優勝請負監督を採点する

 いわゆる「優勝請負人」と呼ばれる監督がいる。古くは三原、最近では広岡のように、複数の球団を率い、行く先で優勝を達成した監督のことだ。日本プロ野球史上、複数球団での優勝を達成した監督はこれまで八人いる。三球団で優勝したのが西本(大毎、阪急、近鉄)と三原(巨人、西鉄、大洋)のふたり。二球団での優勝が藤本(巨人、阪神)、水原(巨人、東映)、広岡(ヤクルト、西武)、野村(南海、ヤクルト)、仰木(近鉄、オリックス)、王(巨人、ダイエー)の六人。いやむろん野村監督は三球団目での優勝を狙っているわけなのだが。
 これらの優勝請負監督の中で、誰がもっとも優秀か。単純に勝ち星で比べると1687勝の三原がトップ、1657勝の藤本が僅差の二位だ。しかしこれは、監督としての在籍期間が長い方が有利になる。
 勝率で比べるという手もあるが、もともと強い巨人軍を率いた経験のあるふたりと、弱小の近鉄・阪急を育て上げてきた西本を、単純に勝率で比べるのも気の毒だ。ここでは、複数球団優勝監督たちの率いた全球団について、在籍していた期間の勝率と、その前後三年間の勝率を比較してみることにした。こうすれば、その監督になってどれだけチームが強くなったか、客観的に判断できるのではないか。

 チームの勝敗は「ベースボール・レコード・ブック」から。その年の勝敗を載せている。そのため途中休養や途中辞任で若干の過不足が生じているが、正確な資料が手元になかったのでご容赦いただきたい。


1.各監督の年度別成績
2.成績の比較


1.各監督の年度別成績

藤本定義(1904年生)
 東京巨人軍監督 1936年〜1942年(優勝5回)
 パシフィック監督 1946年〜1947年
 金星スターズ監督 1948年〜1956年
 阪急ブレーブス監督 1957年〜1958年
 阪神タイガース監督 1962年〜1968年(優勝2回)

東京巨人軍
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
在籍中 1936 20-14 1 422-168 .715 1.29
1937 71-31 2
1938 54-20 2
1939 66-26 1
1940 76-28 1
1941 62-22 1
1942 73-27 1
後三年間 1943 54-27 1 137-80 .631 1.33
1944 19-14 2
1946 64-39 1

   (注:球団創設監督なので、就任前の勝敗はない)

パシフィック
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1942 49-50 4 102-108 .486 4.00
1943 41-36 3
1944 12-22 5
在籍中 1946 42-60 7 92-124 .426 7.00
1947 50-64 7
後三年間 1948 61-74 6 211-190 .526 5.00
1949 52-81 8
1950 98-35 1
金星スターズ
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前二年間 1946 43-60 6 84-134 .385 7.00
1947 41-74 8
在籍中 1948 61-74 6 487-652 .428 5.44
1949 52-81 8
1950 62-54 3
1951 41-52 4
1952 55-65 4
1953 63-53 3
1954 43-92 8
1955 53-87 6
1956 57-94 7

   (注:金星は1946年創立、1957年にトンボと合併)

阪急ブレーブス
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1954 66-70 5 234-194 .547 4.00
1955 80-60 4
1956 88-64 3
在籍中 1957 71-55 4 144-106 .576 3.50
1958 73-51 3
後三年間 1959 48-82 5 166-231 .418 4.67
1960 65-65 4
1961 53-84 5
大阪タイガース
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1959 62-59 2 186-188 .497 3.00
1960 64-62 3
1961 60-67 4
在籍中 1962 75-55 1 501-431 .538 2.29
1963 69-70 3
1964 80-56 1
1965 71-66 3
1966 64-66 3
1967 70-60 3
1968 72-58 2
後三年間 1969 68-59 2 202-172 .540 3.00
1970 77-49 2
1971 57-64 5

水原茂(円裕)(1909年生)
 読売ジャイアンツ監督 1950年〜1960年(優勝8回)
 東映フライヤーズ監督 1961年〜1967年(優勝1回)
 中日ドラゴンズ監督 1969年〜1971年

読売ジャイアンツ
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1947 56-59 4 224-162 .580 2.67
1948 83-55 2
1949 85-48 1
在籍中 1950 82-54 3 881-499 .638 1.36
1951 79-29 1
1952 83-37 1
1953 87-37 1
1954 82-47 2
1955 92-37 1
1956 82-44 1
1957 74-53 1
1958 77-52 1
1959 77-48 1
1960 66-61 2
後三年間 1961 71-53 1 221-171 .564 2.00
1962 67-63 4
1963 83-55 1
東映フライヤーズ
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1958 57-70 5 176-211 .455 4.33
1959 67-63 3
1960 52-78 5
在籍中 1961 83-52 2 526-429 .551 2.43
1962 78-52 1
1963 76-71 3
1964 78-68 2
1965 76-61 2
1966 70-60 3
1967 65-65 3
後三年間 1968 51-79 6 162-219 .425 5.00
1969 57-70 4
1970 54-70 5
中日ドラゴンズ
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1966 76-54 2 198-192 .508 3.33
1967 72-58 2
1968 50-80 6
在籍中 1969 59-65 4 179-195 .479 3.67
1970 55-70 5
1971 65-60 2
後三年間 1972 67-59 3 201-169 .543 2.33
1973 64-61 3
1974 70-49 1

三原脩(1911年生)
 読売ジャイアンツ監督 1948年〜1949年(優勝1回)
 西鉄ライオンズ監督 1951年〜1959年(優勝4回)
 大洋ホエールズ監督 1960年〜1967年(優勝1回)
 近鉄バファローズ監督 1968年〜1970年
 ヤクルトアトムズ監督 1971年〜1973年

読売ジャイアンツ
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1944 19-14 2 139-112 .554 3.00
1946 64-39 2
1947 59-56 5
在籍中 1948 83-55 2 168-103 .620 1.50
1949 85-48 1
後三年間 1950 82-54 3 244-120 .670 1.67
1951 79-29 1
1952 83-37 1
西鉄ライオンズ
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前一年間 1950 51-67 5 51-67 .432 5.00
在籍中 1951 53-42 2 680-458 .598 2.11
1952 67-52 3
1953 57-61 4
1954 90-47 1
1955 90-50 2
1956 96-51 1
1957 83-44 1
1958 78-47 1
1959 66-64 4
後三年間 1960 70-60 3 213-184 .537 3.00
1961 81-56 3
1962 62-68 3

    (注:西鉄は1950年創設)

大洋ホエールズ
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1957 52-74 6 152-232 .396 6.00
1958 51-73 6
1959 49-77 6
在籍中 1960 70-56 1 509-546 .482 3.63
1961 50-75 6
1962 71-59 2
1963 59-79 5
1964 80-58 2
1965 68-70 4
1966 52-78 5
1967 59-71 4
後三年間 1968 59-71 5 189-189 .500 3.67
1969 61-61 3
1970 69-57 3
近鉄バファローズ
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1965 46-92 6 153-245 .384 6.00
1966 48-82 6
1967 59-71 6
在籍中 1968 57-73 4 195-183 .516 3.00
1969 73-51 2
1970 65-59 3
後三年間 1971 65-60 3 171-203 .457 3.67
1972 64-60 2
1973 42-83 6
ヤクルトアトムズ
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1968 64-66 4 155-227 .406 5.00
1969 58-69 5
1970 33-92 6
在籍中 1971 52-72 6 174-204 .460 4.67
1972 60-67 4
1973 62-65 4
後三年間 1974 60-63 3 169-195 .464 4.00
1975 57-64 4
1976 52-68 5

西本幸雄(1922年生)
 大毎オリオンズ監督 1960年(優勝1回)
 阪急ブレーブス監督 1963年〜1973年(優勝5回)
 近鉄バファローズ監督 1974年〜1981年(優勝2回)

大毎オリオンズ
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1957 75-52 3 219-163 .573 3.00
1958 62-63 4
1959 82-48 2
在籍中 1960 82-48 1 82-48 .631 1.00
後三年間 1961 72-66 4 196-221 .470 4.33
1962 60-70 4
1963 64-85 5
阪急ブレーブス
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1960 65-65 4 178-219 .448 4.33
1961 53-84 4
1962 60-70 4
在籍中 1963 57-92 6 792-655 .547 2.55
1964 79-65 2
1965 67-71 4
1966 57-73 5
1967 75-55 1
1968 80-50 1
1969 76-50 1
1970 64-64 4
1971 80-39 1
1972 80-48 1
1973 77-48 2
後三年間 1974 69-51 2 212-155 .578 1.33
1975 64-59 1
1976 79-45 1
近鉄バファローズ
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1971 65-60 3 171-203 .457 3.67
1972 64-60 2
1973 42-83 6
在籍中 1974 56-66 5 510-460 .526 3.13
1975 71-50 2
1976 57-66 4
1977 59-61 4
1978 71-46 2
1979 74-45 1
1980 68-54 1
1981 54-72 6
後三年間 1982 63-57 3 173-183 .486 3.67
1983 52-65 4
1984 58-61 4

広岡達朗(1934年生)
 ヤクルトスワローズ監督 1977年〜1979年(優勝1回)
 西武ライオンズ監督 1982年〜1985年(優勝3回)

ヤクルトスワローズ
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1974 60-63 3 169-195 .464 4.00
1975 57-64 4
1976 52-68 5
在籍中 1977 62-58 2 178-173 .507 3.00
1978 68-46 1
1979 48-69 6
後三年間 1980 68-52 2 169-185 .477 4.00
1981 56-58 4
1982 45-75 6
西武ライオンズ
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1979 45-73 6 168-198 .459 4.67
1980 62-64 4
1981 61-61 4
在籍中 1982 68-58 1 295-204 .591 1.50
1983 86-40 1
1984 62-61 3
1985 79-45 1
後三年間 1986 68-49 1 212-145 .594 1.00
1987 71-45 1
1988 73-51 1

野村克也(1935年生)
 南海ホークス監督 1970年〜1977年(優勝1回)
 ヤクルトスワローズ監督 1990年〜1998年(優勝4回)
 阪神タイガース監督 1999年〜

南海ホークス
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1967 64-66 4 193-193 .500 4.00
1968 79-51 2
1969 50-76 6
在籍中 1970 69-57 2 513-472 .521 2.75
1971 61-65 4
1972 65-61 3
1973 68-58 1
1974 59-55 3
1975 57-65 5
1976 71-56 2
1977 63-55 2
後三年間 1978 42-77 6 136-227 .375 5.67
1979 46-73 5
1980 48-77 6
ヤクルトスワローズ
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1987 58-64 4 171-205 .455 4.33
1988 58-69 5
1989 55-72 4
在籍中 1990 58-72 5 628-552 .532 2.67
1991 67-63 3
1992 69-61 1
1993 80-50 1
1994 62-68 4
1995 82-48 1
1996 61-69 4
1997 83-52 1
1998 66-69 4
後一年間 1999 66-69 4 66-69 .489 4.00
阪神タイガース
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1996 54-76 6 168-232 .420 5.67
1997 62-73 5
1998 52-83 6
在籍中 1999 55-80 6 55-80 .407 6.00

仰木彬(1935年生)
 近鉄バファローズ監督 1988年〜1992年(優勝2回)
 オリックスブルーウェーブ監督 1994年〜(優勝2回)

近鉄バファローズ
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1985 63-60 3 181-181 .500 3.67
1986 66-52 2
1987 52-69 6
在籍中 1988 74-52 2 363-264 .579 1.60
1989 71-54 1
1990 67-60 1
1991 77-48 2
1992 74-50 2
後三年間 1993 66-59 4 183-196 .483 4.00
1994 68-59 2
1995 49-78 6
オリックスブルーウェーブ
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1991 64-63 3 195-183 .516 3.00
1992 61-64 3
1993 70-56 3
在籍中 1994 68-59 2 429-348 .552 2.00
1995 82-47 1
1996 74-50 1
1997 71-61 2
1998 66-66 3
1999 68-65 3

王貞治(1942年生)
 読売ジャイアンツ監督 1984年〜1988年(優勝1回)
 ダイエーホークス監督 1995年〜(優勝1回)

読売ジャイアンツ
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1981 73-48 1 211-148 .588 1.33
1982 66-50 2
1983 72-50 1
在籍中 1984 67-54 3 347-264 .568 2.20
1985 61-60 3
1986 75-48 2
1987 76-43 1
1988 68-59 2
後三年間 1989 84-44 1 238-150 .613 2.00
1990 88-42 1
1991 66-64 4
福岡ダイエーホークス
年度 勝敗 順位 通算勝敗 勝率 平均順位
前三年間 1992 57-72 4 171-212 .446 4.67
1993 45-80 6
1994 69-60 4
在籍中 1995 54-72 5 316-338 .483 3.80
1996 54-74 6
1997 63-71 4
1998 67-67 3
1999 78-54 1

2.成績の比較

 まずは各人の通算成績を比較しよう。

各監督の通算成績
氏名 就任前 在任中 退任後
勝敗 勝率 平均順位 勝敗 勝率 平均順位 勝敗 勝率 平均順位
藤本定義 606-624 .493 4.27 1646-1481 .526 3.52 853-673 .559 3.50
水原茂(円裕) 598-565 .514 3.33 1586-1123 .585 2.00 584-559 .511 3.11
三原脩 650-883 .424 5.00 1726-1494 .536 2.96 986-891 .525 3.20
西本幸雄 568-585 .493 3.56 1384-1163 .543 2.70 581-559 .510 3.11
広岡達朗 337-393 .462 4.33 473-377 .556 2.14 381-330 .536 2.50
野村克也 532-630 .458 4.67 1196-1104 .520 2.89 202-296 .406 5.25
仰木彬 376-364 .508 3.33 792-612 .564 1.82 183-196 .483 4.00
王貞治 382-360 .515 3.00 663-602 .524 3.00 238-150 .613 2.00

 ここで単純に勝率や平均順位を比べることにはあまり意味がない。ON砲はじめ全盛期のジャイアンツを率いた水原監督と、お荷物球団の阪急や近鉄を鍛えてなんとか優勝させた西本監督では、勝ち星に差が出るのは当然だろう。むしろ、就任してからどれだけチームを伸ばしたかを見ていきたい。
 就任前と在任中でどれだけ上昇したか、記録を比べてみよう。

就任前、在任中、退任後の比較(太字は最高成績、赤字はマイナス)
氏名 就任前と在任中 在任中と退任後 就任前と退任後
勝率の上昇 平均順位の上昇 勝率の上昇 平均順位の上昇 勝率の上昇 平均順位の上昇
藤本定義 .033 0.75 .033 0.02 .066 0.77
水原茂(円裕) .071 1.33 .074 1.11 .003 0.22
三原脩 .112 2.04 .011 0.24 .101 1.80
西本幸雄 .050 0.86 .033 0.41 .017 0.45
広岡達朗 .094 2.19 .020 0.36 .074 1.83
野村克也 .062 1.78 .114 2.36 .052 0.58
仰木彬 .056 1.51 .081 2.18 .025 0.67
王貞治 .009 .089 1.00 .098 1.00

 さすが名監督、全員が成績をアップさせている。中でも特筆すべきは、勝率を一割以上伸ばし、さらに順位も二位以上伸ばしている三原監督だろう。まさに最強の監督である。
 広岡監督も順位を二つ以上伸ばしている。勝率の上昇も九分四厘で二位だし。準最強監督であろう。もっともこの人、強いうちにチームを投げ出す、という癖があるので、それが優秀な成績につながったのかもしれない。
 現役コンビでは、野村監督と仰木監督の成績も優秀である。特に野村監督は、これ以上落ちようのないチームを率いており、今後の上昇が期待される。
 王監督はあまり芳しからぬ成績だ。勝率はたった九厘だし、順位はまったく上げていない。名監督、とは言いがたい成績だ。まあ、今年のダイエーは調子がいいし、少しは成績が上がることだろう。二位以上なら平均順位が上昇するのだから。

 退任後の成績がどう変化するかというのは、一概には言えないようだ。やはり名監督が辞めたのだから、成績の落ちたケースが多いが、中には上がったものもある。これは後任監督次第だろう。
 ただ面白いのは監督の在任中の成績でなく、その前後の成績を比較した場合である。三原監督や広岡監督のように、チームの成績を確実にアップさせる「健全育成タイプ」と、仰木監督や野村監督のように、在任中の成績はいいが退任すると弱小チームに戻ってしまう「元の木阿弥タイプ」にはっきり分かれた。まあ、これもチーム作りをするオーナーの心がけ次第なのかもしれないが。

 
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