裁判官にも「つぶやく自由」はある

○裁判官の表現の自由の尊重を求める弁護士共同アピール○

<岡口裁判官への戒告処分の御報告とアピール中止のお知らせ>
 2018年10月17日,最高裁は岡口基一裁判官に対し,分限裁判により戒告処分とする旨の決定を下しました。
 人権を守る「最後の砦」と言われる裁判所の,その頂点に立つ最高裁大法廷が,その「砦」を自ら打ち壊し,裁判官の表現の自由に配慮しない不当決定を下したことに,心からの強い憤りを感じます。
 残念ながら,本日をもって本アピールは中止せざるを得ませんが,短期間のうちに,多数の全国の弁護士が,岡口裁判官の「つぶやく自由」を守る為に声をあげることができたことは,私たちの誇りとするところです。
 私たち弁護士は,今後も,基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする法律家として,全ての人々の人権を守るために,たたかい続けることでしょう。
 「砦」は傷つきましたが,必ず建て直されます。基本的人権のために闘う人がいる限り,そして,それを支える全国の弁護士がいる限り(発起人より)。

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1 私たち弁護士は,東京高等裁判所の裁判官が勤務時間外にツイッターで裁判例を紹介するツイート(つぶやき)を行ったことを理由として,裁判所内で同裁判官に対する懲戒処分手続(分限裁判)が進められていることを,心から憂慮しています。

2 今回,問題とされているツイートは,同裁判官が,自分が担当したのではない裁判の判決について「公園に放置されていた犬を保護し育てていたら,3カ月くらいたって,もとの飼い主が名乗り出てきて,『返してください』」「え? あなた? この犬を捨てたんでしょ? 3カ月も放置しておきながら…」「裁判の結果は…」とのツイートを行い,ニュース記事のリンクを貼り付けたというものです。
 ツイートに記載された台詞は,あくまでも事例の概要の紹介に止まっており,関係者の名誉を毀損するなどの,裁判所に対する国民の信頼を損なう恐れがある内容ではありません。

3 ところが,東京高等裁判所長官は,このツイートが事件関係者の感情を傷付け,裁判官の「品位を辱める行状」(裁判所法第49条)にあたるとして,懲戒申立を行い,現在,最高裁判所で手続が行われています。2018年9月11日に審問期日が開催され,近々,決定が下される恐れがあります。

4 いうまでもなく,表現の自由は,民主主義を支える重要な基本的人権です。そして,裁判官も個人として表現の自由を有し,とりわけ,勤務時間外の表現行為については自由なのが原則です。もちろん,裁判官としての職責との関連で一定の制約が許されることもありますが,裁判の公正に対する国民の信頼を損なわないため等の必要最小限の制約が許されるに過ぎません。

5 単なる裁判例の紹介に過ぎず,裁判所に対する国民の信頼を損なうような内容を含まない裁判官のツイートに対する,今回の懲戒申立ては,明らかに,裁判官の表現の自由「つぶやく自由」に対する侵害にほかなりません。
 国民の人権を守る「最後の砦」である司法においてかかる人権侵害が生じることは,本件だけの問題に止まらず,司法への国民の信頼を損ないかねない重大な事態です。

6 また,最高裁判所が,勤務時間外のツイートに対する表現の自由の制約を幅広く認めて懲戒を行うことの,社会的影響も心配です。
 例えば,今後,従業員の私的なSNSやブログ等への書き込みが,些細な理由で雇用主から懲戒処分の対象とされるのではないかとの不安が社会に広まるなどして,市民間のインターネットを通じた情報交流が萎縮する恐れがあります。
 このような事態は,ツイッターなどのSNSを利用した市民同士の情報交流の発展にとって著しいマイナスです。

7 私たち弁護士は,基本的人権と社会正義の擁護を使命とする(弁護士法第1条)法律家として,裁判官個人の「つぶやく自由」を奪い,SNSを利用した市民同士の情報交流を通じた民主主義の発展を損なう今回の裁判官の懲戒処分手続に対して,強く抗議し,最高裁判所に対し,裁判官の表現の自由を尊重するよう求めます。

  2018年10月1日 


呼びかけ人(99名 10/10 21:00)一覧(pdf)

賛同人(氏名公表706名 10/17 17:00)一覧(pdf)
なお,非公表は上記の時点で53名

(参考資料)分限裁判の記録 岡口基一

(報道)「『裁判官にもつぶやく自由はある』岡口裁判官の分限裁判で声明文、弁護士269人が賛同」(10/1弁護士ドットコム)

(報道)「弁護士602人が『つぶやく自由を』最高裁に提出、岡口裁判官の分限裁判問題」(10/3弁護士ドットコム)

(報道)「裁判官がツイートして懲戒?波紋 弁護士ら批判「表現の自由侵害」」(10/4福井新聞)

(記事)「ツイッターで懲戒が許されるのか? 岡口裁判官の分限裁判で報道されなかった論点とは。」(9/16弁護団伊藤和子弁護士の解説記事)