シリコンを入れてみた。

 ここ一年ほど、シリコンスチーマー料理というのが流行しているという。
 なんでもシリコン容器ひとつと電子レンジで、パスタ、ケーキ、パン、ご飯等の主食から、スープ、シチュー、カレー、ポトフ等の煮物、シュウマイ、蒸し野菜、あさりバター等の蒸し物、グラタン、オムレツ、ハンバーグ等の焼き物、ケーキ、プリン、ゼリー、シャーベット等のデザートまで、なんでも簡単に作れるのだそうだ。夢のような話ではないか。
 シリコンスチーマーの草分けにしてトップブランドと言うべきなのがルクエというメーカーである。スペインの会社だそうだ。女性雑誌には毎回のように、おされなテーブルにおされな料理を載せて、ルクエのスチームケースがとりあげられている。もはやルクエは、おされなマダムの必需品と化してしまったと言っても過言ではあるまい。
 母親がルクエのスチームケースを欲しがっていたので、楽天等で検索してみたが、どこも5000円程度の値段。なんでも、ブームで品薄となり、以前より高価になってしまったとか。そっくりのパチモンは1500円なんてのがあるけどねえ。
 ついでにシリコンスチーマーの評判も検索してみたら、ルクエ以外にもVIVというメーカーの製品もあって、これもわりと評判がいい。
 おおまかに両者の評判を比較してみると、

 値段:2〜3人用の普通サイズで、ルクエは約5000円。VIVは2000〜3000円。ルクエだと1000円するスチームトレイがVIVだと付属品なので、だいたいVIVはルクエの半額。
 製造:ルクエはスペイン。VIVは中国(シリコンは日本製)。
 材質:どちらもシリコンだが、ルクエは白金触媒のプラチナシリコンを使用しているため、ゴム臭さが少ない。
 触感:ルクエは柔らかめ、VIVは堅め。
 構造:ルクエは蓋と本体が一体化した構造で、昆虫採集などで使う胴乱という道具に似ている。VIVは蓋を取り外すタイプで、形は弁当箱に似ている。
 レシピブック:先行者利益でルクエのほうがいっぱい出ている。ただしルクエの本でVIVのスチーマーを使うことも、もちろん簡単。

 というあたりらしい。
 おおざっぱにまとめてしまうと、コストパフォーマンスのVIV、品質とイメージのルクエってところか。

 ためしに買ってみることにした。もちろん安いほうを。
 楽天で最安値の店を探し、VIVのシリコンスチーマー、デュエ(二人用)を送料込み2300円で購入。ファミリーサイズのクアトロにしようかと思ったが、自宅の電子レンジに入らないので断念。
 届いた商品は、レタスグリーンの色といい、ちょっとぐにゃっとした触感といい、幼児用玩具に似ている。付属品は14ページのレシピブック。9品のレシピが書いてある。
 ちょっとこのレシピブックでは物足りないので、ネットで検索してみた。
 投稿レシピサイトのクックパッドだと、VIVのレシピが10、ルクエのレシピが566登録されている。
 ルクエの圧勝、と言いたいところだが、実は意外とバリエーションは少ない。レシピの1/3くらいは、ホットケーキの素となんかを入れて作る蒸しパン。「なんか」がチョコレートだったりココアだったりカボチャだったりニンジンだったりというバリエーションである。1/4くらいはパスタレシピ。これもパスタと一緒に蒸す具が海老だったりホタテだったり挽肉だったりというバリエーションである。
 これなら私にも、無限に近いレシピが作成可能だわな。

 今回はそんな中から、蒸し鶏のレシピがあったので、それをアレンジしてカオマンガイもどきを作ってみる。
 米を1合半ほど、洗ってスチーマーに入れる。チキンコンソメを砕いてばらまき、上に塩胡椒した鶏もも肉を一枚。ショウガとニンニクとネギのみじん切りを散らし、ナンプラーと水1カップをぶっかけて蓋をし、電子レンジで10分加熱、その後10分放置して蒸らす。ここで鶏肉を取りだして切るが、飯はまだ炊けてなかった部分があったので、よく混ぜてからさらに5分加熱、5分蒸らす。
 できあがりにキュウリの輪切りを添え、ごま油、レモン、唐辛子、甜麺醤、豆鼓醤、ナンプラー、オイスターソース、椰子糖などをこきまぜたタレをかけて食べる。
 米を鶏の脂肪で炒める過程を略しているので、タイのカオマンガイほどこってりとはいかなかった。けどまあ、スープで炊きあげた米は味がよく滲みている。鶏肉も加熱ムラなく、柔らかく炊けている。炊飯器で作るよりは簡単だ。

VIVシリコンスチーマーでカオマンガイ

 母親にその話をしたら、ルクエのスチームケースはもう買ったとのこと。
 使い勝手を比べてみたいので、頼んで送ってもらった。
 同じレギュラーサイズだが、ルクエのほうがちょっと背が低く見える。手触りはぐにゃぐにゃのふにゃふにゃ。見た目といい手触りといい、まるで氷の溶けた氷枕。片手で持つとぺこんとへしゃげる。

 ルクエのスチームケースでは、茄子とししとうのオイル煮もどきを作ってみる。
 茄子は斜め切り、ししとうは真っ二つに切って、にんにくのみじん切りをばらまき、オリーブオイルをまわしかけ、塩と胡椒と白ワインをぱらぱらかけてからレンジで5分、余熱5分。できあがりにみょうがを添える。
 こちらも加熱時間のわりには、野菜に油と味がよく滲みこんでいる。このくらい味が滲みるほど茄子を煮込むとぐずぐずに溶けてしまうのだが、こちらはしっかりと形が残っている。

ルクエスチームケースで茄子のオイル煮

 両方のシリコンスチーマーを実際に使ってみた感想はというと。
 調理後はシリコンも熱くなるが、それより熱いのは蓋のすきまから噴き出す水蒸気。うかつに触ると火傷するので、やはり手袋ははめていた方がいい。
 特にルクエは、シリコンがぐにょっと曲がった瞬間にあちこちから蒸気が噴き出し、きわめて危険である。さらに蓋を開くとき、蓋を伝わって熱湯がふりかかってくるおそれがある。
 あと食卓にそのまま出す場合、ルクエは蓋がやはり邪魔だな。
 蓋が外せる方式のVIVは、使い勝手はいいが、やはり蓋をなくす危険性も高いとは思う。あと、蓋をきっちり閉めるのがけっこう難しい。長期間使っていて、本体や蓋が歪んだりしたら閉まらなくなっちゃうんじゃないかという心配もある。ゴムの臭いは、あまり気にならない。
 あとVIVでちょっと気になったのは、蒸しムラの点。直方体に近いVIVのケースは、重箱の隅の部分にムラが生じるんじゃないかと心配してしまう。特に蒸しパンなど作る場合、どうかなという気がする。楕円形のルクエは、その心配はなさそうだ。
 とりあえず当座の使い勝手という点ではVIVに軍配を上げたくなるが、長期的にはどうだろうかなあ、といったところか。


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