10.音のない絵と絵のない音と

「たいへんご無沙汰しておりました、アーシェ様」
「いっそのこと、そのままずーっとご無沙汰し続ければよかったのに」
「そんなツンデレなこと言わないでくださいよぉ」
「なんでもツンデレで片付けて、女性がみんな気があると妄想するのって、ストーカーの一歩手前よ」
「なにをいまさら……俺とお前の仲ぢゃないか」
(ぐービンタ)
「お前って言うとぶつよ?」
「だから、その半疑問形で、しかもぶってから言うのやめてください」

「まあ、ゲームが進展しなかったわけじゃないんです。幻妖の森からギルヴェガンに入り、天陽の繭とやらの情報を聞いて、ピンクハゲを仲間にし、リドルアナ大瀑布から大灯台へ潜入、上層まで上がったのですがザコ敵のあまりの強さに一時撤退、Sランクの賞金首や召喚獣を倒してレベルアップ、ついに灯台を極めて、ジャッジ・ガブラス、ドクター・シドとの連戦を制し、繭を破壊してピンクハゲ以外はつつがなく生還」
「えらく進んだじゃないの」
「でもねえ、ここ的に話題がないんですよ。肝心のヴァンがねえ」
「ああ、いるのかいないのかわからないような存在と化してるからねえ、アイツ」
「台詞も慣れちまったせいか、いまいち秀逸なのがないんですよねえ。せいぜい、『いばりやさんの時みたいに?』(リヴァイアサンの時みたいに、と言いたかったらしい)『あんみつって餡だよ』(万一って何だよ、と言いたかったらしい)『竹の間はその木でお前を化す、嘘だろ』(だけどお前はその剣で繭を壊す、そうだろ、と言いたかったらしい)『アニメが笑えないんだ。二、三の並なんかアレだし……二、三はもう見ないんだ』(何も変わらないんだ。兄さんの恨みなんか晴れない……兄さんはもういないんだ、と言いたかったらしい)くらいですかねえ」
「けっこうあるじゃないの」
「まだしもパンネロのほうが、いいこと言うようになってきてるんですよねえ」
「だってアイツ、バカだもん」
「いやでも、ふつうRPGの、まがりなりにも主人公って、最初はバカみたいなキャラでも、だんだんと暗い過去やら人間的成長を経て、まともな人格になると思うんですがねぇ」
「ファイナルファンタジーでいうと、3のたまねぎ部隊、5のバッツ、6のロック、9のジダンの路線ね」
「そうそう。最初は遊び半分のしがないコソドロだったんだけど、だんだんと愛すべきものや守るべきものができて、頼れるキャラになっていくという」
「アイツ、最後までしがないコソドロだもんね」
「まあ、目の前の敵→盗む、というガンビットをつけた私も悪いんですが」

「そしてもうひとつ困ったのがあの、ピンクハゲ」
「レダスね」
「灯台で行き詰まって、しばらくキャラのレベルアップに専念してたら、レダスと他のレベル差が10以上になっちゃいまして」
「ああ、そりゃ使えないわねえ」
「おまけに自分勝手にどっかに行っちゃう、行った先でボコられて死んでる、トラップを勝手に踏んで、自分のみならず他人まで巻き添えに殺す。もうフェニックスの尾自動消費マシーンですよ」
「レダス、戦闘以外ではいいこと言うんだけどねえ」
「そう、声はシブいし、台詞はかっこいいんですが、でもしかし、あの容貌であの服装ですもんねえ」
「ストーリーだけに絡んで戦闘には絡まず、画面を消して音声だけにしたら、いい人なんだけどねえ」
「それ、ゲームでも何でもないですよ」
「だいいち画面を消して音声だけにしたら、あのオイヨイヨがなに言ってるんだかわからないわよ」
「片や映像に難があるキャラ、片や音声に難があるキャラ、困ったもんですねえ」
「難があるといえば、あの松田優作モドキも相当のもんよ」
「ああ、マルガラスですか。あれも戦闘に参加したら、かなり役立たずそうなキャラですねえ」
「キャラだけは無意味に濃いんだけどねぇ。あんなのを産んだマルガラス一族っていったい、どんなのかしら」
「父親は丹波哲郎、母親は森光子、兄は田村正和と宮内洋で弟に京本政樹と影山ヒロノブ、いきおくれの姉に戸川純がいるって感じの家庭ですよ、きっと」
「よくそんな一家に国民がついていけるわね。皇室アルバムなんか、見てて疲れそう」


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