5.脳天気な遺跡

 ビサイドの次はザナルカンド。あの究極召喚の地。そして、あの思い出の地。
 そう、前作でティーダの野郎が、えんえん八十時間にも及ぶ思い出話をやってくれた、あのザナルカンド遺跡直前の焼け跡。
 まさかあそこまでの戦闘やら会話やら試練やら婚約やら殺人やら逃走やら裁判やら投獄やら脱獄やらブリッツボールやらチョコボレースでズルして日の聖印を略奪したことやら雷落とし防御連続二百回に成功してタマネギ人形で三万のダメージを食らって即死するシーモアに涙したことやら赤い蝶をどうしてもよけきれずにキマリの成長を断念したことやらが単なる思い出話だったとは、やってた時には知らなかったよ。知ってたらやらなかったよ。
「あの地……思い出の場。他の人には知られたくない……なんだか」
 しかしユウナの思いにもかかわらず、その地は、哀れ物見遊山の人だかりでいっぱいでした。
パイン「観光地か、ここは?」
リュック「なんかムカツクー」
ユウナ「殺しましょう……愚民どもを……そのうち」
 とりあえず遺跡へ行こうとすると、お姐ちゃんに呼び止められます。
「まず高台からの絶景をごらんくださいませ。ここは公共の場所ですから、順序を守って見学して下さいねー」
パイン「やっぱり観光地だ」
ユウナ「ここは公共の場所じゃない……あたしの場所。スピラ全土はワイのモンやっちゅうのに!」
リュック「ユウナん……なぜに大阪弁?」

 しょうがないから高台に登ると、なんだか見覚えのある天草四郎時貞がいました。
「やあユウナ君、見違えたよ。僕のこと憶えているかい?」
 もちろん、答えましたよ。にっこりと笑って、「誰ですか?」と。
「無理もない……召喚のしすぎで脳味噌がだいぶ溶けているだろうからねもう二年も前のことだからね。僕はイサール。君にどうしても勝てなかった召喚士だよ」
「あ、思い出しました。なすすべもなくアルベド族に誘拐され、エラそうなこといってたくせにすべての召喚獣をあたしのヴァルファーレに一撃で殺され、けっきょくはエボン寺院の警護くらいしか使い道がなかった召喚士さんですね?」
「…………シクシクシク」
 憶えていないのは年月のせいではなく、てめえの影が薄いからだよ、そうか四郎時貞でなくイサールという名前だったか、と思いながら、イサールの話を聞きます。
 どうやらイサールも、哀れ召喚獣のすべてを失って失職し、いまではシドに雇われて観光ガイドに身を落としているようです。召喚士の末路はいずこも厳しい。SEの末路と似たようなもんですね。
「召喚にすべてを捧げ、身も心も削られて……あげくの果てはこんなヤクザな商売に身を落とし……しかしお嬢さん、これぞお嬢さんにお見せする、一本刀土俵入りでごんす!」
「それ、物語が違うって」

 とりあえずイサールを、「その場所には……他の誰も立ってほしくないんです(意訳:さっさとその場所から退かんと、この二丁拳銃で脳味噌に日光浴させたるでゴルァ)」と威嚇して撃退し、ザナルカンド遺跡に入ります。
 大勢のスフィアハンターが遺跡にチャレンジしているようです。おいおい、子供までいるよ。ここはね、遊び場じゃないんだってば。
 まあ有象無象ども、このユウナ様に勝てるわけもない。あたしはね、かつてこの地で頂点を極めたユウナ様だよ。究極召喚のユウナレスカすら、バハムートのメガフレア一発でぶっとばしたユウナ様だよ。
リュック「ユウナん……なんか口調、ドロンジョ様になってるよ……」
 さあ遺跡に入るぞ。なに、アイテム? そんなもの買わん。欲しいものは盗む、それがファイナルファンタジーの掟だ。
 おい、こら、キングベヒーモスが出てきた。むっちゃ強いやんけ。あ、ユウナ一撃で死んだ。フェニックスの尾……あ、ポーションかける前にまた死んだ。やばい、なんとかしろ、こら。
 やっとの思いで倒しましたが、一回の戦闘でMPを使い果たしました。なんなんだここの魔物は。強すぎるぞ。
 ひょっとしてあの子供たちは究極超人ですか?

 キングベヒーモスの連続降臨に全滅しかけながらも、ようやく遺跡の中盤までたどり着いたところで、あの究極超人お子さまに出会う。おい、ガキどものリーダー、ひょっとして、四郎時貞(もう名前忘れた<ならなんで天草四郎の諱名まで憶えてるんだ)の弟ではないか?
 ひょっとして貴方、兄貴より数段強くはないですか?
 そういえばこいつの兄貴、四郎時貞の弟ってのもいたな。まあ、あれは四郎時貞よりさらに影が薄い奴だったから、どっかで幻光虫の栄養にでもなっているのだろう。こういうのを末子優勢の法則という(嘘です)。

 ようやくのことでザナルカンドの遺跡にたどりつく。遺跡の中は、お猿でいっぱいです。あああ、ザナルカンドは観光客と山師(=スフィアハンター)でいっぱい、遺跡の中はお猿でいっぱい。やれやれ。
 遺跡の最深部、かつてユウナレスカ様と死闘を繰り広げたところでは、情けなや、四郎時貞が大声を張り上げて観光客向けのアトラクションショーを行っております。ほんに召喚士の末路は哀れなものよ。
四郎時貞「……かつて召喚士として目指した地、ここザナルカンドで仕事ができるなら、本望さ」
パイン「元召喚士もいろいろだな」
ユウナ「そうだね」
 いや、ユウナも含め、元召喚士はいずれもろくでもない道を歩んでいると思います。つーか、おまえら元召喚士、ぜったい脳味噌を召喚獣に食い荒らされてるだろ。


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