「あの男の事は口に出さないでくれ!!」
碇君は顔を歪めてそう叫ぶ。
あの男、あの人、碇司令。私の、この世とのたった一つの絆だった人。
碇君。本当の愛をくれた人。
二人が争うのは悲しい。司令は優しい。碇君はどうしてそんなに悲しいの?
「‥‥ ごめん、綾波。僕が今言った事は、すべて忘れて欲しい」
嫌。碇君が言ったこと。どんなことでも忘れるのは嫌。 私は三人目。私自身にあの人が優しくしてくれたことはないけれど、 二人目に優しかったことはうっすらと覚えてる。
司令塔にいるときは、絶対に感情を出さないあの人が、一度だけ 「レイ!」 と叫んでくれたことも覚えてる。 あれは二人目の子が N2 爆雷を持って使徒にぶつかった時。
今は。
「さあ行こう。今日、この時の為に、お前はいたのだ。レイ」
今は。この時の司令の目。今なら、分かる。
「私は、何の為にいたの?」
私が再び目覚めた時の、あの人の目。失望で満たされた目。 それも、忘れることは、無い。
「──。でも、碇君。
碇君は違った。人間として、一人の綾波レイとして見てくれた。
これで私は人間になれたような気がした。
でも、それは許されざる事。
道具が創造主と対等になる事は、許されるべき事ではない」
ずっと、そう思ってきた。実際、そうだった。 だから、そういう私が当たり前だった。
あの子は、碇君の何に怒ったんだろう。
どうしてひっぱたいたんだろう。
何故怒ったのか、理解したのかしら?
── あれが始まり。
碇君は一人の綾波レイとして見てくれている。
それは私にとっても何故か心地よい。
でも碇君。私はあの人が本当は嫌いじゃないし、今も私はあの人に呪縛されている。
私は碇君から '疑う' ことを学んだ。
「ううん、これはもう、三人の問題なの。
私はあの人の無聊を慰める、おもちゃにしかすぎなかったの ‥‥?」
私はいま、ようやく考え始めた。
それがどこに続いているのか、私はまだ知らない。
また、これは Death and Rebirth より前に書かれたものなので、 Air との整合性なんかある筈もない :-)