超手抜きトンカツ入門

 豚ロースとんかつ用肉が冷蔵庫に余っていたので、トンカツを作ってみようと思った。
 豚肉と大根煮込みを作ったときの余りだ。この料理は豚ロースをぶつ切りにして卵と片栗粉と小麦粉のコロモをつけてさっと揚げ、面取りした大根と一緒に、チキンスープと二番だし半々で煮込む。まだ大根がしゃきしゃきしているうちに、あっさりした味つけで食べる。

 ふつうのトンカツの作り方はここで書くまでもないですよね。書くけど。
 まず豚ロース肉もしくはヒレ肉もしくはバラ肉の厚切りを用意。肉の筋に包丁で切れ込みをいれ、包丁の背かすりこぎかビール瓶などで肉を叩いて柔らかくする。これに塩胡椒をすりこみ、小麦粉をまぶして溶き卵をくぐらせる。パン粉をつけて油で揚げる。
 こう書けば簡単だけど、めんどくさいので家ではなかなかトンカツを作らない。
 めんどくさい第一の要因に油がある。揚げ物料理は油を大量に使うし、油はねが多くてキッチンが汚れる。めんどくさい。
 めんどくさい第二の要因はトンカツの準備作業である。トンカツ作成には準備作業だけで容器が三つ必要となる。小麦粉を入れた容器、溶き卵を入れた容器、パン粉を入れた容器。これに肉を順番にくぐらせていくのだが、やっているうちに手がべたべたになって小麦粉やらパン粉がくっつく。なぜか小麦粉やパン粉は、豚肉よりも指のほうに盛大にこびりつく。人間の指が好きらしい。かといって指を揚げるわけにもいかず、膨大な小麦粉とパン粉が捨てられてしまう。そしてこのような作業をしていると、あちこちに小麦粉やらパン粉やら卵液やらが飛び散る。後片づけだって大変だ。めんどくさい。
 そんなわけで、トンカツは外で食うか、揚げたのを買ってくる、そういうことにしていた。

 ところが先日、トンカツは小麦粉や卵を用意しなくても作れるし、油で揚げなくても作れる、という話を聞いた。これが本当なら、トンカツ作成のめんどくささは大量に軽減される。ということで、試してみた。
 まず豚ロースの筋を切り、叩いて、塩胡椒する。ここまでは普通の作成方法。
 ここで普通なら小麦粉を振り、溶き卵をくぐらせるのだが、今回はそれを省略。代わりに、肉にマヨネーズを塗りたくる。なるほど、マヨネーズには卵が含まれているし、ほどよくべとべとだ。これにパン粉をつける。
 これを油で揚げずに電子レンジで加熱するのだが、普通のパン粉をつけていたのでは、なま白いトンカツができてしまう。だからパン粉を工夫する。
 フライパンにバターを溶かし、ここでパン粉を炒める。きつね色になるまで炒める。こうして加熱されてからっと焦がされたパン粉を、マヨネーズを塗ったくった豚肉にまぶすのだ。
 そして耐熱皿にクッキングシートを敷き、パン粉をまぶした肉をのせて、約四分加熱する。

 さて作ったトンカツを食ってみたが、味はふつうのトンカツと同じになっていた。マヨネーズの酸味は加熱したせいか消えていた。
 しかしマヨネーズのせいか、はたまた油で揚げなかったせいか、コロモがはがれやすい。さらにどうしてもかりっとした感じにならず、ふにゃふにゃしている。なんだか出来の悪いトンカツを揚げて一日くらいおいたところで電子レンジで温めなおした、という食感になってしまった。
 やはり手抜きをすればしただけのことはあるようだ。ちゃんと作ったトンカツにはとてもかなわない。せめてマヨネーズか電子レンジか、手抜きを一箇所にとどめておくべきだったか。


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