決して侮るべきものではない。特に横乳は、コスプレと相性がよい。
 チャイナドレスから見える横乳は小ぶりがいい。タンクトップからこぼれる横乳は健康的で、ちょっと汗の香りがする。ナースのノースリーブの夏服からこぼれる横乳は、不治の患者さえも癒す。セーラー服の夏服。横のボタンを留め忘れて、つい見せてしまった横乳と、それに気づいた少女の羞恥の表情は、遠い夏の日の思い出である。しかしなんといっても、横乳は裸エプロンにとどめを刺す。
 裸エプロン。この言葉を聞いて、顔がほころばぬ男性はおりますまい。まさにコスプレ界の王者といって過言ではない。前だけ覆っていて、横と後ろがまったくの無防備、というシチュエーションがいい。生活のイメージの濃いエプロンに、敢えて非日常を持ちこんだ、そのアンビバレンツな感覚がわれわれを惑乱させる。若妻、新妻、少女妻。こうした言葉が、これほど似合う衣服はないだろう。妻という言葉を、もっとも美しく見せるもの、それが裸エプロンである。
 どれほど誉めても誉めたりない裸エプロンであるが、やはりこのコスプレは、丸見えの尻よりも、横からこぼれ見える横乳が、素晴らしい。これを見せたくて、人間はエプロンを発明したのではないか、そう思えてくるほどである。ビバ裸エプロン。ビバ横乳。

 下乳を見ると、男性はつい押し上げてみたい、という衝動を感じるが、横乳には、つい指先でつんつん押してみたくなる衝動を感じる。そして衝動に負けて押してしまう。これは「横乳プッシング」といわれる本能的行動で、雄の種族保存本能に根ざしている。三歳の男児が母親の横乳をプッシュしたという報告もされているし、幼時から地下牢で隔離されて育ったカスパール・ハウザーも、はじめて見た女性の横乳を押した。これはドイツの法律家、フォイエルバッハが、自伝の中で感嘆とともに述べている。
 触るのでなく、押す、という行動はどこから来るのだろうか。おそらく性的にもっとも効果的な刺激策を、本能的に選択しているのだろう、と推測される。つまり横乳は脇腹や脇の下に近い。人体の中で、もっともくすぐったがる部位だ。脇腹をつん、と突かれ、笑ってしまった経験のある人も多いだろう。
 つまり男性がつん、と突いてきた場合、女性としては、その指が乳を襲うのか、脇の下を襲うのか、わからない。乳なら快感を感じるだろうし、脇の下もしくは脇腹だと、くすぐったく感じる。何をされるか、何を感じるか、わからないという緊張感と不安感。これが快感を増幅させる。雄はこれを、本能的に知っているのだ。

 横乳はどちらから見てもたいした変わりはない。だからといって、右と左のどちらを押しても同じだ、などと考えてはならない。それは思想的偏向である。左優位、これは動かすことのできない科学法則なのである。君に言う、左を押したまえ。
 まず左胸には、心臓がある。つまり、左乳は心臓の上に存在しているのである。心臓に近い、ということは、右乳より血流も盛んで酸素供給も多い。おまけに左胸をまさぐると、心臓の脈動も感じられる。つまり左胸は右胸より新鮮で活発でぬくもりがある、ということなのだ。
 左胸の優位はこれだけではない。横乳はつい指先で押してみたくなると前に述べたが、こうした行動への反応として、ふつう押された女性は、腕をあげて横乳プッシャーに向け、物理的排除行動を行う。いわゆる「平手打ち」「グーパンチ」と呼ばれる行動である。
 さて、人間の大多数は右利きである。右乳を押した場合、当然のことながら男性は女性の右に位置する。つまり、女性の右腕にもっとも近く、もっとも殴りやすい位置にあるのである。左乳を押す男性は女性の左側面におり、右腕で殴りにくい。左腕で殴るとしても、利き手でないため、どうしても威力において右腕に劣る。
 つまり右に比べ、左乳へのプッシングは、得られるものは右より大きく、おまけに受ける罰則も右より小さい。コストパフォーマンスの差は大である。
 ぜひ今後は、「押すなら左乳」をモットーに、各界諸氏は奮励努力されんことを願いつつ、この一文を終わらせていただく。


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