1 劣化ウランとは
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- ウラン濃縮過程で生まれる強い毒性と放射能を持つ副産物。「劣化」ウランと呼ばれるのは濃縮過程で核分裂物質であるウラン235の割合が0.7%から0.2%に減少するから。劣化ウランの放射能は天然ウランの約60%,半減期は45億年(文献1p45)。
- 劣化ウランは高密度で固く,また,数百度に熱すると激しく燃焼する。これが兵器の材料として重要視される理由。
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2 性能
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- 劣化ウラン撤甲弾は射程距離が長い。湾岸戦争でイラクが使用したロシア製T−72型戦車の有効射程距離は2000メートル以下だったのに対して,劣化ウラン弾を 使用したアメリカのM1A1戦車の有効射程距離はおよそ3000メートル。英国チャレンジャー戦車は劣化ウラン弾を用いて5100メートル以上離れたイラク戦車を破壊した(文献1p46)。
- 劣化ウラン装甲は戦車を敵の攻撃から守るのに極めて有効である。湾岸戦争時イラク南部で、泥にのめり込んだM1A1戦車に対して3両のT−72型戦車が攻撃を仕掛け、それぞれ砲弾を同戦車に浴びせたが、いずれも有効な損傷を与えられなかった。これに対してM1A1戦車は劣化ウラン弾を発射し、これら3両のイラク戦車を破壊。うち最後の1台は保塁に隠れて完全に視界から消えたが、劣化ウラン弾は保塁を突き抜けてその後の戦車を破壊した(文献1p48)。
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3 製造費用 |
- 50年にわたってウラン濃縮を行った結果,アメリカは11億ポンド(約50万トン)を超える劣化ウラン廃棄物を保有するに至っており,その貯蔵の負担が問題となってきた。このため,1970年はじめにアメリカ政府はこの貯蔵の負担を軽減するための処理方法を模索しはじめ,その方策の1つとして劣化ウランの兵器利用の研究が進められた。このような経緯から,劣化ウランは兵器製造業者に無償で与えられている。
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4 人体への影響 |
- 細気管支や肺胞に沈着した「劣化ウラン」の微粒子は,そこで放射線の一種であるα線を出し続け,肺ガンを引き起こす。また食細胞に貪食され,肺から血液やリンパ流にのって全身に運ばれる。造血臓器である骨髄に沈着した「劣化ウラン」粒子は,1日に2回の割合でアルファ線を出し,周囲の細胞に障害を与え続け,白血病の原因となる。
胎盤に至った粒子は胎児のDNAにキズをつけ,先天障害を引き起こす(文献2p35)。
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5 劣化ウランの毒性を示す米軍の対応
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- 重量と安定性を与えるためその先端に劣化ウランが使用されているトマホークについて,アメリカ海軍の取扱説明書では試験中に衝突して壊れたトマホークを修理するには,放射線防護服,手袋,呼吸用マスク,線量計等の使用が義務づけられている(文献1p46)。
- 湾岸戦争における「砂漠の嵐」作戦が終わって数か月後の1991年6月,陸軍兵器軍用品化学司令部は,兵員教育用に陸軍訓練施設宛てに,次の作戦司令書を送った。
「燃えた車両の中に入るときは,劣化ウラン粒子の吸入や飲み込みに注意しなければならない。手袋とともに,防毒マスクまたは防護面を装着しなければならない。理想的には,防護服も着るべきである。車両から出た後は,手を徹底的に洗わなければならない。服についたホコリは全て払い落とすか,もしくは防護服を廃棄しなければならない」(文献1p52)。
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6 過去の使用実績 |
- イラク・湾岸戦争 1991年
- 320トン(米国防総省)〜800トン(LAKA財団,演習や火災事故による分も含む)
- ボスニアヘルツェゴビナ 1994〜95年
- 3.2トン(30ミリ機関砲弾1万0800発)
- 旧ユーゴスラビアコソボ自治州周辺 1999年
- 9.2トン(30ミリ機関砲弾3万1000発)
- アフガニスタン 2001年
- バンカーバスターはじめ合計1000トンを超えるという指摘もあるが,詳細は不明。
- イラク戦争 2003年
- これまでに開発された劣化ウラン兵器がほとんど全て使用されたと思われる。1100トン〜2200トンという推計もあるが,200トン(米国のダン・ファヒイ氏の推計),500トン(米軍特殊部隊大佐と称する人物の証言)などの数値が上がっている(文献2p41)
- ※日本・沖縄鳥島 1995〜96年
- 戦争における使用ではないが,米軍射爆場のある沖縄の鳥島に,米軍は25ミリ劣化ウラン弾1520発を「誤射」した(文献2p2)。
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7 世界各地での被害の広がり |
- 湾岸戦争
- 悪性腫瘍を発症したイラク南部バスラの子供の数を見ると,1990年19人,1993年27人に対して,1997年43人,2000年92人,2002年160人と,湾岸戦争後年を追うごとに飛躍的に増えている(文献2p2)
同じくバスラで発生した先天性異常出産の数は,1990年37人(新生児1000人あたり3.04人)に対して2001年254人(同22.19人)と,こちらも飛躍的に増えている(文献2p3)
- コソボ
- 「彼はコソボで平和維持軍に従事していました。そこで4か月駐留していました。…2002年の10月に病気になりました。すごい高熱が出て,2日後に医者は白血病にかかっていると言いました。次の日,昏睡状態になり,それから14日ほどで,彼は死にました。あっという間でした。
…マケドニアで彼と同時に任務にあたっていた少なくとも4人が同じ病気にかかっていました。」(スペイン女性の証言,文献2p11)
- アフガニスタン
- アフガニスタンにおける劣化ウランによる地下水汚染は深刻。WHOの最大許容量は2000ng(ナノグラム)/lなのに対して,ジャララバードのひどいところで56410ng/l,カブールのひどいところで38278ng/lとなっている。…しかし干ばつの続くアフガニスタンでは,人々は地下水を飲むしかない(文献2p7)。
「私の小さい息子の,モンスターのような赤い腫瘍を見たとき,アメリカ人は彼らがなぜ嫌われるのかどうして分からないのだろうか,と思った」(バクティア在住の男性)
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8 それでも劣化ウランは使われ続ける |
- 陸軍のAEPI報告書は次のように述べて,劣化ウランについての調査結果のうさんくささを指摘する。
「国防総省の内外を問わず報告書を見直し,検査専門家を増員し,報告書の信頼性を高めなければならない。…なぜならば,結果に利権がある団体によるか,若しくはそのような団体のための研究が,あまりにも多いからである」(文献1p57)。
- 「国防総省は,戦闘中における劣化ウラン関連の問題点を完全に認識している。しかし,戦闘用車両の防御にこれを使えば,戦場での兵員生存率が実質的に上昇する。さらに,劣化ウラン兵器の射程が伸びることによって,自軍の死傷率の減少において重要な戦術的利点が得られる(米国保健担当国防次官ステファン・ジョセフ博士の連邦議会での証言,文献1p57)
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