Genesis y:17.1 旗色
"His balance sheet II"


デュナンは顔色を変えた。誰にも扱えないからこそ、わざわざ捨てられたもの。 碇の捨て方にはデュナンは感心していたのだが。

「どこに?」
『おそらく、本部に』
「それはそれは」

ひと安心。

『槍を弾くロケットはそちらからだ。防いでもらいたい』

それはかまわないが、しかし気になることが一つ。

「誰が落とすんだ?」
『‥‥』

返答のない電話をデュナンは睨みつけた。

「碇 ‥‥ きさま」
『やれ』

ため息。電話の向こうに漏れないよう、細心の注意を払って。


「フランス軍がぁ? ‥‥ よし、分かった」

ラインの向こう岸にフランス軍が居ることを知った作戦部は、 フランス軍を指揮下に置くべく動き出したが、どうにも要領を得ない。

「こいつは ‥‥」

作戦部の報告を受けたデュナンも渋い顔になった。
そろそろ圧力の電話がくるころ、ということだろう ‥‥


ゼーレから以外にありえない、 直通電話をデュナンは嫌々ながら取った。
今度の電話は、喧嘩別れという結末までもう決まっているようなものだったから。

『‥‥ はっきり言いましょう。アンリ。
ロケット打ち上げの阻止に動くのは止めて頂きたい』
「そう呼ぶのは止めて頂きたい。副議長。
それに、けっこう気が短いですな。もう本題ですか ‥‥?
ロケット打ち上げは、阻止させて頂きますよ。
今、 ここでさらに補完計画を遅らせるようなマネに加担する訳にはいかんのでね」
『そこまであの男に義理立てすることもないでしょう?』
「あの男の事情なんかどうでもよろしい。
インパクトから 15 年。
本部が知っているのかどうかは知らないが、 ヨーロッパの気温低下はいまだ着実に進行している。
今年か来年にはバルト海も完全に凍結する。
私にとっては、
いまさら余計なことばかり考えるあなた方より、
他人への迷惑おかまいなしに補完計画を押し進める碇の方が遥かにましだね」
『その補完計画がどんなものか知っての発言ですかな?』
「いや。 知らんね。知りたくもない。そんな責任はあの男一人が背負えばよろしい」
『分かりませんね ‥‥
碇が何を考えているか知らずにそこまで奴を信頼できるあなたが ‥‥』
「ブロッケンに連れ去られた人間は、 下界に降りるには魔女の箒にぶら下がって戻って来る他ないのだよ」


デュナンは作戦部からの迎撃失敗の報告を聞いて苦虫をかみつぶした。

「しばらく碇に頭が上がらなくなる ‥‥」


作者コメント。 17 話の補完。 17 話の公開前日になってカットされた不幸な人達の物語その二 ^_^;