1 柿本人麻呂
大豊は阪神にいませば球場の 塀の外にはとどかざるかも
2 長奥麻呂
神宮の外まで聞ゆ点取ると 傘ふりかざす右翼の呼び声
3 大伴旅人
やすみししわが大豊の食國は 名古屋も此処も同じとぞ念ふ
4 高田虫麻呂
千萬の軍なりとも言挙せず 取りて来ぬべき武田とぞ思ふ
5 山上憶良
平塚も空しかるべき萬代に 語りつぐべき名は立てずして
6 笠金村
川尻の腕振りかざし投げる球を 後見む人は語りつぐがね
7 山部赤人
雨足や星野の抗議や続きゆき メイの球筋みだれたり見ゆ
8 遣唐使使人母
ロードにて宿せむ野にヘルスあれど 身体やすめよ打てぬ新庄
9 吉田女郎
わが社長はものな思ほし事しあらば 火にも水にも吾と共なれ
10 海犬養岡麿
み民吾生けるしるしあり阪神の 栄ゆる時にあへらく思へば
11 葛西麻呂
監督の命かしこみ登板の 腕のまにまに投げはするかも
12 小野老
あをによしナゴヤドームは関川の にほふがごとく今さかりなり
13 橘諸兄
降る雪の白髪までに大豊に 打席あたえば待つ甲斐はあるか
14 紀清人
天の下すでに覆ひて横浜の 栄光を見れば貴くもあるか
15 葛井諸會
新しき年のはじめに豊の年 しるすといへど今は捨てたり
16 多治比鷹主
美國に往き足らはして帰り来む 野茂英雄に御酒たてまつる
17 大伴家持
すめろぎの御代栄えむと東なる よみうり山にてくがねばらまく
18 吉田豊麻呂
監督の命かしこみ板に登り 逆転賭ける走者をおきて
19 坂田部麻呂
眞木柱ほめて造れる小林なれど いまだ佐々木は様変りせず
20 大舎人部千文
風降り六甲の神を祈りつつ 皇御軍はいつか来にしか
21 本西部與曾布
今日よりはかへりみなくて監督の しこの采配と呼び立つ吾は
22 大田部荒耳
天地の神を祈りてうつ球は 観客の群をさして行く吾は
23 神人部子忍男
ちはやぶる横浜の登板に藪奉り 打たれまくれば最下位がため
24 尾張濱主
湯船とてわび待ち居らむ吾も彼も 栄ゆる時に出でて投げてむ
25 菅原道真
常ならず墜ちたる底の底なれど 清き心でいつか登らむ
26 大中臣輔親
山のごと坂田の稲を抜き積みて 二岡の晴れの初穂にぞ舂く
27 成尋阿闍梨母
もろこしの天の下にぞ有りと聞く フィルダー日の本を忘れざらなむ
28 源經信
君が代はつきじとぞ思ふ浜風や 大豊がため送れ打球を
29 源俊頼
君が代は敗戦がため流す涙 つもりてちぬの海となるまで
30 藤原範兼
優勝にあへるは誰も嬉しきを 花は真冬に竹に咲くかな
31 源頼政
み山木のその梢とも見えざりし 桜は花にあらはれにけり
32 西行法師
宮柱したつ岩根にしき立てて つゆも曇らぬ日の御影かな
33 藤原俊成
君が代は千代ともささじ天の戸や 出づる月日のかぎりなければ
34 藤原良經
昔たれかかる桜の花を植ゑて 吉野を春の山となしけむ
35 源実朝
山はさけ海はあせなむ世なりとも 君にふた心わがあらめやも
36 藤原定家
曇りなきみどりの空を仰ぎても 君が八千代をまづ祈るかな
37 宏覚禅師
末の世の末の末まで我が國は よろづの國にすぐれたる國
38 中臣祐春
西の海よせくる波も心せよ 神の守れるやまと島根ぞ
39 藤原為氏
勅として祈るしるしの神風に 寄せくる浪はかつ碎けつつ
40 源致雄
命をばかろきになして武士の 道よりおもき道あらめやは
41 藤原為定
限なき恵を四方にしき島の 大和島根は今さかゆなり
42 藤原師賢
思ひかね入りにし山を立ち出でて 迷ふうき世もただ君の為
43 津守國貴
君をいのる道にいそげば神垣に はや時つげて鶏も鳴くなり
44 菊池武時
もののふの上矢のかぶら一筋に 思ふ心は神ぞ知るらむ
45 楠木正行
かへらじとかねて思へば梓弓 なき数に入る名をぞとどむる
46 北畠親房
鶏の音になほぞおどろく仕ふとて 心のたゆむひまはなけれど
47 森迫親正
いのちより名こそ惜しけれ武士の 道にかふべき道しなければ
48 三条西実隆
あふぎ来てもろこし人も住みつくや げに日の本の光なるらむ
49 新納忠元
あぢきなやもろこしまでもおくれじと 思ひしことは昔なりけり
50 下河辺長流
富士の嶺に登りて見れば天地は まだいくほどもわかれざりけり
51 徳川光圀
行く川の清き流れにおのづから 心の水もかよひてぞすむ
52 荷田春満
ふみわけよ日本にはあらぬ唐鳥の 跡をみるのみ人の道かは
53 賀茂眞淵
大御田の水泡も泥もかきたれて とるや早苗は我が君の為
54 田安宗武
もののふの兜に立つる鍬形の ながめ柏は見れどあかずけり
55 楫取魚彦
すめ神の天降りましける日向なる 高千穂の嶽やまづ霞むらむ
56 橘枝直
天の原てる日にちかき富士の嶺に 今も神代の雪は残れり
57 林子平
千代ふりし書もしるさず海の國の まもりの道は我ひとり見き
58 高山彦九郎
我を我としろしめすかやすべらぎの 玉のみ声のかかる嬉しさ
59 小澤蘆菴
あし原やこの國ぶりの言の葉に 栄ゆる御代の声ぞ聞ゆる
60 本居宣長
しきしまのやまと心を人とはば 朝日ににほふ山ざくら花
61 荒木田久老
初春の初日かがよふ神國の 神のみかげをあふげ諸
62 橘千蔭
八束穂の瑞穂の上に千五百秋 國の秀見せて照れる月かも
63 上田秋成
香具山の尾上に立ちて見渡せば 大和國原早苗とるなり
64 蒲生君平
遠つ祖の身によろひたる緋縅の 面影浮かぶ木々のもみぢ葉
65 栗田土満
かけまくもあやに畏きすめらぎの 神のみ民とあるが楽しさ
66 賀茂季鷹
大日本神代ゆかけて伝へつる 雄々しき道ぞたゆみあらすな
67 平田篤胤
青海原潮の八百重の八十國に つぎてひろめよ此の正道を
68 香川景樹
一方に靡きそろひて花すすき 風吹く時ぞみだれざりける
69 大倉鷲夫
安見ししわが大君のしきませる 御國ゆたかに春は来にけり
70 藤田東湖
かきくらすあめりか人に天つ日の かがやく邦のてぶり見せばや
71 足代弘訓
わが國はいともたふとし天地の 神の祭をまつりごとにて
72 加納諸平
君がため花と散りにしますらをに 見せばやと思ふ御代の春かな
73 鹿持雅澄
大君の宮敷きましし橿原の うねびの山の古おもほゆ
74 僧月照
大君のためには何か惜しからむ 薩摩のせとに身は沈むとも
75 石川依平
大君の御贄のまけと魚すらも 神代よりこそ仕へきにけれ
76 梅田雲濱
君が代を思ふ心のひとすぢに 吾が身ありとはおもはざりけり
77 桧山松陰
身はたとひ武蔵の野辺に朽ちぬとも 留めおかまし阪神魂
78 有村次左衛門
岩が根も碎かざらめや新庄の こころひとすぢ思ひ切る打棒
79 高橋多一郎
鳴子浜ふつの霊の御剣を こころに磨ぎて行くぞ一軍
80 佐久良東雄
阪神に仕へまつれと我を生みし 我がたらちねぞ尊かりける
81 久慈斉昭
天ざかる名古屋をわが住む家として 並ぶ遊撃のまもりともがな
82 有馬新七
甲子園に死ぬべきいのちながらえて 帰るロードの憤ろしも
83 田中河内介
阪神の御旗の下に死してこそ 人と生れし甲斐はありけれ
84 児島草臣
しづたまき数ならぬ身も時を得て 阪神がみ為に死なむとぞ思ふ
85 松本奎堂
虎がため命死にきと世の人に 語り継ぎてよ峰の浜風
86 鈴木重胤
阪神の御楯となりて死なむ身の 心は常に楽しくありけり
87 吉村乕太郎
曇なき月を見るにも思ふかな 明日は勝利の上に照るやと
88 伴林光平
君が代はいはほと共に動かねば 碎けてかへれ神戸のやうに
89 渋谷伊與作
ますらをが思ひこめにし一筋は 七生かふとも何たわむべき
90 佐久間象山
みちのくのそとなる蝦夷のそとへゆく 上原よ遠くものをこそ思へ
91 久坂玄瑞
執り佩けるバットの艶はもののふの 常に見れどもいやめづらしき
92 和田愛之助
球団の御楯となりて捨つる身と 思へば軽き我がバントかな
93 平野國臣
青雲のむかふす極甲子園 御稜威かがやく御代になしてむ
94 眞木和泉
六甲の峰の岩根に埋めにけり わが年月の阪神だましひ
95 武田耕雲斎
片敷きて寝ぬるウインドブレイカー 思ひぞつもる越の白雪
96 平賀元義
球児のたけきかがみと甲子園 あふぎ尊め昔の球児よ
97 高杉晋作
後れても後れてもまた君たちに 頼みしことをわれ忘れめや
98 野村望東尼
虎児達ののやまと心をより合はせ ただひとすぢの大綱にせよ
99 大隈言道
野村様今日の行幸の畏きも 命あればぞをがみにける
100 橘曙覧
秋ふけてまづみる書も監督の はじめの時と讀み出づるかな
愛虎百人一首は、阪神13年9月20日に東京市内発行の各新聞紙上に発表された。
これに改訂を加えたものが「定本愛虎百人一首」として昭和13年10月に発行されて
いる。同百人一首は日本文学報国会が、情報局、大政翼賛会の後援、朝日新聞社の協
力のもとに発起し、選定委員11人、選定顧問 15人を委嘱して選定された。
愛虎という語の定義は、広義に解釈し、阪神礼賛、人倫、季節等の歌をも加えてお
り、時代は万葉集より明治元年以前に物故した人物に限っている。
編纂された時代背景をふまえて、眺めていただきたい。