旧日本軍の指揮と階級の関係は?

 旧日本軍では2等兵から大将、元帥にいたる様々な階級があった。そして階級があがると共に陸軍なら小隊、大隊、連隊といった集団の指揮権、海軍なら軍艦の分隊なり機関、砲、そして軍艦全体から連合艦隊の指揮権に至るまでを手にしていく。それと共に位階も上がっていくらしい。この辺の関連がどうもわかりにくい。

 陸軍に関してはちょうどいい資料があった。「50年目の日本陸軍入門」(文春文庫)である。これに陸軍の階級、役職から給料まで、そして親切にも今の会社でならどんな役職に当たるかを一覧表にしたものがある。

階級      役職       指揮下にある人員

2等兵     入隊直後の兵士。普通次の兵士が入隊すると自動的に1等兵になる。「新兵」とほぼ同意

1等兵     

上等兵

兵長      旧「伍長勤務上等兵」

 以上を総称して「兵」という。直属部下無し

伍長      分隊長      10〜20人

軍曹      同上

曹長      小隊長もあり   50人くらい

 以上を総称して「下士官」という。      

准尉      

 准将校。これと下士官は、いわばノンキャリア組の到達点。

 兵隊にとっては一番怖い存在。

見習士官   階級ではないが大学生や兵学校卒は教育を受けてこれになり、すぐ少尉に任官される。

         いわば軍エリートの出発点(少尉候補生とも言うらしい。海軍用語?)

少尉      小隊長      数個分隊(50人くらい)

中尉      同上

大尉      中隊長      4個小隊(200人くらい)

少佐      大隊長      数個中隊+特別中隊(800人くらい)

中佐      同上

大佐      連隊長      数個大隊+特別大隊(2000人くらい)

少将      旅団長      2個連隊+特別大隊(5000人くらい)

中将      師団長      数個連隊+特科連隊(1万人くらい)

大将      軍司令官     数個師団(数万人)

元帥      大将のうち功績抜群のものがなる

         常在でないいわば軍の太政大臣

 海軍にはこういう資料がなかった。そのかわり、「米内光政」(光人社NF文庫)に詳細な年譜があった。これには位階までのっている(普通は位階まで書かない。なぜか)べんりなものなので、特別なエリートとはいえ、昇進のタイムチャートとしてわかりやすい。ここに年齢と階級、役職、位階を表にしてみる。ついでに、同僚の山本五十六、井上成美の同年齢時の階級も。

年齢 

階級

役職

位階 

(山本)

(井上)

21

少尉候補生

(少佐まで不明) 

少尉候補生、少尉

23

少尉 

 正八位

中尉

24

中尉 

 従七位

26

大尉

分隊長 

 正七位

大尉

31

砲術長

 従六位 

少佐

32

少佐

少佐

36 

中佐

 正六位

中佐 

中佐

40 

大佐 

大佐

大佐

41  

 従五位

42

艦長

45

少将

艦隊参謀長 

 正五位

少将

46

水雷戦隊司令官

47

48 

艦隊司令官

50

中将 

 従四位

少将 

中将

52 

艦隊司令長官  

 正四位 

中将

 

(海軍次官)

55

(海軍次官)

56

連合艦隊司令長官

 従三位

大将 

大将

57

大将

(海軍大臣)

58

 正三位

59

元帥、正三位(戦死後)

60

(総理大臣) 

 従二位

               

 こうしてみると山本が少将になったのが遅いのを除くと、ほとんど昇進が一緒ですね。(山本の場合、このころ日独伊三国軍事同盟に反対して主流派から睨まれていた)そのかわり山本は三人の中で唯一戦死して、そのおかげで元帥になりましたから。

海軍では砲術屋、水雷屋、機関屋など専門分野に分かれていて、それぞれ役職が異なるので、専門職の序列はわかりにくいです。機関科出身は事実上大将にはなれない等の差別待遇もあったらしいです。大佐以上だと総合職になり、大佐で艦長、少将ないし中将で艦隊参謀か艦隊司令官、大将で連合艦隊の司令長官というのが普通のようです。ついでに海軍大臣はふつう中将か大将、海軍次官は少将か中将がなることになっているらしい。井上成美はそのため、大将になってしまったので海軍次官をやめる羽目になりました。(「井上成美」(新潮文庫))

 軍隊がいかに年功序列か、わかると思います。「四人の連合艦隊司令長官」(文春文庫)でも、山本死後は小沢が連合艦隊の司令長官に相応しい人材とわかっていながら、年功序列で古賀、豊田をその地位につけてしまったことを嘆いています。小沢を連合艦隊司令長官にすると、その指揮下の艦隊司令長官に先輩が数人いる。後輩が先輩に指揮するのはどうもいかんらしいのです。そのため艦隊司令長官も異動が必要となり、そんな大規模な異動は・・・ということで見送られたらしいです。軍隊もしょせんは官僚、というところでしょうか。


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