Genesis y:r:2.?? おもちゃ、誕生
"She was not aware that she was being THAT COUPLE's toy."






「うーん・・・。やっぱりこんなもんかしらねぇ・・・?」

壁いっぱいにたくさん並んでいるモニターの前に、一人の女性が腕組みをしながら椅子に座っていた。

その部屋は薄暗く、彼女の姿は、そのたくさんのモニターの明かりによって浮かび上がって見えた。

それは、彼女が白衣を着用していたところから、よけいにその姿を浮かび上がらせて見せていた。

「なにをやっているのだ、ユイ?」

そう言いながら部屋に入って来たのはゲンドウだ。

そして、彼の言葉にもあったように、その女性は碇ユイ。

人類補完計画の要の人物だ。

「あら、あなた。旧市の方は良いんですか?」

ユイは、ゲンドウの方に、椅子を回転させて向き直った。

「あちらの方の仕事は、すべて冬月に任せてある。」

ゲンドウは、問題無い、とでも言いたげに、眼鏡をクイっと上げた。

そんなゲンドウの仕草を見て、ユイは、ため息をひとつつく。

顔には、困った人、といった表情が浮んでいる。

しかし、ユイもこういったゲンドウの性格には慣れたもの。

すぐに気を取り直して、再びモニターに向き直った。

「この新市の最初のステージに使うアスカちゃんの設定を考えてるんですよ。どうせなら、楽しい方がいいでしょ。」

一つ一つのモニターを目まわすユイの目は、ランランと輝いているように思える。

「やっぱりシンジと絡めるのが一番面白いと思って、色々設定を考えてみたのだけど、あなたはどう思う?」

「うむ、そうだな・・・。」

ゲンドウも、モニターを一つ一つ確かめる。

こちらの瞳も、なにやら異様に輝いているように見える。

多分、二人とも楽しんでいるのだろう。

きっと、ここに冬月がいたら、

『アスカ君の治療のために補完計画のステージを使うだけでなく、それを楽しんでしまうとは、 妙なところでけっこう似ているな、この夫婦。楽しみながら公私混同の点 ・・・。』

こんなことを思っただろう。

もしかしたら、ただ思うだけでなく、ちょっとばかりこめかみを押さえたかもしれない。

だが、ここに彼はいない。

二人は、誰にも邪魔される事もなく、作業を進められた。

・・・まあ、誰がいてもこの二人を止める事、あるいは注意することなど不可能に違いなかったが・・・。



「な、なんだこれは?」

ゲンドウの目に入ったモニターの中では、なぜか大人にしか見えないアスカとシンジの絡みが映っている。

つまりは、つい先程までのあれだ。

「え? なかなか面白いでしょ。可能性の中の一つよ。」

にこやかに言ってみせるユイ。

ゲンドウの表情は見えないが、どうも戸惑っているように思える。

「心だけをこっちに持ってくる弐号機パイロットならまだしも、身体ごと持ってくるシンジに、これは無理なのではないのか・・・。」

そういう声も、冷静ぶってはいるが、こころなしか音程が違っているように思えた。

「そうね、確かにそうなのよねぇ・・・。私は面白いと思ったんだけど・・・。」

なぜかとても残念そうなユイ。

こういう事は、面白い面白くないで選ぶようなことじゃないと思うのだが・・・。

「あなたは、どんなのが良いと思う?」

訊ねるユイ。

「そうだな、これなんか無難なんじゃないか?」

ゲンドウが示したモニターをユイも見る。

「うーん、どうかしらねぇ・・・。」

そのモニターに映っていたのは・・・。






「確かに無難なセンかもしれないわね。アスカちゃんかわいいわぁ。シンジとの出会いもなかなか劇的で、第一印象はバッチリってところかしら。」

ユイはにこやかに笑いながらうなずいている。

「うむ、私もそう思うぞ。」

とゲンドウも、こちらはニヤリと口端を上げた。

しかし、頭をゴッツンこ。

しかも、パンツ見ちゃったよ、な出会いのどこが第一印象バッチリなのだろうか・・・?

確かに、ある意味劇的ではあると思うが・・・。

だが、二人はそんなことは頭の中をかすりもしないらしい。

なかなか満足げな表情をしている。




「でも、もう少し可能性を見てみましょう。」

「そうだな、ユイ。」

二人は、今度は違うモニターに注目した。

その表情は、物凄く楽しそうだ。

・・・いや。

楽しそう、なんじゃなくって、完璧に楽しんでいるんだな、この二人は・・・。






「うむ、既に知り合い、というセンもなかなか良いのではないか?」

「そうね。こんなカンジの『友達以上、恋人未満』の関係から一気に盛り上がるっていうのも良いわね・・・。」

ユイは、視線を宙に向け、何かを考えている風にする。

時々、顔がほころんでいるから、きっとその、『一気に盛り上がる』というのを想像しているのだろう。

だが、ちょっと恐いぞ、ユイ。

しかし、どうやらゲンドウは、そんなユイの行動には慣れたものらしい。

動じた様子は見れなかった。




「ユイ。」

ゲンドウが声をかけると、ユイはその想像の世界から引き戻されて、

「は、はい・・・。」

ちょっと、あわててゲンドウに向き直る。

「ゴメンナサイ。ちょっと考えごとをしてたみたい。」

頬に手をやるユイ。

ゲンドウは、

「慣れている。問題ない。」

とだけ言った。

しかし、こんな事に慣れているということは、ユイはいつもこんな調子なのだろうか・・・?

・・・分からん・・・。



「さっきのシュミレーションの設定で、時間を経過させてみましょうか?」

気を取り直したのか、ユイは、ちょっと悪戯っぽそうな瞳をたたえる。

ゲンドウは、又もや、

「反対する理由はない。」

とだけ言って、モニターを見つめなおした。

もちろん、その口端はクイっと上がっているのだった。






「お、おいユイ。なぜここで止めてしまうのだ!? 続きはどうした・・・!?」

ゲンドウが、少し慌てたような声を上げた。

その頬は、少し紅潮している。

何を期待しているのだ、ゲンドウよ・・・?

「あなた・・・!」

そんなゲンドウを睨むユイ。

その睨み方は、阿修羅ですらかなうまいと思わせる、もの凄い物だった。

ヒィィ・・・!!

目の前でその表情を見てしまったゲンドウは、縮みこまってしまう。

まるで幼子のような脅え方だ。

なにかトラウマでもあるのだろうか?

「わ、私はただ・・・、ち、父親としてだなぁ・・・む、息子の成長の過程を見守る義務がだなぁ・・・。」

心臓をバクバクさせながら、冷や汗をダラダラ流しながら、理論武装を固めようとするゲンドウ。

だが、今まで散々息子の事をほっぽっておいた彼が、こんなことを言っても何の説得力もないのであった。

そしてそれは、効果がないだけでなく、ゲンドウの立場を悪化させる事になった。

「ちーちーおーやーとーしーてー・・・ですってぇー・・・!」

初号機にいた頃の記憶もちゃんと持っているユイ。

ゲンドウが、自分の息子にたいして、どのような態度をとってきたのかも、ちゃんと知っていた。

「これは・・・、お仕置きね・・・。」

般若ですら裸足で逃げ出すような表情でゲンドウを睨みながら、ポツリと、

声だけは明るく言うユイ。

言われたゲンドウの方は、既に泣きそうだ。

一体、どのようなお仕置きを想像しているのだろうか?

やはり、昔、具体例を体験した事があるから、これほど脅えるのだろうか・・・?

ガチガチとふるえて、歯も噛み合っていない。

なんとも見苦しい姿をさらしている。

そして、ユイがゲンドウに向かって一歩踏み出した時、

ピー・・・。

と、呼出音が鳴った。

その音を耳にして、

ユイは、チっと舌を鳴らし、

ゲンドウは、ホっと胸をなでおろした。

なさけないぞ、ゲンドウよ。




ユイは、コントロールパネルの一角にあるモニターの前に立ち、スイッチを入れた。

「あら、冬月先生。ごめんなさい、うちの人が仕事を押し付けてしまったみたいで・・・。」

モニターに映しだされたのは冬月。

旧市の本部からの通信だった。

「なに、碇のヤツに仕事を押し付けられるのは、慣れっこになってしまったよ。」

いつもの、苦笑ともとれる表情をする冬月。

それを見て、やはり後でお仕置きをしなければ、と心に誓うユイだった。

そんなこととはつゆしらず、助かったと思っているゲンドウも、その会話に参加して来た。

「どうしたのだ、なにか問題でもあったか。」

先程まで風に揺れる枯れ葉のように震えていたとは思えない口調だ。

「うむ。入院しているレイのことだ。」

「レイちゃんが、どうかしたんですか?」

自分の人格が分離したためにレイに負担をかけてしまったユイは、心配げに聞いた。

「なに、無事に意識も回復した。もちろん、性格はあのままだがな。」

性格があのまま、というのは、ユイが分離した時に変わってしまったままだ、ということだ。

「そうですか・・・。」

「なに、経過は順調だよ。レイをそっちに送れる日も近いだろう。」

「ありがとうございました、冬月先生。」

そうこうして、通話は終わった。




「ユイ。レイが来れるとなると、レイの設定も一緒に考えた方が良いのではないか?」

「そうねぇ・・・。一緒に考えてしまいましょうか。」

ユイは、もといた椅子に座って、パネルをいじりだした。

レイのデータをシュミレーションに加えているらしい。

そして、たくさんのモニターが一度みんな消え、一つずつ、またシーンを映し始めた。






「・・・。」

「・・・。」

ユイとゲンドウの二人は、呆然と、言葉なくモニターを見ていた。

いや、すでに焦点は合っていないようだったから、モニターを見ているわけではなく、ただモニターの方を向いているだけ。

そのまま、どれだけの時間が過ぎただろうか?

「・・・!?」

「は・・・!?」

二人は、どうやら自らを取り戻したようだ。

「な、なんだったんだ、今のは・・・??」

ゲンドウの後頭部には、巨大な汗が垂れているのが見える。

ユイは、

「う〜ん・・・。」

と、腕を組みながら唸って。

ぽん、と手をたたく。

「もしかしたら、セカンドインパクト前のマンガを参考文献に入れておいたかしら・・・?」

「なんだ、それは・・・?」

ゲンドウは、はてなマークを浮かべる。

もしかしたら、読者もはてなマークを浮かべているかもしれないが、そこはほれ、

魚心あれば水心と言うから・・・。

・・・って、なんでだ・・・?

「と、とにかく、もうすこしまともな設定はないのか?」

しかし、ゲンドウにこんな風に言われてしまうユイという人も、なかなかの強者である。

「そうねえ。じゃあ、これなんかどうかしら?」






「これは、なかなか良いのではないか? レイも、今のレイにピッタリだと思うぞ。」

うなずくゲンドウ。

「そうね、これも、198×年の現代用語の基礎知識を参考文献の一つに入れておいたおかげね。」

コロコロコロ、と笑うユイ。

そんなユイの説明に、

「なんだそれは・・・?」

思わずツッコミを入れたくなってしまうゲンドウだった。

だが、ここでの強者が誰なのか、ゲンドウはわかっているので、口には出さなかったが・・・。

ただ、もしもここに冬月がいたなら、

「ああ、ヴァレンタイン少佐の・・・。」

と、ユイの説明に納得してくれたことだろう。

まあ、それはともかく、二人はこの設定に満足なようだ。

「じゃあ、これに決めちゃいましょうか。」

「ああ、そうだな、ユイ。」

こうして、新第3新東京市の第一ステージの実験で使うアスカ、及びその周りの設定が決まったのだった。

しかし、こんな決め方で良かったのだろうか?

どう見ても、自分達で楽しむために選んだとしか思えないぞ。

全く・・・。






アスカはシンジの部屋に入るなりいつものように怒鳴った。

「バカシンジっ!!」
「わっ!」

一応あるはずの目覚しを遥かに越える音量にシンジは目を覚ました。 これもいつものことだ。

「よーやくお目覚めね、バカシンジ?」
「. . . . . . 何だ、. . . .アスカか. . . .」

シンジは半分寝た目でアスカの方を見る。何か変な夢みたな‥‥ やたらに体にぴったりする服を来て、しかし水着ではないようなのに、 水 ? の中に浸かって溺れる夢だ。
めずらしくアスカに叩き起こされて感謝しているのだが、 アスカはシンジのつぶやきをそうは取らなかった。

「なんだとはなによ。こうして毎朝遅刻しないように起こしにきてやっているのに、 それが幼なじみに捧げる感謝の言葉 ?」
「ああ、ありがと. . . . だからもう少し寝かせて. . . . . すぅ . . .」

悪夢のつづきを見ることもあるまい。 シンジはアスカがいるのに安心して再び眠りについた。
シンジの安らかな顔をみてなんとなく気分をよくしたアスカだが、 さすがに寝かせたままにするわけにはいかなかった。もう 8 時を回っている。

「なに甘えてんの!」

やはりこれもいつも通り、実力で布団から追い出すしかないようだ。
アスカは気合いをこめて布団をはぎとった。

「もおっ、さっさと起きなさい、よっ!」
「きゃああエッチちかん変態しんじらんない!!」

たてつづけのアスカの大声にようやく目が醒めたシンジも気がついて、 あわててアスカから身を隠す。

「しかたないだろ、朝なんだからぁ!」

シンジとアスカのやりとりは叩き起こすための大声と、悲鳴とで成る。 だから全て隣の台所につつぬけだった。 洗いものをしながらユイはため息をついて、 食卓で新聞を読んでいる夫に向かって言った。

「シンジったらせっかくアスカちゃんが迎えに来てくれているというのに、 しょうのない子ね」
「ああ。しかし、この設定はなかなかうまくいっているようだ。」

新聞によって見えないが、その口調から、ユイには、ゲンドウが微笑んでいるのがわかった。
とはいえ、もちろん他の人が聞いても、ゲンドウのその声から笑みなどは感じられなかっただろう。
つまりは、そういう声だったわけだ。

「ええ、ホントに。アスカちゃんは可愛いし、シンジもあんなだけど、結構うまくやってるみたいだし。」
「今後が楽しみだな。」
「そうそう、今日はとうとうレイちゃんが転校してくるはず。ホント楽しみだわぁ。」

うっとり、とした表情で両手を前に祈るように握り締めるユイ。
どうやら、今のレイの性格を考えて、起こるトラブルを予測して、そのことに思いをはせているらしい。

「LCLの本領発揮といったところだな。」

ニヤリつぶやくゲンドウ。

「その通りですとも。あのばあさんは、勝手にLCLをLINK CONNECT LIQUIDの略だと思い込んでいたみたいだけど、私の付けた、真の名前はそんな無粋なものじゃないわ。」

「そうだったな。」

「そう、LCLの本当の意味は、LOVE AND COMEDY LIQUID・・・。ラブコメ液なんですから・・・!!」

そう言い切ったユイは、喜びに涙すらしている。
ゲンドウも、どうやら同じようだ。
さすがは似た者夫婦である。

しかし・・・。
アダム、あるいはリリスの身体から滴れ流れてたあんなものがラブコメ液か・・・!?

あんなもんに、そんなラブリーな(?)名称をつけるのか、この人は・・・!?

さすが、ゲンドウのことを可愛いなどと思うだけの事はある。

でも・・・。
今さっき、アスカの事も可愛いって言ってなかったか?
それって一体どういう・・・。

その間にも、アスカはシンジを連れ出す事に成功したようだ。
二人の声が、段々近づいてくる。

「ほら、さっさとしなさいよ」
「わかってるよ、ほんっとうるさいんだから、アスカは」

声に目をやると、 顔を真っ赤にしたアスカと顔の右頬だけ赤くしたシンジが 仲良くじゃれあっている。

「なんですってぇ!」

ぱん! シンジの左頬も赤くなったようだ。それを眺めていると、 アスカがユイに気がついた。

「じゃあおばさま、いってきます」
「いってきます . . . 」
「はい、いってらっしゃい」

ユイとアスカはにこやかに挨拶をする。
そして、アスカとシンジは、家を出て行った。

「ホント。楽しみだわぁ〜〜・・・。」

二人の出て行った後、ユイは再度つぶやく。
ゲンドウもそれにうなずいた。

清々しいはずのこの新市の朝に、二つの無気味な笑い声が響いた。

アスカは、シンジは、レイは、
そして、この新市の市民全員は、
こんな二人にすべてを握られていたのだった。

なんともはや・・・。
かわいそうな事である。








次回予告
アスカとシンジは、ユイ・ゲンドウの二人によって仕組まれたとおり、レイと劇的な出会いをした。
役者がそろった今、LCLは、LOVE AND COMEDY LIQUIDの本領を発揮するのか!?
アスカは、シンジのハートを繋ぎとめる事が出来るのか!?
シンジ! うらやましいぞコンチキショーめ!!(笑)
次回、転校生 綾波レイ
















吉田@y:x です。
蘭間林さん、投稿ありがとうございます。

.... 確かに y:x の世界での「実験」ならこういうことも可能だという .... うーむ、おもいっきりうならさせていただきました。 新市世界のモトネタはだいたいすぐに分かったんだけど、
「おいユイ。なぜ、ここで止めてしまうのだ!」
のケースについては WWW 中探しまくったりもしました ^_^;

投稿募集は、もともとは彼の

「やるなら早くしろ。でなければ帰れ!」(原文を、原型をとどめないほど意訳)
というお達しで清水からつき落されて始まりました。 募集していた過程で体験、知ったこともいろいろあり、ありがとうございます。

彼の作品は 「EVANGELION っぽいページ」 での「Innocentia」、「Prommisium」などの Evangelion Fanfiction の他、 その上の階層の「蘭間林和彦のお話しのページ」にて オリジナル「ゆびぬき: 坂合部睦のお話」等を読むことができます。

私信。
「あの」手紙って初めてのメールでだっけ... と思い、検索したところ、.... 最初のメールででしたね ^_^;;; 知らない人からあーゆーメールを受け取って、 よくまー国交断絶にもならず、やりとりが続いているもんですねぇ。 では、これからもよろしく。

「おもちゃ、誕生」の感想は こちらへ: 蘭間林さん<ohnok@geocities.com>


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