朝、教室に入るとアスカが居た。
普段は遅刻間際で駆け込んでくるはずの。
窓際の席に座って、肘を窓枠に置いているその姿は一枚の絵になっていた。
「おはよ、ヒカリ」
アスカが手を振る。
「おはよ。アスカ今日は早いのねぇ」
「ちょっとね ‥‥」
「碇君は?」
「シンジは ‥‥ 多分、まだこないと思うわよ。
いつもと同じくらいになるんじゃないかな」
「あれ? いっしょに来なかったの?」
「え、うん、‥‥」
「喧嘩?」
「別にそんなこと無いけど」
単なる気まぐれのような、そんな調子。つい信じてしまいそうになるけれど、
気まぐれで碇君を置いてきぼりにするようなアスカでないことも良く知っていた。
そんなことをする位なら、
普段から遅刻すれすれまでして碇君の家に行くようなことはないと思う。
「‥‥ そう?」
あたしは何と答えていいかよく分からず、曖昧に微笑んだ。
アスカが時計の方に目を遣る。これで 3 回目か 4 回目。
始業時刻まであと少しというところで、でも碇君はまだ来ていなかった。
「なあに、碇君の心配?」
さっきまであった焦燥感みたいなものは無くなり、今はアスカは肩の力を抜いている。
だから碇君をみつけたんだろう、もういいだろうと思い、尋ねた。
「違うわ。シンジなら、今来た」
何かしらひやっとした沈んだ声に、あたしは首を傾げた。
葛城先生の車が着くと同時に三馬鹿トリオが窓に鈴なりになる恒例の情景。
鈴原、碇君、相田君の三人。命名はアスカだったはずで、
碇君まで十把一絡げにしていいのかどうか、アスカに尋ねたことがあったけれど、
「それで十分よ!」と断言していた。
毎日毎日、朝のこの光景を見る度にあたしもアスカの気持ちを実感する。
あたしが特に腹立たしいのは、この三人、どうも鈴原が引っ張ってっている所だった。
引きずられている感のある碇君を見ているアスカも苛立つかもしれないけど、
グループの性格を決めている鈴原も見ていて怒鳴りたくなることが多かった。
この三人の性格はばらばらだけど、役割分担などがきれいにバランスがとれていて、
少し羨ましい、と思うこともある。
すぐ明後日の方向に飛び出す鈴原と、それに道筋をつける相田君。
知恵はあるけどモラルのかけらもない相田君と、それを止める碇君。
慎重で、ということは、あまり自分から動かない碇君と、それを引っ張る鈴原。
鈴原がいなければ、相田君が独りで動いてグループの体をなさないだろう。
碇君がいなければ、二人はすぐに暴走するだろう。
相田君がいなければ、何をしていいか分からないだろう ...
[目次]
作者コメント。