ぼつちやん(フローネルの森篇)

 母親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしてゐる。母に云いつかつてタキネン村の道具屋へ玉子を買ひに行つた歸り、いきなりどんとピノン王子にぶつかつた。王子は謝りもせずへらへら笑つているので癪に触り、おれはいきなり袂へ手を入れて、玉子を二つ取り出して、やつと云いながら、王子の面へ擲きつけた。玉子がぐちやりと割れて鼻の先から黄味がだらだら流れだすかと思つたが、この暑さで茹で玉子になつてしまつていたらしく、がつんと音がして罅が入るばかりだ。仕様がないからぽかりと撲ぐる。「戦闘畫面での讀み込みの遅さは何だ」ぽかり。「何故アニメを辞めて下手糞な3DCGにしたのだ」ぽかり。「ジルバ王女はいつたい何時出てくるのだ」ぽかり。反論出来ないことをいいことにさらにぼかぼかなぐる。なぐるなぐる。さらになぐるなぐる。いくらなんでもなぐりすぎである。ぽかんぽかんとなぐつたらそのうちぷうと云つて王子がぐちやりと割れて鼻の先から脳味噌がだらだら流れだした。これを見たルナが「謝りなさいよ」と五月蠅い事を云ふのでこいつもどかどかどかと毆る蹴る。きゅうと云つたきり動かなくなつたので早速私儀都合有之辭職の上東京へ歸り申候につき左樣御承知被下度候以上と辭表を書いて国王宛にして郵便で出した。その夜おれはこの不淨な地を離れた。
 母の事を話すのを忘れてゐた。――おれがフローネルへ着いて革鞄を提げたまま、レオナや歸つたよと飛び込んだら、随分と遅くなつたぢゃないの、買い物はどうしたの、と云う。ほらと云って茹で玉子を差し出したら険悪な顔をして斧の付け根でがつんと毆りやがつたのでおれは斧の刃で毆つてやつた。氣の毒な事に母は死んでしまつた。死ぬ前に母は、実はお前の父親は妾が殺した、お前を孕んだ夜、父親は寝床に入つてきたが鎧兜を脱ひだ白騎士は白騎士でなくなつてしまつた、だからやつたのだと云つて涙をぽたぽたと落とした。だから白騎士の墓はフローネルの森にない。

 これが世に云う「フローネルの森不連續殺人事件」の眞相である。


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