2004年10月10日:最終兵器kasumi

 われわれメイド組は、布教をはじめた。自然筆者も、ここから稿をあらためて、
「北征編」
 とする。
 おそらくメイド喫茶の歴史の中でもっともその本領を発揮したのは、この時期だったろう。
 歴史は、平成末という沸騰点において、メイド喫茶、コスプレ居酒屋という奇妙な存在を生んだが、かれらが、歴史にどういう寄与をしたか、私にはわからない。
 ただ、はげしく時流をゆすぶった。
 すでにラジオ会館に綾波の等身大フィギュアが飾られて以降、それまで中立的態度をとっていた秋葉原の業者は、あらそってメイド喫茶を代表とする「萌え」に乗ろうとし、ほとんどが「官軍」となった。
 ヤマギワ、ソフマップ、オノデンの御三家はおろか、親藩、さらに譜代筆頭の石丸さえ、「萌え」になった。
 メイド喫茶に参加した。
 と書けば、時流に乗ったこれら店舗がいかにも功利的にみえるし、こっけいでもあるが、ひとつには、「萌え」を中心とした秋葉原再編成の必要が、たれの眼にもわかるようになっていたのである。
 かれらは、
「萌え」
 に参加した。
 しかし、「萌え」でなく、「劣情」にすぎぬという一群が、これに抵抗した。
 抵抗することによって、自分たちの、
「矜持」
 をあらわそうとした。
 といえば図式的になってかえって真実感がなくなる。
 まあ、日記に書くしか仕様がないか。

 というわけで今日は、いつもの未鏡さん、トレンビーさんに加え、河童の出るところからのぽいう・くろ夫婦のご参加です。いつでもどこでも自然体なぽいうさん素敵です。わぉ。控えめな胸を効果的に押さえつけた衣装が素敵ですくろさん(いや真面目に)。わぉ。そしてバーチャルネット神様kasumi様のご降臨です。わぉ。
 しかもkasumi様は白地に青の模様も鮮やかなスパンコールきらめくチャイナドレスでのご参加です。わぉ。
 残念ながらきょうは日曜日、しかも三連休中日です。秋葉原は混雑しています。まず向かったラムでは待ち行列が長いので諦め、ぴなふぉあに向かいます。今日は「ぴなふぉあ体育祭」ということで、女の子がガクラン鉢巻きとか体操服ブルマとかチアガールとかの恰好に身を包んでおります。さいわい開いていた席にすべりこみ、kasumi様がコートを脱いでチャイナドレス姿をあらわにしたとたん、店内に異様な空気が流れました。
「わー、お客様、チャイナですね!」
「きゃー! あたし、チャイナ萌えなんですぅ」
「チャイナチャイナ! 忘れチャイナの青い鳥!」
 kasumi様ものすごい人気です。高校時代に後輩をなぎはらったその集客力は、いまだに衰えていないようです。体操服ブルマの女性もガクラン鉢巻きの女性もチアリーダーもみんなkasumiに夢中さヘイヘイヘイヘイ。授業中天国だよ。
 ちなみにこの店のクレープをはじめて頼みましたが、でっかいクレープで桃とマスカットのシロップ漬けとアイスクリームを包み、その上からホイップクリームをふんだんにかけてチョコレートソースを散らし、これをラズベリーソースの海に浮かべた、とうていひとりでは食いきれないものでした。

 そして予約していたLittleBSDへ。この店も今日は、「萌え萌え体育祭」でした。なんでも十月十日、つまり、

 十十
 日月

 すなわち萌えだそうな。
 さて入店して、kasumi様がコートを脱ぐやいなや、体操服にブルマの女性や、むちむちチアガールや、白いバトントワラーや、弓道部主将や、ジャージの背中に「萌えないゴミ」と描いた眼鏡っ娘や、後ろ髪の妙に長い男性までも、
「きゃー、チャイナよチャイナよ!」
「チャイナ素敵ー!!!」
「お姉さまと呼ばせてチャイナー!!」
 などと寄ってくるのでした。ううむkasumi様おそるべし。
 この店で予約するとコース料理になるのですが、その際に店の小悪魔といっしょに乾杯というイベントがあります。何のために乾杯するか、その大義に悩んだのですが、いちおう予定は予定であって未定であるという立場から、
「歳三さんの留年に乾杯ー!」
 ということにしておきました。
 歳三は泣いた。よせ、よすんだ。まだ政治学入門がある、と歳三は怒号した。最後に、あんたは昇り坂の時はいい、くだり坂になると人が変わったように単位を捨ててしまうとまで攻撃した。

 そのあとガシャポン会館の上にあるキュアメイドカフェに入ろうとしたのですが、私の手違いで入場できず。すみません皆様。でもみんなガシャポンを楽しんでたようでした。くろさんは茸セットを買おうかどうしようか迷ったあげくアリクイを買うし、kasumi様は屋台セットを購入するし、トレンビーさんは歳三さんに着せるメイド服を物色するし。歳三さん、そろそろオカマ、いやレディボーイを買うだけでなく、ふたなりエロゲームとかで勉強しておいたほうがいいかもしれませんよ。
(レディボーイで結構だ。こんな色気のねえメイド服が着れるか)
 こうなったらウィッシュドールに行ってみようか、あそこなら入れるんじゃないだろうか、と提案してみましたが、トレンビーさんが、
「あんな広島市民球場みたいな店、行きたくない」
 とあっさり却下。おめでとうウィッシュドール、WJから広島カープへ格上げです。

 やむなく駅前に戻り、夕方に断念したラムに再チャレンジ。さいわい入れました。またここでも、kasumi様がコートを脱いだ途端にこぼれるオーラに魅了されるカラーメイド&リボンの娘たち。メイド娘の熱視線を知らぬかのように屋台やアリクイを組み立てるくろさんとkasumi様。ちなみにこの店は「御主人様」と呼ぶのでkasumi様のいちばんのお気に入りであり、また注文を承ったときに「少々お待ちください」といってスカートの裾をちょっと持ち上げて会釈する仕草がぽいうさんのお気に入りでもあります。私は、そのたんびにぽいうさんがにへら〜と微笑むのを確認しました。

 ここでメイド疲れしてしまったぽいう・くろ夫妻はお帰り(ぽいうさんはラムのにへら〜の記憶を保持するために帰ったんだと思います。くろさんはアリクイを組み立てたくて帰ったんだと思います)。
 残るメンバーはCos-Chaへ。ここは特にイベントがなく、kasumi様の求める黒い衣装のメイドさんを満喫しました。
 ここでkasumi様のメイド喫茶構想をくわしくうかがう。ジャンボ宝くじで得た私財をのこらずつぎこみ、金に糸目を付けない理想のメイド喫茶を設立。まずメイドは黒のロングスカートのメイド服。足元はブーツ不可。ぽっくりみたいな丸っこい靴のみ。メイドはkasumi様みずから厳しい躾を叩きこむ。徳田さんはセバスチャンと称して執事の役柄。私は庭師のヨハン爺さんとして、「お嬢様は昔はあんなじゃなかっただ。子供のころは、もっとよく笑う優しいお方だっただ」などと呟く役目。ぽいうさんはときどきメイドを襲うセクハラ大魔王(一種の試練その1〜その3)。歳三さんは下男のピーターとして焦げたハンバーグなど作る。「すいません、焦げちゃいましたぁ」などとぺろりと舌を出しながら謝るのはメイドの役目(ときおり、メイド服を着た歳三さんも謝りに来る)。
「ずいぶんと出世したものですね」
「出世、かな」
 歳三は、自問するように首をひねって、
「ただ、身をもってメイド喫茶の変転を見た、ということではおもしろかった。京都の留年生がメイド喫茶の下男になった、というのも変転のひとつですよ。出世じゃない」

 このあと解散して、私ひとりZOIDに行こうとしたのですが店が見つからず断念しました。

 結論。メイド喫茶コスプレ喫茶に行く際にはkasumi様を常備すべし。サービスが五割方よくなります。

 歳三。
 関西で留年した。
 それ以外はわからない。平成十六年の落ち葉のころ、秋葉原のメイド喫茶に歳三の供養料をおさめて立ち去ったチャイナの婦人がいる。メイドが故人との関係をたずねると、婦人は滲みとおるような微笑をうかべた。
 が、なにもいわなかった。
 kasumiであろう。
 この年の初秋は台風が訪れることが多かった。その日も、あるいはそのメイド喫茶の外には、土砂降りの雨が降っていたかと思われる。

 歳三さんと「燃えよ剣」を知らない人はごめんなさい。歳三さんもごめんなさい。その他の皆様もごめんなさい。


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