大阪近鉄バッファローズに就いて

 というタイトルを付けると「バッファローズでなくバファローズだ。そんなことも知らんのか」とのお叱りが来ることは承知している。しかし水牛のことはふつうバッファローと呼ぶ。バファローとは言わない。だからバッファローズが正しいのだ。一私企業によって日本語をねじ曲げることは許しません! この手の歪曲でもっとも悪質なのは Canonという企業で、「あくまでうちの社名はキヤノンです。キャノンじゃないですから、そこんとこヨロシク」などと言うのだ。しかし Canonをキヤノンと呼ぶ読み方など一度も習ったことがない。 Canonは全キヤノン社員が何と言おうとキャノンなのだ。キャノン以外の読み方はあり得ないのだ。キャノンだったらキャノンなのだ! 悔しかったら社名を Ciyanonとでも改名してみやがれ!

 などと全然関係ないことで激している場合ではない。近鉄の愛称バッファローズは十二球団の中で唯一個人に由来することは有名である。昔は近鉄沿線が伊勢志摩を通っていたことから特産物の名を取ってパールズと呼ばれていた。それが巨人から千葉茂を監督に迎えるとき改名した。千葉は現役時代、頭から突進するような荒々しい守備と打撃から「猛牛千葉」と呼ばれた。近鉄はそこで猛牛を英語に翻訳し、バッファローズという名前にした。岡本太郎に依頼してバッファローのシルエットを模したマークも作った。未だに十二球団で最も洗練されたデザインとして知られる。

 さてしかしバッファローズは本当にバッファローなのかという疑問がある。千葉茂の愛称「猛牛」はおそらく外国産の牛ではなく、宇和島の牛相撲とか大山倍達が眉間を一撃した牛とか白土三平の漫画によく出てくる狂い牛をイメージしたものだろう。それなら英語では Bullだろう。まさか Cowではあるまい。すると近鉄ブルズとなって、強いことは強いがどちらかというとバスケットチームになってしまいそうだ。そんなこともあってブルズは遠慮したのかもしれない。
 しかしバッファローかバイソンかという疑問がなおも残る。南アジアやアフリカにいる角が半円形に長く伸びた水牛はバッファロー、アメリカやヨーロッパにいる角の短い首のない牛がバイソン。野牛などとも呼ばれる。しかしこれは野生の牛すべてを指す場合もあるので注意が必要だ。両者は絶望的なくらい混同されている。バイソンのことをバッファローと呼ぶ人間が後を絶たないのだ。アメリカ西部でバイソンを何千頭も撃ち殺した無法者が「バッファロー・ビル」と呼ばれたり、バイソンが好んで食べる草を「バッファローグラス」、バイソンの頭毛に巣を作る小鳥を「バッファローバード」と呼んでいる有様だ。「動物記」で有名なシートンさえ「バッファローの大移動」という題でバイソンのことを書いている。最近は親切のつもりかバイソン(バッファロー)と書くことが多い。「通称バッファローで知られているが、本当はバイソンと言うのが正解なのですよ」と啓蒙するつもりなのだろうが、どっちが通称でどっちが正式名称なのか分からなくなって余計にややこしい。バッファロー(バイソン)とバイソン(バッファロー)の違いが分かるだろうか。牛(バッファロー)とか赤べこ(雌牛)とかバイソン(水牛)とか小松左京(件)とか件(内田百間(本当は月))となるとますます訳が分からない。
 岡本太郎のデザインしたマークを見ると、角が長く半円形に伸びている。これは明らかに水牛のバッファローいわゆる正式名称バッファローアジアやアフリカに住んで水浴びが好きなバッファローの特徴だ。だから近鉄は本当はバイソンのバッファローではなく、本当にバッファローのバッファローなのだ、と結論する人もおられるかと思う。しかしこれを見てほしい。近鉄バッファローズの公式サイトだ。ここで球団創設五十周年を記念して作成したマークを見よ。角が短い。頭毛がもじゃもじゃしている。これは明らかに本当はバイソンであるバッファロー、アメリカやヨーロッパの水のない平原に棲むバイソンの特徴だ。それに見よ、公式サイトの「バフィーリードと愉快な仲間たち」を。そこには明らかに「バファロー(アメリカバイソン)をモチーフに描かれたメインキャラクター」と書いているのだ。アメリカとまで限定しているのだ。ヨーロッパに細々と生存する親類なんか知らないというのだ。
 そうしてみると近鉄はいわゆるバッファローのバッファローもアメリカバイソンのバッファローも日本産牛のバッファローも包含したバッファローのイデアを追求しているのだろうか。バッファローキングなのだろうか。バッファローといえばもうひとつ有名なものに、「キン肉マン」に登場するバッファローマンがいる。「超人データファイル」によると「スペイン出身」となっている。おそらくスペインの闘牛をイメージしたのだろう。しかし闘牛に使う牛は日本の牛と同じ、 Bullである。だから正式にはブルマンと名乗るのが正しい。しかしそれではコーヒー超人と間違えられる。仕方なくバッファローマンと名乗ったと推察するがいかがか。バッファローマンの頭の角は半円形に長く伸びて本当のバッファローの特徴である。しかし頭毛はもじゃもじゃと縮れ毛でこれはいわゆるバッファローであるバイソンの特徴である。しかしながらこれは鬘ということなので証拠にはならない。しかし後には角も折れてしまったのですべての特徴を失い、只のハゲ超人となってしまった。哀れである。しかしハゲでも超人の方が本当の只のハゲよりはいいかもしれない。近鉄もいっそのこと混乱を避けるためにパールズの愛称に戻した方がいいのかもしれない。しかし冒頭に「大阪」をつけてしまった今となっては「大阪近鉄パーデンネン」などと呼ばれるのが明白なのでやめた方がいいかもしれない。最後にこの一文を読んでますます訳が分からなくなった方もおられるかもしれないが、そう思っていただければ目的を達成できたわけで望外の喜びである。


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