リツコ、新生

Author: 神木(version 1.1)

「あ、もちろんミサト、あなたような無能な人間も処分してあげるわ。
フフフフ ‥‥」
「‥‥ 死ね」

‥‥ こうして、あまりに正直すぎた女、赤木リツコは、 同僚の葛城ミサトの手によって銃で眉間を撃ち抜かれて死亡、 ターミナルドグマの池の上にその屍を浮かべた。

「キジも鳴かずば撃たれまいに」

撃ったミサトのコメントである。

「どうする、碇」
「ああ。問題無い」
「しかし、‥‥‥‥ E 計画責任者がいなくなっては ‥‥」
「そんなもの再生すればよい。 冬月。忘れたのか? E 計画責任者たるもの、 代々その身を E 計画の人体実験に捧げねばならないのだ」
「するとまさか」
「そうだ。レイをサルベージした設備の改良のため、 博士はその身を使って実験していたのだ!
が ‥‥」
「どうした? 碇」
「博士の言によれば、まだまだ改良すべき点がある」
「しかし、ユイ君がモデルとなったレイのかわりに、博士がモデルとなった ダミープラグができるだけだろう?」
「そういった細かい問題は俺は気にしない。ダミープラグなんぞ動けば十分だ。 がな、冬月 ‥‥ ユイが基なだけにレイは可愛いかったから俺が育てたが、」

可愛いうちのレイを育てたの間違いだろう? 反抗期のころは赤木君が育てていたじゃないか。冬月は思った。

「‥‥ 何だその目は?」
「いや。なんでもない」
「‥‥ 博士の魂が入った最初の人間。将来の E 計画責任者、誰が育てるんだ?」
「問題とはそれか?」
「ああ。30 才過ぎで生まれてくる訳ではないからな」

微妙ににやけているゲンドウに、 彼女とつきあえるのはお前位しかおらんわい! お前が責任取って面倒みんかあ! と叫びかけた冬月、ゲンドウの一睨みで断念する。

「‥‥‥‥‥‥‥‥ 彼女の母親にやってもらおう ‥‥」
「それは名案だな ‥‥」

ゲンドウも投げている。 しかしすでに食事という言葉を忘れ去っているうえに 手も足もないマギシステムにはミルクを欲しがって泣き叫ぶリツコを 鎮めることはできなかった。 マギの前で泣き続けるリツコを見て冬月は考えを変えた。

「やむをえん。初代を撃ち殺した葛城君に押しつけよう」

翌日、リツコ歓迎パーティにて、ボアビールを飲まされたリツコ、 急性アルコール中毒で即死。

E 計画責任者養育計画責任者のコメント。

「ごみんねぇ」

ビールを飲まされる直前、舌の回らなくなったミサトを前にしてリツコが

「不様ね」

とつぶやいたように見えたと、護衛についていた諜報部員の記録には残っている。 再びサルベージが行なわれ、三人目のリツコが誕生した。

「また殺されてはかなわん。レイに恩返しさせよう」

やはり泣き叫ぶリツコ。なにしろ泣くのが仕事の赤ん坊である。 仕事熱心であることオリジナルと変わらない。

「ごめんなさい。こういう時どうしたらいいかわからないの」

ここぞとばかりアスカが馬鹿にする。

「あんたバカぁ? こういうのはね、さっさと首締めればいいのよ。 そうすれば泣きやむわ」

生命の危機を感じとったリツコ、さらに大声で泣きわめく。 あまりの大声にアスカは近付くことができない。 鉄壁の AT フィールド。

「そんな、かわいそうだよ」

だきあげるシンジ。

「‥‥ あんた、よく近づけるわね ‥‥‥‥ 耳おかしくならない?」
「ああ、いつもアスカの怒鳴り声で慣れてるから ‥‥」
「このっ!」

アスカの八当たり攻撃をすべて自分の身で受け、 リツコに怪我ひとつ負わせなかったことに冬月は感心した。

「ほお、このまま彼に育てさせよう」

ゲンドウと冬月の二人はシンジを呼び出した。

「シンジ。これから私の言うことをよくきけ。 お前はその赤木リツコ博士を育てるのだ」
「え」
「説明を受けろ。お前が一番適任だ」
「なぜ、僕なの ‥‥」
「他の人間には無理なのだ」
「そんな、みたこともきいたこともないのにできるわけないよぅ!」
「シンジ。お前には失望した。 お前は 14 年前、碇ユイが碇シンジを育てるところをみたこともきいたことも、 そして体験したこともあるはずだ。 それを、みたこともきいたことない、と逃げるのか?」

父親の前で緊張しきっているシンジ、しっかり説得された。

「わかったよ、僕がやればいいんだろ ‥‥
カヲル君だって殺しちゃったんだ、赤ん坊の一人や二人くらい 間違って殺しちゃったって恐くないんだ」
「だめよ! そんな口車に乗っちゃ!」

そこへなぜかアスカが割り込んできた。

「いいじゃないか! アスカには関係ないだろ!」
「関係あるわよ! その子、アタシの子じゃないもの!」

アスカ、もう止まらない。

「お父さんとアタシ、今ここで選んでよ!」
「そんな ‥‥
この世界は 98 話の続きの続きで、117 話の続きじゃないのに ‥‥」

シンジ、混乱のあまり妙なことを口走りはじめた。

「シ、シンジ ‥‥ 何言ってるの? 」
「は、早くかくし EVA の世界に戻らないと、‥‥‥
もうリツコさんが殺された。
ミサトさんも殺されるかも知れない。
そしたら、自我崩壊したアスカは再び立ち上がれるかどうか分からない、
僕も全てを拒絶しなければならないんだあ!」
「快楽とともにあるんだから、あんたはいいじゃない」

こちらの言も少しおかしい。 碇シンジはアスカの手をとって最後の決断を下した。

「二人で逃げよう」
「‥‥シンジぃ!」

かくして、シンジとアスカの二人は 『裏かくし EVA 「逃亡」』 に逃亡することに成功した。
おめでとう。おめでとう! おめでとう!!

「碇、いいのか?」
「ああ、問題無い。臆病者には用は無い。 特にシンジはいない方が計画には都合がよい。 保安部に伝えとけ。あの二人を真面目に探すな、と」
「ほぉ、そうか、それで『逃亡』では未だに捕まっていないんだな?」
「そういうことだ」

なお、碇シンジにも見放された赤木リツコであるが、奇跡的に 27 年後に E 計画責任者に復帰することはできた。

光源氏計画いや人類補完計画の発動と成功によって、 綾波レイがネルフを結婚退職して以来、エヴァンゲリオンに 乗れる者は一人もいなくなっていたが ‥‥

── FIN.

作者コメント。
かくし EVA 100 話突破記念第 39 弾を少し手直ししたもの。
記念投稿第 24 弾「リツコの楽しみ」のコメントからの分岐、 つまりは O:4 のモトに対する高嶋氏のコメントから繋げたものである。

この話は ソースファイルにコメントを埋め込んでみせたものとしては 比較的初期のものの筈だ(Dec. 1996)。 投稿当時、<pre> 環境ではコメントの改行が見えてしまうバグを持ったブラウザがあり、 やむなく改行が増えても不自然に見えないところに限っていたが、 今なら自由に配置できるんだろうな。


[戻る]