シンジが、第3新東京市の一角にある、惣流宅を訪れた時、そこにはアスカしかいなかった。
アスカから指定された時間。
頭の中でシンジは、そのことを予想していたし、自ら望んでもいた。
アスカと二人だけで会いたかった。
冬月宅で感じたアスカの薫りを、また感じたい、と思っていた。
そして、玄関に入った途端に、シンジは目の前にいるアスカの薫りに触れていた。
身体全体で触れていた。
心で触れていた。
他には何も感じなかった。
それは、玄関にある花瓶に、何も生けてなかったからかもしれない。
だがしかし、とにかく、シンジはアスカを感じていた。
いつもの居間に通されたシンジは、アスカが長いソファーに腰掛けるのを見届けると、 自分もその横に座った。
そして、そのままどれほどの時が過ぎただろうか。
シンジがこの部屋を訪れてから、二人は一言も言葉を発していなかった。
シンジはアスカを、
アスカはシンジを、
それぞれ見つめるだけ。
言葉なく、
動きなく、
ただ、同じ空間で、
同じ空気の中で、
同じソファーの上で、
二人はお互いの存在を、
目で、
肌で、
感じていた。
二人をつつむ大気は穏やかだった。
二人の心も穏やかだった。
だが、時が過ぎるごとに、大気の温度は上昇していった。
それとともに、二人の心の温度も上昇していった。
・・・いや、違う。
二人の心の高まりが、大気の上昇をよんだのだ。
そしてとうとう・・・、
シンジは、アスカの髪に手を伸ばした。
アスカはとっさに後ろを向いてしまう。
だが、シンジはそんなアスカの行動にはかまわない。
サラサラと流れる、艶やかなその髪を一房手に捕ると、シンジは、その髪に唇を寄せた。
シンジの行為を感じたのか、アスカはビクッと震えた。
アスカの後ろ髪に口付た後、その手を髪に添って伸ばした。
その手が、アスカの肩に触れる。
その肩は、小刻みに震えていた。
その震えを手に感じながら、シンジは、その豊かな髪をそっとよける。
そして今度は、アスカの首筋に唇を寄せた。
その瞬間、小刻みに震えていたアスカの身体が、一度、大きく震えた。
「・・・!!」
同時にアスカは、息を飲んだ、声にならない声を、口からもらしていた。
アスカの震えは止まらず、口より漏れる声も止まらなかった。
そして、シンジも、そこで止まりはしなかった。
シンジは、アスカの首筋に、所狭しと口付けた。
その唇からは、熱い吐息が漏れていた。
アスカの息も次第に熱くなり、とうとうシンジの方を向いた。
二人の唇が引き寄せられ、互いの唇をむさぼった。
どちらからともなく舌を絡ませていた。
頬を紅潮させて、互いの舌をむさぼりあった。
言葉はなかった。
二人とも、ただ切ない声を漏らすだけだった。
そして、二人の瞳からは涙がこぼれていた。
なぜ、涙が出るのか、二人にはわからなかった。
悲しみの涙なのか・・・。
喜びの涙なのか・・・。
それとも、まったく違うものなのか・・・。
二人にはわからなかった。
二人はただ、互いを欲していた。
それだけはわかっていた。
たとえ、その理由がわからなくても・・・。
だから、二人は互いを求め合った。
互いの身体に手をまわし。
唇に、頬に、まぶたに、耳に、首筋に唇を這わせ。
互いの服に手をかけた。
二人には、互い以外の何も目に入っていなかったし、耳に入ってもいなかった。
頬を紅潮させ、互いを見つめ合い、互いのボタンを外しあった。
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
「うーん・・・。やっぱりこんなもんかしらねぇ・・・?」
壁いっぱいにたくさん並んでいるモニターの前に、一人の女性が腕組みをしながら椅子に座っていた。
その部屋は薄暗く、彼女の姿は、そのたくさんのモニターの明かりによって浮かび上がって見えた。
それは、彼女が白衣を着用していたところから、よけいにその姿を浮かび上がらせて見せていた。
「なにをやっているのだ、ユイ?」
そう言いながら部屋に入って来たのはゲンドウだ。
そして、彼の言葉にもあったように、その女性は碇ユイ。
人類補完計画の要の人物だ。
「あら、あなた。旧市の方は良いんですか?」
ユイは、ゲンドウの方に、椅子を回転させて向き直った。
「あちらの方の仕事は、すべて冬月に任せてある。」
ゲンドウは、問題無い、とでも言いたげに、眼鏡をクイっと上げた。
そんなゲンドウの仕草を見て、ユイは、ため息をひとつつく。
顔には、困った人、といった表情が浮んでいる。
しかし、ユイもこういったゲンドウの性格には慣れたもの。
すぐに気を取り直して、再びモニターに向き直った。
「この新市の最初のステージに使うアスカちゃんの設定を考えてるんですよ。どうせなら、楽しい方がいいでしょ。」
一つ一つのモニターを目まわすユイの目は、ランランと輝いているように思える。
「やっぱりシンジと絡めるのが一番面白いと思って、色々設定を考えてみたのだけど、あなたはどう思う?」
「うむ、そうだな・・・。」
ゲンドウも、モニターを一つ一つ確かめる。
こちらの瞳も、なにやら異様に輝いているように見える。
多分、二人とも楽しんでいるのだろう。
きっと、ここに冬月がいたら、
『アスカ君の治療のために補完計画のステージを使うだけでなく、それを楽しんでしまうとは、 妙なところでけっこう似ているな、この夫婦。楽しみながら公私混同の点 ・・・。』
こんなことを思っただろう。
もしかしたら、ただ思うだけでなく、ちょっとばかりこめかみを押さえたかもしれない。
だが、ここに彼はいない。
二人は、誰にも邪魔される事もなく、作業を進められた。
・・・まあ、誰がいてもこの二人を止める事、あるいは注意することなど不可能に違いなかったが・・・。
「な、なんだこれは?」
ゲンドウの目に入ったモニターの中では、なぜか大人にしか見えないアスカとシンジの絡みが映っている。
つまりは、つい先程までのあれだ。
「え? なかなか面白いでしょ。可能性の中の一つよ。」
にこやかに言ってみせるユイ。
ゲンドウの表情は見えないが、どうも戸惑っているように思える。
「心だけをこっちに持ってくる弐号機パイロットならまだしも、身体ごと持ってくるシンジに、これは無理なのではないのか・・・。」
そういう声も、冷静ぶってはいるが、こころなしか音程が違っているように思えた。
「そうね、確かにそうなのよねぇ・・・。私は面白いと思ったんだけど・・・。」
なぜかとても残念そうなユイ。
こういう事は、面白い面白くないで選ぶようなことじゃないと思うのだが・・・。
「あなたは、どんなのが良いと思う?」
訊ねるユイ。
「そうだな、これなんか無難なんじゃないか?」
ゲンドウが示したモニターをユイも見る。
「うーん、どうかしらねぇ・・・。」
そのモニターに映っていたのは・・・。
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
彼女の名前は惣流アスカラングレー。
つい昨日、この第3新東京市に引っ越して来たばかりの中学2年生だ。
でも、アスカはここで生まれて、ここで大体小学校低学年くらいまで育った。
だから、アスカにとっては、引っ越してきた、というよりも、帰ってきた、といった感じの方が強かったかもしれない。
アスカは、日独米のクォーターで、金髪なのかよく分からないが、長く奇麗な髪と、 抜群のスタイルを誇っていた。
といっても、アスカ自身がそれを誇っていたわけじゃない。
アスカは、今までアメリカに住んでいたわけであって、その程度の女の子は、結構ゴロゴロいたからだ。
第3新東京市へ帰る事が決まった時、家族の中で一番それを喜んだのは、アスカだった。
なぜなら、アスカはこの街に、とても会いたい人がいたからだ。
アスカの幼馴染み。
昔、隣に住んでいた同い年の男の子。
約束の相手。
アスカが、忘れる事の出来ない、大切な思い出の中の男の子。
そんな思いを秘めて、この街に戻ってきたアスカだったが、今のアスカは、そんな心温まる思い出とは無縁の状態にいた。
「はっ、はっ、はっ・・・」
そこには、バターを塗ったトーストを必死にくわえて走るアスカの姿があった。
「ああ、遅刻チコクゥッ。転校初日から遅刻じゃ、かなりヤバイって感じだよねー」
一体この状態でどうやってしゃべっていたのだろうか・・・!?
まあ、深いことは考えないことにしよう。
とにかく、アスカは左にカバンを持ち、右腕を大きく振って走っていた。
やがて、交差点にさしかかり、そこを全速力で曲がろうとした。
と、その時!!
「「あっ!!!」」
ごっつーーーん!!!
本当に、こんな音がアスカには聞こえた。
「いててててて・・・」
アスカは、頭を抱えて、思いっきり痛そうな声をあげていた。
その格好は、体育座りのようなポーズだっただろうか・・・。
そして、その正面には、同じ様に頭を抱えながら地面に尻餅をついている男の子の姿 があった。
ちなみに衝突した時にアスカがくわえていたトーストは地面に落ち、すでに数羽の小鳥達の朝食と化していた。
「あいたたたたた・・・あっ」
「・・・ん?」
アスカが "何か" に気付いた。
目の前の少年も "何か" に気付いた。
もしかして、スカートがめくれてない・・・!?
アスカは、あわててスカートを整えた。
「あ、あはは、ほんと、ごめんね。マジで急いでたんだ」
アスカは、すぐに立ち上がったが、恥ずかしさのあまり、笑う事しか出来なかった。
その時、男の子の後ろに立ってこっちを見ている女の子の姿も目に入ったが、今のアスカにそんなことを気にしている余裕はなかった。
「ほんと、ごめんねー。」
それだけ言って、アスカは落ちていたカバンを拾うと、再び走り始めた。
顔を真っ赤にしながら・・・。
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
「確かに無難なセンかもしれないわね。アスカちゃんかわいいわぁ。シンジとの出会いもなかなか劇的で、第一印象はバッチリってところかしら。」
ユイはにこやかに笑いながらうなずいている。
「うむ、私もそう思うぞ。」
とゲンドウも、こちらはニヤリと口端を上げた。
しかし、頭をゴッツンこ。
しかも、パンツ見ちゃったよ、な出会いのどこが第一印象バッチリなのだろうか・・・?
確かに、ある意味劇的ではあると思うが・・・。
だが、二人はそんなことは頭の中をかすりもしないらしい。
なかなか満足げな表情をしている。
「でも、もう少し可能性を見てみましょう。」
「そうだな、ユイ。」
二人は、今度は違うモニターに注目した。
その表情は、物凄く楽しそうだ。
・・・いや。
楽しそう、なんじゃなくって、完璧に楽しんでいるんだな、この二人は・・・。
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
「すごかったね・・・、パレード。」
アスカとシンジは、二人だけで遊園地に来ていた。
しかも今日はクリスマスイブ。
暗闇に浮かぶイルミネーションは、二人の雰囲気を、いやがおうにも盛り上げていた。
「ホントね・・・。でも、見た!? あの目つきの悪いコアラのイルミネーション。 あれだけは、ちょっといただけなかったわね・・・。」
「ははは・・・。」
楽しげに談笑をしながら、園内を歩くシンジとアスカ。
二人の腕は、しっかりと組まれたままだ。
そんな二人の鼻先に、突然マイクが差し出された。
いきなりのことに驚く二人。
「こんばんは、クリスマスイブの夜、いかがお過ごしですか?」
そう、二人に声を掛けたのは、マイクを持ったレポーターらしき女性だった。
後ろには、カメラさんやら、照明さんやら、音声さんやらまでいる。
これは、紛れもなく、テレビの生中継というものだった。
シンジは思い出していた。
ここにくる前、テレビで彼女が人々にインタビューをしているのを見たのを。
「あらあら、二人とも緊張しちゃってるのかな? 」
驚いて、声も出せなかった二人に、レポーターが言う。
「見たところ、恋人同士みたいだけど、楽しい夜をすごしていますか?」
「「え・・・、こ、恋人同士って・・・。」」
「「僕達(あたし達)は、そんな・・・。」」
うろたえぎみに、しかし、見事にユニゾンを果たしてしまう二人に、リポーターの女性は、
クスクス、
と、笑って、
「ホントに微笑ましいわね。うらやましくなっちゃうわ・・・。」
と、つぶやいた。
アスカとシンジの二人は、ただ真っ赤になってうつむいてしまうのだった。
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
「うむ、既に知り合い、というセンもなかなか良いのではないか?」
「そうね。こんなカンジの『友達以上、恋人未満』の関係から一気に盛り上がるっていうのも良いわね・・・。」
ユイは、視線を宙に向け、何かを考えている風にする。
時々、顔がほころんでいるから、きっとその、『一気に盛り上がる』というのを想像しているのだろう。
だが、ちょっと恐いぞ、ユイ。
しかし、どうやらゲンドウは、そんなユイの行動には慣れたものらしい。
動じた様子は見れなかった。
「ユイ。」
ゲンドウが声をかけると、ユイはその想像の世界から引き戻されて、
「は、はい・・・。」
ちょっと、あわててゲンドウに向き直る。
「ゴメンナサイ。ちょっと考えごとをしてたみたい。」
頬に手をやるユイ。
ゲンドウは、
「慣れている。問題ない。」
とだけ言った。
しかし、こんな事に慣れているということは、ユイはいつもこんな調子なのだろうか・・・?
・・・分からん・・・。
「さっきのシュミレーションの設定で、時間を経過させてみましょうか?」
気を取り直したのか、ユイは、ちょっと悪戯っぽそうな瞳をたたえる。
ゲンドウは、又もや、
「反対する理由はない。」
とだけ言って、モニターを見つめなおした。
もちろん、その口端はクイっと上がっているのだった。
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
「あーあ・・・。こんな土砂降りじゃ、今日はずっと家に居ようかな・・・。」
ばしゃばしゃと雨の降っている様子を見たシンジが腰を降ろそうとすると、
ピンポーン、ピンポピンポーン・・・!!
ドアの呼び鈴がけたたましく鳴った。
なんだかすごい勢いだ。
「はーい・・・。」
そのドアベルの勢いに、ちょっと気圧されながら、シンジはドアを開けた。
すると、そこには、
「アスカ・・・!?」
アスカが立っていた。
しかし、その姿は哀れにも濡れ濡っている。
髪や、手に持っているビニール袋からは、水が滴り落ちていた。
「どうしたのアスカ!? 早く上がって!!」
濡れネズミ状態のアスカに驚いたシンジは、アスカを急かせた。
「『どうしたの』、じゃないわよ!! 梅雨は明けたんじゃなかったの!? まったく・・・!!」
アスカはプンプンだ。
こうなると、手がつけられない。
それがわかっているシンジは、アスカから荷物を受け取ると、
「話は後で聞くから、シャワーを浴びちゃいなよ。そのまんまじゃ風邪ひいちゃうから。」
そう言って、アスカを促した。
アスカは、
「もちろんそのつもりよ!!」
と、ちょっとイラついた声で言うと、かって知ったル他人の家、といったカンジで(なんでだ?)、脱衣所に向かった。
そして脱衣所から、
「コーヒー。入れといてよ。」
と、シンジに声をかけた。
「入れとくよ。」
シンジが答える。
一瞬の間をおいて、アスカが扉からひょっこりと顔だけ出した。
シンジが、
「・・・?」
疑問符を浮かべてアスカを見ると、
「インスタントじゃダメだかんね。」
アスカはそう言って、シンジをにらんだ。
シンジが、
「わかってるって。」
と、手を振って見せると、アスカは顔を引っ込めた。
シンジは、そんなアスカの調子に苦笑しながらも、
「さて、コーヒーを入れようかな。」
キッチンに向かった。
が、しかし・・・。
「あっちゃぁー・・・。これはこれは・・・。」
シンジがキッチンで見つけた物は、空っぽのコーヒー缶だった。
「こまったな・・・。」
本当に困った、という顔をして、シンジは腕を組んで考える。
まあ、考えると言っても、出て来る答えは一つしかないんだけど・・・。
シンジは、
「はあ・・・。」
一つため息をつくと、脱衣所にいるアスカに声をかけた。
「アスカ・・・! ボクちょっと近くのコンビニまで行って来るよ。上がったら、ここに着替え置いとくから、これ着といて。」
そう言って、スウェットを置く。
そして、カサを持って、土砂降りの中を一路コンビニへと向かった。
「うひゃー・・・。ひどい雨だった・・・。」
ぶつぶつ言いながら、シンジが帰って来た。
手には、コンビニの袋を持っている。
部屋に、シャワーの音はしていない。
アスカはもう出ているようだった。
「アスカー・・・? もう上がってるの・・・?」
そう言いながら、シンジはキッチンのテーブルにコンビニの袋を置いた。
すると、
「こっちよ、シンジ・・・。」
奥の方からアスカの声が聞こえる。
あっちは、シンジが寝てる部屋の方だ。
『あっちか・・・。』
とか思いながら、シンジはコーヒーを沸かした。
そして、マグカップ二つにコーヒーを入れて、部屋に行く。
「はい、アスカ。コーヒーお待たせ・・・って・・・えぇ・・・!?!?」
そこでシンジを待っていたのは、用意しておいたスウェットでなくて、シンジ のワイシャツを着て・・・。
というか、シンジの大きめのワイシャツだけを着て、ベッドの上にちょこん、 と座っているアスカの姿であった。
白いワイシャツの胸元から覗く、白い素肌がとてもまぶしい。
シンジは、声を失っていた。
でも・・・。
「脱衣所に干してあったのを借りちゃった・・・。」
両手にマグカップを持ったまま、呆然と突っ立っているシンジに、アスカはペロッと舌を出した。
「いけなかった・・・?」
まさに小悪魔的な笑みだった。
特に、袖の先を、ちょん、とつかんでいるところなんか、ツボをつかんでいる。
(なんのツボだ?)
シンジは、
「そ・・・、そんなことないよ・・・。」
と言うのが精一杯だった。
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
「お、おいユイ。なぜここで止めてしまうのだ!? 続きはどうした・・・!?」
ゲンドウが、少し慌てたような声を上げた。
その頬は、少し紅潮している。
何を期待しているのだ、ゲンドウよ・・・?
「あなた・・・!」
そんなゲンドウを睨むユイ。
その睨み方は、阿修羅ですらかなうまいと思わせる、もの凄い物だった。
ヒィィ・・・!!
目の前でその表情を見てしまったゲンドウは、縮みこまってしまう。
まるで幼子のような脅え方だ。
なにかトラウマでもあるのだろうか?
「わ、私はただ・・・、ち、父親としてだなぁ・・・む、息子の成長の過程を見守る義務がだなぁ・・・。」
心臓をバクバクさせながら、冷や汗をダラダラ流しながら、理論武装を固めようとするゲンドウ。
だが、今まで散々息子の事をほっぽっておいた彼が、こんなことを言っても何の説得力もないのであった。
そしてそれは、効果がないだけでなく、ゲンドウの立場を悪化させる事になった。
「ちーちーおーやーとーしーてー・・・ですってぇー・・・!」
初号機にいた頃の記憶もちゃんと持っているユイ。
ゲンドウが、自分の息子にたいして、どのような態度をとってきたのかも、ちゃんと知っていた。
「これは・・・、お仕置きね・・・。」
般若ですら裸足で逃げ出すような表情でゲンドウを睨みながら、ポツリと、
声だけは明るく言うユイ。
言われたゲンドウの方は、既に泣きそうだ。
一体、どのようなお仕置きを想像しているのだろうか?
やはり、昔、具体例を体験した事があるから、これほど脅えるのだろうか・・・?
ガチガチとふるえて、歯も噛み合っていない。
なんとも見苦しい姿をさらしている。
そして、ユイがゲンドウに向かって一歩踏み出した時、
ピー・・・。
と、呼出音が鳴った。
その音を耳にして、
ユイは、チっと舌を鳴らし、
ゲンドウは、ホっと胸をなでおろした。
なさけないぞ、ゲンドウよ。
ユイは、コントロールパネルの一角にあるモニターの前に立ち、スイッチを入れた。
「あら、冬月先生。ごめんなさい、うちの人が仕事を押し付けてしまったみたいで・・・。」
モニターに映しだされたのは冬月。
旧市の本部からの通信だった。
「なに、碇のヤツに仕事を押し付けられるのは、慣れっこになってしまったよ。」
いつもの、苦笑ともとれる表情をする冬月。
それを見て、やはり後でお仕置きをしなければ、と心に誓うユイだった。
そんなこととはつゆしらず、助かったと思っているゲンドウも、その会話に参加して来た。
「どうしたのだ、なにか問題でもあったか。」
先程まで風に揺れる枯れ葉のように震えていたとは思えない口調だ。
「うむ。入院しているレイのことだ。」
「レイちゃんが、どうかしたんですか?」
自分の人格が分離したためにレイに負担をかけてしまったユイは、心配げに聞いた。
「なに、無事に意識も回復した。もちろん、性格はあのままだがな。」
性格があのまま、というのは、ユイが分離した時に変わってしまったままだ、ということだ。
「そうですか・・・。」
「なに、経過は順調だよ。レイをそっちに送れる日も近いだろう。」
「ありがとうございました、冬月先生。」
そうこうして、通話は終わった。
「ユイ。レイが来れるとなると、レイの設定も一緒に考えた方が良いのではないか?」
「そうねぇ・・・。一緒に考えてしまいましょうか。」
ユイは、もといた椅子に座って、パネルをいじりだした。
レイのデータをシュミレーションに加えているらしい。
そして、たくさんのモニターが一度みんな消え、一つずつ、またシーンを映し始めた。
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
「やあ、R・綾波レイよ。」
「ちょっとちょっと、あたし達はこっちよ!!」
「あははは・・・、面白い名前ですね。」
「どういう名前よ!!」
「まあまあ、過ぎたるは及ばざるがごとし。あんまり怒ると胃に悪いわよ、ばーさん。」
「な・・・、なんですってーーー!!」
「胃が悪くなると、ご飯が食べられなくなるのよ。」
「だ・・・、だから・・・。」
「ご飯を食べないと、お腹がすくじゃありませんか。」
なんてことを話していたと思ったら、いきなり姿が見えなくなって。
「バスケット部の方が、なにか騒がしいわ!!」
バス!!
「わー!! また入ったぞ!!」
「これで30本連続のスリーポイントシュートだぞ!!」
「レイ!! 一体なにをやっているの!?」
「わー・・・、レイちゃんすごーい!!」
そしたら、くるりん!! って首が!!
「あ・・・、あなた、首が後ろにまわってるわよ!!」
「う・・・、無表情でそんなことやられると、更に気色悪い・・・。まったく、『エクソシスト・レイ』って呼んじゃうわよ。」
「ねえ、それ、戻らないの?」
「はい。」
ギギギギ・・・。
ベキッ!! ポロッ・・・。
「げーーーー!!??」
「なんなんだこいつーーー!!!」
「く・・・、首が・・・。」
「もげた・・・。」
「レイちゃん、あなたってもしかして・・・、ロボットだったの!?」
「違いますよ。」
「どこが違うのよ。どっから見てもそうじゃない。」
「ロボットじゃなくてクローンですよ。」
「一体なんのクローンなんだーーー!!!」
「でもまあ、クローンなら・・・。」
「無表情なのも、髪が青いのも目が赤いのも・・・。」
「きっと粗悪なクローンなんだということで・・・。」
「納得出来るわね。なーんだ、わかってしまえば、何ともつまらない結論だったわね・・・。」
「・・・、っておまいら!! なんでこんなところにクローンが居るのかって言う事の方が問題だろうが・・・。」
「そーんなの、面白ければいいに決まってるじゃない。」
「ねー。」
「(これだから光画部は・・・。)」
「でも、レイちゃんってどこから来たの?」
「わからない。」
「わからないって・・・。じゃあ、お父さんとか、お母さんとかは?」
「それなら・・・。」
っていうわけで、レイちゃんに連れられて来たのは、なんとも怪しげな建物。
表札には、『六分儀ゲンドウ人類進化研究所』って書いてある。
そして、中から出て来た人は、それよりも怪しかった。
「あの、あなたが六分儀博士ですか?」
「むむむ・・・、私を六分儀と知っている、君達はだれだ!?」
「はあ、私達は・・・。」
「あのー、これ、なんですか?」
床に転がっていた、まるで旧鉄人の背中についていたロケットのようなものを差し出した。
「ふむ、いー質問だ!! これはな、このようにして背中に取り付け・・・、点火!!」
ゴゴゴゴゴーーー!!!
「・・・、というふうに、空に飛んでいくわけだ。私は飛ばなかったが。」
「(・・・!?)」
「あ・・・、あなたは・・・。」
「どうしたのレイちゃん?」
「その人は・・・、お父さんではないですか。」
「ええ!!??」
「むむ!! 私をおとうさんと呼ぶ、キミはだれだ!?」
「いや、だから、彼女が、R・綾波レイなのですけど。」
「む! むむむ!! おーおーおーおーおーおーおー・・・・!! 思いだせん!!」
「だめだわ、このおっさん・・・。」
「だが!! 私は断じてお父さんなどではなーい!! 一個人、六分儀ゲンドウだ!!」
「ちがいますよ。六分儀ゲンドウじゃありませんよ・・・。」
「なんですって・・・!?」
「お父さんですよ。」
ダアーッ・・・!!
「この間の抜けた会話、何とかならないのかしら・・・。」
「ほら、ここにお兄さんが・・・。お姉さんまで・・・。」
レイちゃんが引っ張って来たものって、なんかわけわかんない形してる。
「ちがわいちがわーい!! これはサキエルにシャムシェルだーい!!」
「駄々っ子かあんたは・・・。」
「なんてな。」
「はあ?」
「本当は覚えておるわい。綾波レイなどというから分からなかったのだ。そいつは二人目じゃないか。」
「二人目・・・?」
「そうそう。それで、そこに転がっているのが第三使徒と第四使徒。」
「・・・、って、レイの方が番号が若いじゃないですか。それなのになんで向こうが お兄さんとお姉さんなんですか?」
「そういう設定なんだからしょうがないだろ。元々無理がある話なんだから。」
「それを言っちゃあお終いですよ。」
「でも、なんでレイちゃんを作ったんですか?」
「うむ、よい質問だ。実はな、わしには妻がいた。その名をユイという。」
「はあ・・・。」
「愛しい妻だった・・・。しかし、ある日、その妻が交通事故にあってしまったのだ・・・。」
「そんな・・・。」
「悲しみにくれたわしは、一心不乱に、妻によく似たアンドロイドを・・・。」
「・・・? なんか、どっかで聞いたような話だな・・・?」
「あの、それと・・・、レイちゃんって、クローンじゃなかったっけ・・・?」
「でも、それならなんで、高校生にしたんですか?」
「決まっておろう!! たんなる趣味だ!!」
ダアーーーッ!!
「こいつ、ただの危ないおっさんだよ・・・。」
なんてことを話してたら。
「あらあなた・・・、お客さんですか・・・?」
「げげ!! 大人になったレイちゃん!?」
「わしをあなたと呼ぶ・・・。お前はだれだ!?」
「いやですよ。あなたの妻のユイですよ。」
「なに!? わしの妻!? おお!! おーおーおーおーおー!! 久しぶりではないか、我が妻ユイよ。」
「お昼ご飯の時に会ったばかりじゃないですか。」
「むむ!! なに、そういうこともあったかもしれん。」
「はいはい。」
「(なんか知んないけど無茶苦茶だ・・・。)」
「本当に無理のある話だわ。でも、まだ終わってもらうわけにはいかないのよ。 なにせあたしがまだ出てないんだから。ねえ、シンジもそう思わない?」
「眼鏡かけたら・・・?」
「え・・・?」
「いいから、眼鏡をかけてみなって。」
「あたし、シンジの前じゃ眼鏡かけたくないな。みっともないんですもの(きゃっきゃっ)」
「そんなことないよ。眼鏡をかけてるときのキミも素敵だよ。」
「そう?」
「もちろんだとも。」
「それじゃ。」
「おおう!! なんて素敵なんだ!! 惣流アスカ、キミは最高だ!!」
「・・・、って、どあああーーー!!おめえ、相田じゃねーか!!」
「やっと気付いたか。」
「てめえ、人の弱みにつけこんでからかいやがったなー!!」
「ほらほら、その性格。うかつに出すと不利だぜ。」
「う・・・!」
「生徒会長選に出るんだろ。人目には、気をつけたほうがいいと思うな。」
「ん、んん・・・。何の話しだったかしらー?(コロコロコロ)」
「そうそう、その調子。」
「と、とにかく、校内の風紀を正す必要があるようね!! 前売りで、あたしのテレカより、あの転校生のテレカが先に売り切れるなんて、あってはならないことだわ!!」
「まったくそのとーりだ!! やりたまえアスカ!! この碇シンジ、キミのためなら死ねる!!」
「いいかげんにせんかあーー!! 相田ーー!!」
バキぃ・・・!!!
「・・・!!??」
「ホント、平和だねー・・・。」
「というわけで、レイを生徒会長選に出馬させることにした。」
「どういうわけよ。」
「まーまーまー、気にしないの。元々破綻してるお話なんだから。」
「・・・。」
「面白い、その話、のったわ。」
カラコロ
「なに? そのカラコロっていうのは?あんたの頭の中から聞こえて来るようだけど・・・?」
「知らないの・・・。私は二人目だから・・・。」
「(なんの関係があるの・・・?)」
そのころ六分儀宅では・・・、六分儀ゲンドウが頭を悩ませていた。
「はて、このネジはいったいなんだったろうか・・・?」
そんなこんなで光画部が騒いでいると。
「いやあ、なかなか盛り上がっているようだねえ、光画部の諸君。生徒会選のライバルとして、一言挨拶に来たよ。」
「あの、どちら様でしょうか?」
「またまた。この僕を知らないとでも?」
「ものを知らん奴とみえる。彼が有名な、色魔碇シンジだ。」
「だーれが色魔だ!!」
「いいのか、女の子が見てるぜシンジ。」
ハッ!!
「フ・・・。」
「『フ・・・。』じゃなあーい!!」
ゲシゲシ!!
「やあ、惣流さんじゃありませんか・・・。」
「綾波レイ・・・、あなた、いきなり立候補なんてしたけど、一体生徒会長になって 何をするつもり!? あなたのビジョンってものを聞かせていただきたいわね。・・・、 どうせそんなもんないんでしょう。だいたいお人形のくせになまいきなのよ。 あんたなんかに生徒会長が勤まるものですか!@#$%^&*?|+_ ̄・・・・。以下省略」
ゼエゼエハアハア・・・。
「何とか言ったらどうなの!!」
「・・・そう、よかったわね。」
「ムッキーー!!くやしいいーーー!!」
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
「・・・。」
「・・・。」
ユイとゲンドウの二人は、呆然と、言葉なくモニターを見ていた。
いや、すでに焦点は合っていないようだったから、モニターを見ているわけではなく、ただモニターの方を向いているだけ。
そのまま、どれだけの時間が過ぎただろうか?
「・・・!?」
「は・・・!?」
二人は、どうやら自らを取り戻したようだ。
「な、なんだったんだ、今のは・・・??」
ゲンドウの後頭部には、巨大な汗が垂れているのが見える。
ユイは、
「う〜ん・・・。」
と、腕を組みながら唸って。
ぽん、と手をたたく。
「もしかしたら、セカンドインパクト前のマンガを参考文献に入れておいたかしら・・・?」
「なんだ、それは・・・?」
ゲンドウは、はてなマークを浮かべる。
もしかしたら、読者もはてなマークを浮かべているかもしれないが、そこはほれ、
魚心あれば水心と言うから・・・。
・・・って、なんでだ・・・?
「と、とにかく、もうすこしまともな設定はないのか?」
しかし、ゲンドウにこんな風に言われてしまうユイという人も、なかなかの強者である。
「そうねえ。じゃあ、これなんかどうかしら?」
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
ヴァレンタインデーほど、男子中高生の間に格差が生まれる日はあまりないだろう。
持つ者と持たざる者。
もらえる者ともらえぬ者。
まるで、ブルジョアジーとプロレタリアートのような格差が、この日には生まれてしまうのだ。
もらえる事の確実な者達は、なんの問題もない。
そして、もらえぬ事の確実な者達も、それが、はじめから確定している事であれば、 あきらめもつくかもしれない。
しかし、そのどちらにも属さない者達。
ちょうどその中間で、もらえるかもしれない事への期待と、 やはりもらえないかもしれない事への落胆感の、二つの感情を兼ね持っている者達にとって、 この日は、最もやきもきさせられる日の一つであろう。
そんな三階級の者達が、一人づつ集まって構成されているのが、 『3バカトリオ』(命名、惣流アスカ)だった。
ちなみに、ブルジョアが碇シンジ、プロレタリアンが相田ケンスケ、 そして、その中間に位置するのが、鈴原トウジであった。
この階級構成において、俗に言う義理チョコというものは、意味も持たない。
いくら義理チョコをもらっても、それは、ブルジョアではない。
まあ、成り金、とでもここでは言っておこうか。
とにかく、本命チョコをもらってこそ、ブルジョアジーの一員に数えられるのだ。
この『3バカトリオ』。
多分、全員、義理チョコならもらえるのだ。
しかし、三人は三階級に分かれている。
それはなぜか・・・?
それは、碇シンジが、惣流アスカから本命チョコをもらえる事が確実であり、 相田ケンスケが、本命チョコを誰からももらえない事が確実であり、 そして、鈴原トウジが、洞木ヒカリから本命チョコをもらえるかもしれないからだった。
この『3バカトリオ』の中で、一番そういったことに詳しくて、一番気にしているのは、相田ケンスケだった。
彼は、朝から、もしかしたら、という報われる事のない期待にそわそわしていた。
シンジは、いつものようににこにこしていた。
いや、それは、いつもの笑顔とはちょっと違ったかもしれない。
なぜなら、シンジは、同じ教室内の幼馴染み、惣流アスカの方をちらっと見ては、さらににこにこ度を上げていったからだ。
そして、シンジがにこにこ度を上げるごとに、アスカは顔を赤くしていった。
そんなアスカに、レイが近づいてくる。
「アースーカ・・・!!」
そう言いながら、レイはアスカの首に後ろからしがみついた。
「キャ・・・!!」
いきなりしがみつかれたアスカは、小さく悲鳴を上げた。
「へへへ・・・。アスカちゃーん・・・。」
そんなアスカを、レイはニヤニヤと見つめた。
「な・・・、なによ・・・。」
レイの表情に、アスカは、なにか嫌な予感を感じていた。
「アスカちゃんは、なーに、そんなに顔を赤くしているのかなあー・・・?」
「な・・・、なんのことよ・・・。」
「あーら、かくさなくったっていいじゃないの・・・。さっきっから、碇くんにチラチラと見られているのと、なにか関係があるんじゃないのかなあ・・・?」
「・・・。」
レイは、ニヤニヤと笑いながら、本当に楽しそうに、顔を赤くしているアスカを問い詰めていた。
「朝、一緒に登校して来た時から、アスカ顔赤いし・・・。碇くんは、なんだかみょーににこにこしてるし・・・。」
「・・・。」
「朝、ガッコウくる前に、なにかあったんじゃないのかなー・・・?」
「・・・たの・・・。」
顔を赤くしたままうつむいているアスカが、小さくつぶやいた。
「え・・・、なんだって・・・?」
聞き取れなかったレイが、耳を近づける。
「朝、迎えに行った時に、チョコレートあげたの・・・。そしたら、ありがとう、って・・・。大切に食べる、って・・・。」
そう、もじもじしながら小声で言うアスカのしぐさは、女のレイから見ても可愛かった。
実際レイは、
(うっひゃー・・・。あのアスカが超かわいい・・・。)
と思って、自分まで恥ずかしくなって来ていた。
(アスカがこうなるとは思わなかったわね。それに・・・。)
レイは、そう思ってシンジの方を向く。
(それに、碇くんも、なかなかやるわね・・・。まったく、あたしがアスカにのろけられちゃうなんて・・・)
そんな風に心の中で思いながらも、実際は、幸せそうな二人に、微笑ましいものを感じているレイだった。
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
「これは、なかなか良いのではないか? レイも、今のレイにピッタリだと思うぞ。」
うなずくゲンドウ。
「そうね、これも、198×年の現代用語の基礎知識を参考文献の一つに入れておいたおかげね。」
コロコロコロ、と笑うユイ。
そんなユイの説明に、
「なんだそれは・・・?」
思わずツッコミを入れたくなってしまうゲンドウだった。
だが、ここでの強者が誰なのか、ゲンドウはわかっているので、口には出さなかったが・・・。
ただ、もしもここに冬月がいたなら、
「ああ、ヴァレンタイン少佐の・・・。」
と、ユイの説明に納得してくれたことだろう。
まあ、それはともかく、二人はこの設定に満足なようだ。
「じゃあ、これに決めちゃいましょうか。」
「ああ、そうだな、ユイ。」
こうして、新第3新東京市の第一ステージの実験で使うアスカ、及びその周りの設定が決まったのだった。
しかし、こんな決め方で良かったのだろうか?
どう見ても、自分達で楽しむために選んだとしか思えないぞ。
全く・・・。
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
アスカはシンジの部屋に入るなりいつものように怒鳴った。
「バカシンジっ!!」
「わっ!」
一応あるはずの目覚しを遥かに越える音量にシンジは目を覚ました。 これもいつものことだ。
「よーやくお目覚めね、バカシンジ?」
「. . . . . . 何だ、. . . .アスカか. . . .」
シンジは半分寝た目でアスカの方を見る。何か変な夢みたな‥‥ やたらに体にぴったりする服を来て、しかし水着ではないようなのに、
水 ? の中に浸かって溺れる夢だ。
めずらしくアスカに叩き起こされて感謝しているのだが、 アスカはシンジのつぶやきをそうは取らなかった。
「なんだとはなによ。こうして毎朝遅刻しないように起こしにきてやっているのに、
それが幼なじみに捧げる感謝の言葉 ?」
「ああ、ありがと. . . . だからもう少し寝かせて. . . . . すぅ . . .」
悪夢のつづきを見ることもあるまい。 シンジはアスカがいるのに安心して再び眠りについた。
シンジの安らかな顔をみてなんとなく気分をよくしたアスカだが、 さすがに寝かせたままにするわけにはいかなかった。もう
8 時を回っている。
「なに甘えてんの!」
やはりこれもいつも通り、実力で布団から追い出すしかないようだ。
アスカは気合いをこめて布団をはぎとった。
「もおっ、さっさと起きなさい、よっ!」
「きゃああエッチちかん変態しんじらんない!!」
たてつづけのアスカの大声にようやく目が醒めたシンジも気がついて、 あわててアスカから身を隠す。
「しかたないだろ、朝なんだからぁ!」
シンジとアスカのやりとりは叩き起こすための大声と、悲鳴とで成る。 だから全て隣の台所につつぬけだった。 洗いものをしながらユイはため息をついて、 食卓で新聞を読んでいる夫に向かって言った。
「シンジったらせっかくアスカちゃんが迎えに来てくれているというのに、 しょうのない子ね」
「ああ。しかし、この設定はなかなかうまくいっているようだ。」
新聞によって見えないが、その口調から、ユイには、ゲンドウが微笑んでいるのがわかった。
とはいえ、もちろん他の人が聞いても、ゲンドウのその声から笑みなどは感じられなかっただろう。
つまりは、そういう声だったわけだ。
「ええ、ホントに。アスカちゃんは可愛いし、シンジもあんなだけど、結構うまくやってるみたいだし。」
「今後が楽しみだな。」
「そうそう、今日はとうとうレイちゃんが転校してくるはず。ホント楽しみだわぁ。」
うっとり、とした表情で両手を前に祈るように握り締めるユイ。
どうやら、今のレイの性格を考えて、起こるトラブルを予測して、そのことに思いをはせているらしい。
「LCLの本領発揮といったところだな。」
ニヤリつぶやくゲンドウ。
「その通りですとも。あのばあさんは、勝手にLCLをLINK CONNECT LIQUIDの略だと思い込んでいたみたいだけど、私の付けた、真の名前はそんな無粋なものじゃないわ。」
「そうだったな。」
「そう、LCLの本当の意味は、LOVE AND COMEDY LIQUID・・・。ラブコメ液なんですから・・・!!」
そう言い切ったユイは、喜びに涙すらしている。
ゲンドウも、どうやら同じようだ。
さすがは似た者夫婦である。
しかし・・・。
アダム、あるいはリリスの身体から滴れ流れてたあんなものがラブコメ液か・・・!?
あんなもんに、そんなラブリーな(?)名称をつけるのか、この人は・・・!?
さすが、ゲンドウのことを可愛いなどと思うだけの事はある。
でも・・・。
今さっき、アスカの事も可愛いって言ってなかったか?
それって一体どういう・・・。
その間にも、アスカはシンジを連れ出す事に成功したようだ。
二人の声が、段々近づいてくる。
「ほら、さっさとしなさいよ」
「わかってるよ、ほんっとうるさいんだから、アスカは」
声に目をやると、 顔を真っ赤にしたアスカと顔の右頬だけ赤くしたシンジが 仲良くじゃれあっている。
「なんですってぇ!」
ぱん! シンジの左頬も赤くなったようだ。それを眺めていると、 アスカがユイに気がついた。
「じゃあおばさま、いってきます」
「いってきます . . . 」
「はい、いってらっしゃい」
ユイとアスカはにこやかに挨拶をする。
そして、アスカとシンジは、家を出て行った。
「ホント。楽しみだわぁ〜〜・・・。」
二人の出て行った後、ユイは再度つぶやく。
ゲンドウもそれにうなずいた。
清々しいはずのこの新市の朝に、二つの無気味な笑い声が響いた。
アスカは、シンジは、レイは、
そして、この新市の市民全員は、
こんな二人にすべてを握られていたのだった。
なんともはや・・・。
かわいそうな事である。
【祝辞】
吉田さん、HP開設、及びy:x連載一周年、おめでとうございます。 \(^o^)/
思い起こせば2月18日。
当時、エセ関西人のトウジと同じ様に、『エセ日本人蘭間林』と呼ばれていたわたしに、
グサグサッッ・・・!!(;O;)
と、くるようなお手紙をくれたのが、吉田さんとのお付き合いの始まりでした。(笑)
以来、吉田さんとはペンパル(?)のような間柄。
本当に色々とお世話になっています。
さて、そんな吉田さんに今回お贈りしたこの作品は、一応、吉田さんのGenesis
y:xのサイドストーリー的なものになっています。
もちろん、話の設定には色々とこだわりを持っている吉田さんのy:x
なかなかうまく話を引っ張ってくる事は出来ませんでした。
しかも、元々この寄稿用に書いていた話を破棄して、速攻で作ってしまったので、内容も・・・。(^_^;)
更にコロコロと文体が変わってるから読みにくいし・・・。(@_@;)
ですが、まあギャグだと思ってお納めくださいませませ。_(._.)_
でわでわ、これからもお互いに頑張っていきましょうね。(^.^)/~~~
Fri. Nov. 30, 1997
お米の国より
必筆 投稿人! 赤頭巾快刀蘭間林和彦 拝
.... 確かに y:x の世界での「実験」ならこういうことも可能だという ....
うーむ、おもいっきりうならさせていただきました。
新市世界のモトネタはだいたいすぐに分かったんだけど、
「おいユイ。なぜ、ここで止めてしまうのだ!」
のケースについては WWW 中探しまくったりもしました ^_^;
投稿募集は、もともとは彼の
「やるなら早くしろ。でなければ帰れ!」(原文を、原型をとどめないほど意訳)というお達しで清水からつき落されて始まりました。 募集していた過程で体験、知ったこともいろいろあり、ありがとうございます。
彼の作品は 「EVANGELION っぽいページ」 での「Innocentia」、「Prommisium」などの Evangelion Fanfiction の他、 その上の階層の「蘭間林和彦のお話しのページ」にて オリジナル「ゆびぬき: 坂合部睦のお話」等を読むことができます。
私信。
「あの」手紙って初めてのメールでだっけ... と思い、検索したところ、....
最初のメールででしたね ^_^;;;
知らない人からあーゆーメールを受け取って、
よくまー国交断絶にもならず、やりとりが続いているもんですねぇ。
では、これからもよろしく。
「おもちゃ、誕生」の感想は こちらへ: 蘭間林さん<ohnok@geocities.com>