"To Heart" #4 の感想

(Last updated: May. 5, 1999)

要約と概観
Simple is best. というところで 葵の格闘技同好会の旗上げに至る道な話はゲーム版ほぼそのまんま、 もちろん葵シナリオ突入は回避しなければならないからラストは、ま、あんなもんでしょう。

初秋。校門のところで葵が同好会メンバ募集を続けていた。 ちょいと興味をもった浩之、そのまま成行きで練習に付き合っていたが、そんなある日、 葵を空手部に入部させたい坂下が葵に勝負を申し出、 その 1 週間後に試合を行なうことになった ──

ふみ、うまく要約が書けないな。特に綾香の文字がない ^^; この話の展開での要点は実を言えば話そのものにはなく、 5 話の感想の最後にちょろっと書いたけども、試合が終わって葵が認められ、 同好会が軌道に乗り出した後で浩之がどうやって葵から手を引くかってことにある。 つまり、 試合に葵が勝つ負けるにかかわらず話そのものはこれ以外にないラストである。 それは別にゲームをしたかしていないかに無関係に そういう風に予測するしかないところであって、だから興味はその後にしかない。 これは葵シナリオと同様に浩之の投資が大きくなる琴音や保科の話でもそうで、 この話はその試金石でもある。 ま、いずれも傍系のシナリオなので主筋から見れば どうでも良いといえばどうでも良いんだけども。

感想
従来もたついていた説明セリフをすべて志保に任せ、 そのセリフはあかりしか聞いてないおかげでテンポそのものは 3 話までより 遥かに良好になった。もちろん展開を目一杯速くしないといけないという事情も あったんだろうけど、これくらいのプレッシャーがあったほうがセリフの流れが良いってあたり 脚本が ... むぅ ...
心情説明はあいかわらずケチりまくっていて、でもこのテンポではそれはそれで理由が立った。

ゲームとの比較でいえば、 綾香な話がこの先にあるかどうかでちょっと評価が変わるが、綾香が単に顔見せだけで、 格闘に素人の浩之との繋がりを確保したあの解説シーンが落ちたのはちょっと惜しい。 綾香 〜 浩之のあたりを中心に、芹香、葵、坂下、セバスチャン、長瀬、マルチ、など 来栖川、長瀬の横の(要するに浩之を経由しない)繋がりがあってこその物語の広がりだと思う。
また、当然気付かねばならないのが、なんで初秋のいまごろ募集活動してるんか? ってことである。ゲームは春にやってたからぜんぜん問題無いのだが .... こういうところが 「造りが荒い」と言う所以。 10 月すぎに募集活動してもふつー誰も興味持つまい。
それとゲームでは対綾香のデモの意味もあった試合提案だが、 アニメはかなり意味付けが変えられていて、 むしろ坂下自身がエクストリームに興味を持ったような感じになっている。 「顧問は私から説得します」って、 そこまでいったらいずれにしてもエクストリームを認めたことになるんだけど。 ってことは逆に坂下はいまごろ募集活動なんぞしている大ボケ葵を見兼ねて 宣伝活動に協力してやってる、とみたほうが素直か?

ゲームから離れれば、この話、こざっぱりとまとまって素直な物語ではある。 ただし、この素直さから言えば、志保、あかりを人数合わせの幽霊部員として 浩之は格闘技同好会のそれなりにアクティブなメンバになったはずであり、 そのへんの辻褄がかなり苦しいんではなかろうか。 比較的どっぷりと葵シナリオに漬かって従来ならあったはずの 浩之のあかりへのフォローがなく、したがって相対的に たとえば 3 話、芹香 - 浩之間などよりも葵 - 浩之間の心理的距離が近く表現されているのも その辺の懸念材料である。

感想の感想の感想の注意事項
ところで、私がいちいち各人物がちゃんと立ってるとかどーとか言わないのは、 人物が描けてても話としてゴミなら全体としてゴミだし、 人物がコケてても話としてちゃんとしてれば全体としてちゃんとしてる訳であって、 そのへん物語評にあたって登場人物のデキなんぞ二の次である、といった Second Foundation 的な発想が背景にある。どーせたかがアニメの人物であって、 魅力あるとかどーとか語ってみてもホントに居たら 魅力を感じる以前に驚天動地するようなんばっかだし。 実写ドラマと比較してアニメの人物は むしろ抽象的な概念としてその場に佇んでいる、ってな論述はアニメ 2 題その 1 で『ビバップ』(その昔、実写論で例に挙げた)にからめて語っておこうかと思いつつ 面倒くなってやらずにすませたことで(25, 26 話の話だけでいい加減長い)、 まあ機会があったらそのうち、ってのは先にいちおう宣言しておくとして。

つまり私的には 4 話を評価する上でさえ葵、坂下に魅力があろうがなかろうが割とどうでも良いことであって、 興味深かったのは、坂下好恵に魅力があると評される話 (こう評したのは一人ではないことを知っておくのはたぶん有益であろう) が葵の話(の代り)として "To Heart" の中に入ってきたことにある。とまあ、 先日のに反論つうか説明が 上がってきた のでちょっと触れる。題して「物語での人物の能動的役割」。

物語での人物の能動的役割
第四話で、好恵に最大の魅力を感じる人がいなかったとしたら、あるいは、葵 だけにしか魅力を感じなかったとしたら、それこそは、第 四話が失敗作であることを示しています。
好恵に魅力を感じることを否定したおぼえはないんだけど、それはそれとして ここで引用した論理は 坂下や葵が物語において能動的な役割を果たしているかどうかの考察抜きには 語れることではなく、自明なことではない。 つまり、4 話において 「あかりに魅力を感じる人がいなかったとしたら ...」とは思わない訳なのだから。

試合提案から試合後に葵を認めるまでの流れが、この話自身の中では それなりに支配的なのは感想でも少し触れた。そこで

好恵、この三人の中で、物語の進展上重要な役割は好恵にあると言えませんか。
と言われればそのとおりだと思うけれど、 ただ、この物語の焦点は試合提案の時点で「試合が終わった後」にどうであるかにすでに移り、 つまり提案を受諾した時点で坂下がからむ部分での物語の進み方が確定し、 勝負がどうあれ、坂下が葵とエクストリームを受け入れる時の その受け入れ方というただ一点を除いて 彼女は物語の主筋に関わることができなくなったことに注意したい。 彼女は物語のプレイヤー(能動的参加者、くらいの意味)の資格を失い、 いわば敷かれたレールのうえを走る列車の運転手以上では無くなった。 提案の受諾から試合終了までに語られることは、すべて試合終了後に何が語られるか、 ということのための準備であって、そこに個人的魅力の語りの入るすべはほとんどない。

ただ、「その受け入れ方というただ一点」というところに 坂下の物語の筋として魅力があるのもまた確かで、それを前提として "「好恵に最大の魅力を感じます」というだけでも実はこの話の大きな欠点を語っている" という言及はつまりは

葵が最も待っていたものこそ、好恵の言葉ではありませんか。
という単純な物語になっているところをすでに問題にしている。
葵は一見この物語の主人公ながら実はほとんどなんの能動的役割も持たず、単に 綾香に煽られ、あかりに励まされ、浩之に元気づけられる存在であって、 それこそ「好恵の言葉」の受け手としてのみ意味をもっているといえ、
好恵の魅力の増大が葵の魅力の減少に繋がると、どうして そう考えられるのでしょう。
... 減少してないかもしれないけど 減少したことは減少した事実だけをみていてわかることではない、 という注意は既に書いた。 ゲームでは葵は確かに坂下によってのみその魅力を引き出されているのではないのだから。 坂下や綾香、もちろん浩之を含むけっこう大きな枠組の中で葵が育つ物語となっており、 これがアニメにおいて「好恵に最大の魅力を感じ」るような語られ方になるのでは不満がある ── 確かにゲームからアニメに落とす時に こういう切り方をするセンス自体は別に非難に値しないし、 むしろ 30 分の中で収めるには かなり良いセンスで、葵の物語から切り出すとすればここになるのは良く分かる。 けどまあ、それはそれ、これはこれ :-)

葵の物語が坂下の物語に化けるようではマルチの物語がまた別の人、 たとえば長瀬の物語に化ける可能性なしとはいえない訳で、それはそれで心配事項なんである。

ところで...

ここで、好恵と綾香はどんな関係にあるのか、私は気になります。
いや別に知らなくても確かにアニメの理解には困らないんだけども。 PC 版ではかつて坂下のライバル(というには綾香が格上)として空手をやっていた綾香が エクストリームという(綾香に言わせればより広い; 坂下に言わせればくだらない) 世界に魅せられてそちらに移って以後、エクストリーム界でけっこう優秀な成績を残している、 で、綾香を慕ってエクストリームに移ろうという葵は 坂下にしてみればなんとなく裏切られた気分というか寂しい気分というか、ってのが裏にある。 .... って語りが抜けただけでも物語的にけっこう痛かったと思うがどうだろうか? 伊達やそこらで皆さん話を急ぎすぎ、というコメントを残している訳ではない。
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