第1話 「危うし!内藤ライダー」

「何ということだ」
 東京都国分寺市の地元最大手企業、内藤財団の専務取締役である出盆は朝日新聞を読んで苦悩していた。
「ちまたでは凶悪な犯罪や破廉恥な、それはもう口に出すのもはばかられるような破廉恥な犯罪が渦巻いているというのに」
 出盆はいまいましい税務署の小役人の顔を思い出していた。まさか名ばかりの出張のときの、国分寺〜国立間の切符代ぐらいで脱税容疑をかけられるとは思いもよらなかった。
「こうして表に出て来る犯罪だけでも数知れないというのに、法の目をかいくぐり、悪事を働くような人間は、野放しにはできんな」
 何百億という脱税をしゃあしゃあとやってのける人間もいるんだ。畜生、絶対に目にもの見せてやる。
「よし、今こそ会長に掛け合って、例の計画を実行に移す時だ。」
 出盆は『重役室』と大きく書かれたプラカードの貼ってあるガラスの引き戸をからからと開けて、小走りに廊下を進んだが、先日自分で書いて貼った『社内では静粛に』の貼紙を見て、スピードを落とした。
「会長、出盆です。失礼します」ベニヤ板に、必要以上に重厚に見える木目調の紙を貼り付けて作った『会長室』のドアを開ける。
「おう、ようやく潔く負けを認める気になったか」碁盤の前で、会長が嬉しそうに上目使いに出盆を見上げる。
「いえ、今日は例の計画の件でお話しを」
「そうか、とうとうやるのか。で、予算案は通ったのか?」
「は?」
「予算だ、予算。金がかかるだろう」
「そうですか、やはりダメですか」
「誰もダメだなんて言ってないだろう!予算があるのかと聞いているんだ」
「てっきり会長がへそくりで何とかするものだと困りましたねエ」
「う〜む」
「う〜ん」

危うし!内藤ライダー!誕生する前に抹殺されてしまうのか?
待て!次回、乞うご期待!(おいおい、ほんとに続くのかよ)



第2話 「内藤ライダー誕生」  

「えー、以上で'97上期の社会福祉厚生部門活動報告を終わります。」
「はい、加亜留部長お疲れさまでした。社会福祉厚生部門の活動報告にたいして、質問などございますか?」
 今日は内藤財団の半期に一度の定例期首会議の日。国分寺の財団本部では、議事が滞りなく進行していた。
「それでは、質問がないようなので、次に出盆専務より'97下期の予算案についてご報告いただきたいと思います。」
「社員の皆さん、上期はともに苦しい戦いを強いられましたが、今回の予算案の提案の前に、我々をとり巻く現状の再認識を」
「ちょっといいですかな?」
 加亜留部長が出盆の言葉をさえぎる。
「専務は、まさかこの会議の場で、例のばかげた計画についておはなしするつもりではありますまいな?」
「はて?ばかげた計画とは?」
「とぼけてもらっては困りますな、専務が会長とともにひそかに進めていた、例の計画のことですよ。」
 社員の間にざわめきが起こる。さすがに出盆も少し焦る。
「いい加減にしないと、会議を混乱に陥れた責任を取ってもらわなくてはならないが。」
「それでははっきりと申し上げましょう。内藤20計画の件です。」
 もはや下手な言い訳はできない。情報漏洩のルートなど、今はどうでもいいことだ。とにかくこの場を何とかしなければ。
「当財団の創立20周年を機に、大きな新事業に乗り出す計画がったことは事実だ。しかし、まだ詳細な内容に関しては不透明な部分の多い計画だ。なぜ君はそれをばかげた計画などと呼ぶ?」
「あまりにも現実性に欠ける計画だからです。しかし」
 加亜留が会議室のドアのほうを振り返る
「私がその計画に現実味を加えましょう。入りたまえ!」
会議室のドアが開き、妙に顔のでかい、天パー頭の青年が入って来た。
「君は誰だ?」
 出盆がむっとして問いかける。すると青年の代わりに加亜留部長が答える。
「会長のお孫さんの内藤雷太君だ。」
 やられた、と出盆はとっさに思ったが、それを表情に出すようなことはしない。仕方ない。少し早いが、今日のメインイベントだ。
「どうやら、加亜留部長は少し勘違いをしているようだ。それでは紹介しよう。我々の新たな仲間、そして今期から始まる新事業の担当者、マイケル内藤君だ。」
 皆の視線が一気にドアのほうに集まる。新たな戦いの予感を漂わせながら、ゆっくりと会議室のドアが開いていく。

以下次号、怒涛の最終回(うそ)
でも収拾のつかないことになってるぞ!


第3話「内藤ライダー誕生(後編)」
 マイケルはゆっくりと会議室に入って来た。身長は185センチほどだろうか。ペラペラの黒い皮ジャン風ビニールジャンパーを引っかけ、真っ青のシャツの襟をわざとらしくあけて、胸毛を見せびらかしていた。やらしいことに、髪はブロンドだった。
「まさか出盆専務はこんな何処の馬の骨とも分からないヤサ男に新事業を任せようというのではありますまいな?」
 加亜留部長がくってかかる。
「馬の骨とはお言葉ですな。マイケルは会長のご指名で採用した人材だ。」
「おい出盆、俺は別に好きでこんなところに来たわけじゃないんだ。お邪魔のようなら、俺は失礼するぜ。」
「是非そうしていただこう。何しろこちらはこの事業にぴったりの人材、会長のお孫さんの雷太君を連れてきているんだ。」
 加亜留部長がここぞとばかりにしゃしゃりでる。
「まあ落ち着け、マイケル。」
 出盆はマイケルをなだめて、加亜留の方を向いた。
「部長はマイケルがどのような人間かを知らないから誤解があるようだが、実は会長はああ見えてもハーフでね。」
 また会場が騒然となる。
「マイケルは会長の甥にあたる。」
「だ、だからといってなにも」
 部長も言葉がでない。
「今回の人事は、会長の独断でなされたものなので、会長自身もそれを引け目に感じていて、マイケルを紹介する前に、皆に順を追って私から説明しようと思っていたのだが」
 出盆は加亜留部長の方を見やったが、ふてくされてはいるものの、もうなにもいいたくない、といった風だった。出盆が続ける。
「順番が違ってしまったが、皆に『内藤20計画』について説明しよう。我々内藤財団は、社会にあらゆる角度から貢献し、地域と共に発展し、ひいては日本を、そして世界をより住みやすいものにするため、日夜活動しているが、この国分寺市でさえ、凶悪な犯罪が絶えない。さらに、法の目をかいくぐり、悪事を働くような人間まで野放しだ。我々の目的を果 たすには、このような悪人達を独自に裁く必要がある。そこで、この会議の場を借りて、『内藤20計画』の承認を、皆にお願いしたい。」
 もともと熱い会長のワンマン経営で、採用も乗りやすい人間に片寄った人事だったため、あっという間に『内藤20計画』は承認された。しかし、そこに金が絡んでくれば、話は別 である。予算案会議では、あっちこっちのボロを突っ込まれ、結局半期の予算が68万円での新事業発足になってしまった。
「おい出盆、いったい68万円で、俺に何をしろっていうんだ。」
 期首会議の翌日、マイケルは、自分の部屋がないので出盆の『重役室』のすみっこに、お古の机を置いてもらい、白いプラスティックのプレートにマジックで『内藤20計画執行部』と書いて机に貼っていた。
「そうだな、とりあえず相棒でも探してみるか。」
 出盆がコンピューターのモニターに向かったまま答えた。
「今どき68万円で、6ヵ月も人が雇えるもんか!」
「いや、人間なぞはあてにならん、忠実に主人につかえ、24時間マイケルを守れる相棒だ。」
「はっはっは、そんなのは余計無理だ。」
「そうかな?」
 出盆は、少し嬉しそうにマイケルを見た。

以下次号、ようやくそれっぽくなってきたのに、もう最終回?(つづくよ)


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