「つぶやく自由」すらない裁判官に,市民の自由は守れない。

○裁判官の表現の自由の尊重を求める弁護士共同アピール○

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東京高等裁判所の岡口基一裁判官が訴追委員会から呼出を受けたことに関して,裁判官の表現の自由の侵害であり,裁判官の独立と三権分立の観点からも見過ごせない問題だと考え,弁護士共同アピールに取り組んでいます。
アピールは,訴追委員会の議決があるまで(訴追されれば弾劾の可否を決める裁判があるまで),続けます(弁護士限定です。)。

人権を守る「最後の砦」を守るのは,私たち法律家全ての使命だと思います。
御協力をお願いいたします。

【2021年8月21日追記】
岡口基一裁判官については、2021年6月16日付けで弾劾裁判所への訴追がなされました。しかし、同訴追は本共同アピールが対象としたもの以外の岡口裁判官によるSNS上での投稿等を訴追の理由に含めており、新たに訴追理由に付け加えられた投稿等に関する評価は、本共同アピールには含まれていません。

そこで、本共同アピールの運動は、終了とさせていただきます。ご協力いただいた全ての皆様に、発起人として、心より深く感謝申し上げます。 

発起人 弁護士 島田 広 


1 私たち弁護士は,東京高等裁判所の裁判官が勤務時間外にツイッターで裁判例を紹介するなどの2件のツイート(つぶやき)を行ったことを理由として,国会裁判官訴追委員会(以下「訴追委員会」)が同裁判官に呼出状を発出する事態に至ったことを,心から憂慮しています。
 裁判官弾劾法上,弾劾裁判の訴追の請求があれば調査が行われることになっていますが,職務時間外のツイートを理由に裁判官の呼出にまで至るのは,きわめて異例のことです。

2 裁判官は,弾劾裁判によって罷免されると,原則として5年間は,裁判官になれないばかりではなく,弁護士などの法曹になる資格も奪われます。
 これほど重大な処分であることもあって,罷免の要件は「職務の内外を問わず,裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき」に限定されており,以下に述べるとおり,今回,問題とされた2件のツイート(いずれも自分が担当したのではない訴訟の判決に関するもの)が,これに当たるとは,到底考えられません。

(1)1件は,同裁判官が,女性が性犯罪に巻き込まれ殺害された刑事訴訟の判決が掲載された裁判所のホームページ(裁判所の内規に反して誤って掲載されたもの)のリンクを貼り付けた上で,「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男」「そんな男に,無残にも殺害されてしまった17歳の女性」とコメントしたツイートです。
 同ツイートについては,東京高等裁判所長官から厳重注意がなされました。
 しかし,誤って本来公表すべきでない判決を公表してしまったのは裁判所のミスであり,同裁判官はこれを引用してコメントしただけです。コメントは,被害者遺族の感情への配慮が足りなかったと評価され得るものだとしても,訴追の対象とされるべきとは到底考えられません。

(2)もう1件は,同裁判官が,犬の所有権が争われた民事訴訟の判決について,「公園に放置されていた犬を保護し育てていたら,3カ月くらいたって,もとの飼い主が名乗り出てきて,『返してください』」「え?あなた?この犬を捨てたんでしょ?3カ月も放置しておきながら…」「裁判の結果は…」と記載した上で,ニュース記事のリンクを貼り付けたツイートです。
 同ツイートについては,最高裁判所の分限裁判を経て,戒告がなされました。
 しかし,ツイートに記載された台詞は,事例の概要の紹介に止まっており,関係者の名誉を毀損するなど裁判所に対する国民の信頼を損なう恐れがある内容ではなく,やはり,訴追の対象とされるべきものとは到底考えられません。

3 いうまでもなく,表現の自由は,民主主義を支える重要な基本的人権です。そして,裁判官も個人として表現の自由を有し,とりわけ,勤務時間外の表現行為は自由が原則です。もちろん,裁判官としての職責との関連で一定の制約が許されることもありますが,裁判の公正に対する国民の信頼を損なわないため等の必要最小限の制約が許されるに過ぎません。
 調査事項とされた2件のツイートについては,訴追の対象とされるべきものとは到底思われないにもかかわらず,訴追委員会が同裁判官の呼出を決定したこと自体,裁判官の表現の自由に重大な脅威を与えるものと危惧せざるを得ません(なお,呼出状には調査事項として上記2件のツイートの「前後の状況並びにこれに関連する事実」が記載されていますが,その詳細は不明です。)。

4 また,弾劾裁判法が裁判官の弾劾を「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」に限定したのは,裁判官の独立と三権分立への配慮によるものです。
 政治権力を担う国会が,軽微な「非行」の調査を口実にして,いつでも裁判官に対して圧力をかけられるなら,裁判官は良心にしたがって裁判をできなくなります。ひいては,基本的人権を守る「最後の砦」として国家権力の濫用をチェックするべき裁判所がその機能を果たせず,市民の人権そのものが危機にさらされることになりかねません。
 弾劾裁判法は,政治権力から裁判官に対する不当な圧力を防ぐために弾劾の厳格な要件を定めており,訴追の調査においても,同法の趣旨を尊重した慎重な姿勢が求められます。

5 「つぶやく自由」すらない裁判官に,市民の自由は守れません。
 私たち弁護士は,基本的人権と社会正義の擁護を使命とする(弁護士法第1条)法律家として,裁判官個人の「つぶやく自由」を侵害し,裁判官の独立と三権分立すら脅かしかねない今回の事態を深く憂慮し,国会に対して,憲法が保障する表現の自由を尊重し,本件について弾劾訴追を行わないよう,強く求めます。

 2019年2月28日
呼び掛け人・賛同人一同

呼びかけ人(108名 6/21 12:00)一覧(pdf)

賛同人(氏名公表535名 6//24 13:00 外に氏名非公表54名)一覧(pdf)

(参考資料)分限裁判の記録 岡口基一

(報道)「『裁判官にもつぶやく自由はある』岡口裁判官の分限裁判で声明文、弁護士269人が賛同」(10/1弁護士ドットコム)

(報道)「弁護士602人が『つぶやく自由を』最高裁に提出、岡口裁判官の分限裁判問題」(10/3弁護士ドットコム)

(報道)「裁判官がツイートして懲戒?波紋 弁護士ら批判「表現の自由侵害」」(10/4福井新聞)

(記事)「ツイッターで懲戒が許されるのか? 岡口裁判官の分限裁判で報道されなかった論点とは。」(9/16弁護団伊藤和子弁護士の解説記事)

(決定)分限裁判最高裁決定(裁判所ホームページ掲載PDF)

(報道)「岡口裁判官に国会の訴追委が出頭要請、今後どうなる? 過去には裁判官9人が『訴追』」(2/21弁護士ドットコム)

(報道)「岡口氏の出頭要請『裁判官の表現の自由に重大な脅威』 弁護士有志が賛同者募る」(2/26弁護士ドットコム)

(報道)「『ツイート裁判官』訴追反対請願」(2/28 NHK 首都圏 NEWS WEB)←リンク切れです。

(報道)「『ツイート裁判官』国会の訴追委で聴取」(3/4 NHK NEWS WEB)←リンク切れです。

(報道)「投稿事件遺族から聴取へ=岡口判事のツイートめぐり-被害感情を確認・訴追委員会」(3/16 JIJI.COM)

(報道)「不適切ツイート判事へ訴追25日にも是非判断」(6/17 読売新聞オンライン)

(報道)「ツイート裁判官の訴追、議決先送り 秋の臨時国会以降か」(6/25 朝日新聞DIGITAL)