『カードキャプター さくら』劇場版II 「封印されたカード」の感想


粗筋
遊園地で会った少女は「私のカードを返して」と叫んだ。 それに応えるかのように数を減らすさくらのカード。 エリオルからの電話は無のカードについて告げ、 カードを封じるに「一番大事にしている想い」と引き換えにする必要があると言う。
小狼にそのことを告げると、彼はそれも仕方ないとさくらに告げた ──
概観
素晴らしかったです。 どんなに良くても終りでコケたらダメってのが前回なら、 終り良ければすべてよし、ってのはこの話のためにあるし、 3 つ並行に筋を流した密度の高さといい、 直球な予定調和の終りにプラスして付け加えられた成分といい、 内容的にも不満なく。

バグとしては大きなものが一つ、 演出上の疑問(つーか、私ならこうするという点)は二つ、 脚本のやや煩いと思った癖が一つ、ってとこですか、 ミスが少なく、ノイズに感じるものがなくて穏やかに見てられた、ってのも良かったっす。

物語の構造として
劇場版 I では、個人毎に筋があって、それが撚り合わされる形で 話が出来てる ... ようなつもりでラストでコケてるんだけど、 II は物語の筋が何本かあって、それに個人個人が参加してるという形。 人物描写という点では II の造りはどうしても薄くなるけど、 ... そのわりに表にあらわれた筋それぞれの押す力も弱いんだよねぇ。 筋の完成度では遥かに良好だけど。ま、難しいとこだ。

さくら〜小狼の筋。
主筋。ただしケーキで言えばスポンジの台みたいなもんで、 鑑賞点からは外したほうが見てて面白いかもしんない。 力一杯まっすぐなんで、直接これを観てると他のことを思う感覚がなくなる。
知世の人生論。
脇筋にみえて実は主筋の一つ? ふつー鑑賞中心に置かれる部分ではないかと思う(そうか?)。
クロウさんの想い。
深読み屋さん向け、裏筋。後述。
あ、無のカードさんの絡む筋がない ... 友人論はイマイチでした。 これに本筋と並ぶ迫力があれば文句無しに凄かったんだけどねぇ。 『CC さくら』という枠組で語るのは難しいかな ...
告白に辿り着く道筋
『彼氏彼女の事情』の感想んとこでちらと書いたが、 ここで示された条件のもとではさくらは絶対に告白できない。

桃矢やケルベロスが妨害しようとしまいと、 さくら自身が何かの妨害イベント待ちになってんだから、 それこそ箸が転がっただけでも風が吹いただけでも中断する理由になる。 『彼氏彼女の事情』であったように「有馬の声を聞いた」というだけで 電話を切ってしまった雪乃と同じく。

観覧車ん時ですら、カードの気配がなくても 「観覧車が一番下に着いてしまった」というイベントで告白タイム中断が見えている。 .... 3/4 周回って何にも起きなかったんだから、1 周回っても何かできたはずはない。

この状況を変えるには、さくらでも小狼でもいいから少し条件を動かす必要がある。

カードの封印条件と相まって、「小狼がさくらに対する想いを失う」という形で 条件が動き、かつ ハッピーエンドになるために「実は想いを失ってなかった」という形になるのは ただちに見て取れる。

だから、これ、本筋のフリして実は本筋ではないと見たんだけど、 もひとつプラスして本筋としたのはちょい感心した。

あ、そのまえにひとつ。 小狼の条件が動く直前に、さくらの条件が少し動いた。

「けっきょく言えなかったな」
ということで、この直前に小狼が現場に到着してたとき、 「想いが無くなるまえに」告白しておく、という形が出来あがる。 この形で告白させるわけにはいかないのは物語的にも論理的にも自明なんだけど、 これが起きないよう封がしてあるのね。

小狼は現場に着いていたとしても、さくらの前にすぐ姿を現すことはない。 さくらカードに換える時に自分のほうの想いを持って行かせるためには 「小狼の前で」さくらカードに換えさせないといけない。 で、当然ながら小狼の前でさくらカードに換えるような危険なことを さくらがするはずがないんで、小狼がさくらの前に姿を晒すはずがない。 したがって、「けっきょく言えない」の直前に小狼がさくらの前に姿を現す可能性はない。

現実がどっちだったか(間に合ってたが隠れてた or ちょうどだった) は見ただけではわからないけど、そういうことで。

「プラス」の件。ラスト、小狼んとこへ飛び移る時に助走つけてんですね。 ジャンプが発動してんのに助走が要るはずなく、 ついでにこの距離ではジャンプなしだと助走ぜんぜん足りないわけで、 ぜったい死にます :-)

以上により、ジャンプ発動は本人の意志ではないか、あるいは助走がわざと。 どっちに読んでも良さそうだけど、 ジャンプ発動が本人の意志でないと読んだほうがすこし楽しい。小狼も慌ててるし。

新しい主の面倒見は大変だねぇ > ジャンプ
ってことで :-) 助走をわざとと読んだ場合のさくらの甘え方も可愛いです。
友達
直前に『おジャ魔女どれみ』見て、どっちも似たような問題扱ってたんだけど、 両方とも不満があるなあ。

無のカードに友達というのはどーゆーものかを説くとこ、 さくらの論理は強者の論理っしょ? いや別に悪かないけど、 『CCさくら』の世界観的には気持ち悪いな。

さくらがクロウカードを集め出す前のことを思えば、 無のカードのことをさくらはもっと理解してやってもよかった。

藤隆さんが商売がら家を空けがちなのはケルベロス登場前も後も変わらない。 桃矢が、ケルベロス登場以前にどれくらいバイトを入れていたのかが気になるが、 大きな変化がなかったのであれば、 「家にはさくらしかいない」という状況がよくあったはずである ... 『CCさくら』が始まった以降はケルベロスが居るんで、気付きもしないことだったけども。

また、知世との付き合いは意外に短い。カード集めを始めるせいぜい 1 年前で、 しかも、カード集めを始める前までには知世の家を訪れたこともない程度の付き合いだった。

事実上、知世の片想いだった時期がかなり長く続いていた。 『CC さくら』第 2 話にて、さくらが空を飛んでるところを撮影したのは、 知世にとってさくらとお近付きになる最大の好機だった、ということになる。 ... この直後にさくらを家に呼ぶことに成功するんだから。

仲良し 5 人組 ... さくら、知世、利佳、奈緒子、千春、も内部に {さくら、知世} と {利佳、奈緒子、千春} という構造があることを思えば、 知世と知り合う以前のさくらには意外に友達が少ない。 さくらの性格として誰かに何かを頼む ... ということはほとんどなかった。 裏を返せば、何かを頼むことは出来なかったってことで。

確かに「強制するものではない」かもしれない。けれど、それを さくらが無のカードに口で言ったってだめです。

さくらは自分の過去と今の差を無のカードに重ねることで 無のカードの寂しさへの理解と、無のカードの未来を示すことがここでの本筋であり、 「他のカードと一緒になれる」というのは筋として正しいけれど、 それを口で言うのでなく、 さくらの実感として無のカードに伝える必要があったんじゃないかと思う。

知世の物語
影の主役、知世様。ロクな魅せ場を得られなかった前回と違い、大活躍でした。

苺鈴の世話焼きをサポートしつつ、それが無駄になっても一切気にしてないつーか、 しっかり苺鈴のフォローにもなってるのが深い。

「悔いのないように生きねば」とは言いつつ、さくらの告白が遅れても 知世にとっては気にする領分でない。 さくらが幸せであればいいんで、「後悔しないように」としか言わないのは 知世の立場からすれば正しい ── それ以上、敢えて背中を押す必要はない。 小狼のほうは押してやってもよかった ... 小狼が知世の目に適うものであって、 かつさくらの幸せのことを思えば。小狼の幸せがどーだろうと知世の知ったこっちゃないんで、 これ以上なにかする必要なし。 告白が必要以上に遅れることでさくらが後悔する可能性だけを潰しておけば良い。

なので、苺鈴のサポートに回ったのは、 苺鈴のケアを兼ねていると見たい。小狼の背中を押したことで 知世は苺鈴に対して一定の責任を負ったのでそのぶん。 で、本筋の告白失敗については、苺鈴は困るだろうが知世は困らないので、 苺鈴のフォロー ... 「これからが面白い」と言うことで苺鈴への慰めにもなっている。 本人そりゃあ告白が遅れたほうが面白かろうから、本心ではあるにせよ。

知世の世界もいつのまにかけっこう広くなってますね。

告白シーン撮れなかったことではさぞかし泣いた事でしょうが ...

知世が封印条件を聞いてるかどうかが微妙なんだが、 聞いているとして、封印条件を聞いたあとでさくらと小狼が何を話したかを知世は知らない。 が、まあ、小狼のことを知ってれば彼がどういうつもりでいるかは自明なわけで、 「さくらと『一緒に』帰ってきてね」と釘をさす鮮やかさよ、 あいかわらずさくらのことしか考えてないようだが ...

もっとも聞いているとすると 一見さくらが不幸になるのがわかってて座視してるのが気になるが、 それがさくらに対して告げる「どんな時でも笑顔で戻って ...」に繋がるんだろう。 表情にカケラも出してない(知世にどうにかできる範囲の話でない)が、 ちゃんと心配してたという意味で。

劇中劇が話全体を反映しているあたり、あいかわらずこういうの得意&好きですねぇ。

出だしのセリフの演技は正しく小学生の劇で、だんだん本物と一体化してくのが凄く、 中断したとこ、無のカードに殺意が芽生えたんですが :-) もったいない、ラストまで演らせんかい。

ところで、冒頭の小狼のセリフ「臣下が連れ出してくれた ...」のくだり、 おもいっきり素性バラしてて、さくらが気付いてないというとこふくめて芸が細かいです。

そのへんの城主では部下を「臣下」とは言わんだろう ...

封印されしクロウの想い
この項の内容は煩いこといえば深読みしすぎにあたる。 ここまで読まないと物語として安定しないこと、 また、この部分が物語上シルエットに落ちた理由というのも 物語の一部として十分に納得いくものであり、 したがってここまで読むべきである、という動機はあるものの、 読みすぎだという嫌味が消えるわけではない。注意事項として先に記す。

「無」のカードは 52 枚の陽のカードと対置するものとして作られた。 故に力は 52 枚のカードを合わせたものと同等である、のであるならば、 これほどのカードを封印していた力は何か? と考えを進めると、 52 枚のカードを封じるのにクロウは ユエとケルベロスを本の表紙としたんだから、 無のカードを封じた力はユエとケルベロスを合わせた力に等しい。

さて、無のカードを最終的にさくらのカードとするにあたって、 「大切な想い」と引き替える必要があった。というより、 「大切な想い」と合わせてようやく 1 枚のカードになった。

「CC さくら」の世界観において、想いは魔力と同等に扱われていることをおもえば、 かつて「無」のカードを封じていたのはクロウの「大切な想い」ではないか ── と考えることは無理があるだろうか?

ケルベロス、ユエ、全てのカードに対する愛情。 それはまた、クロウが、 クロウカードを引き継ぐことができないことを運命付けられているエリオルに対して 受け継がせるつもりがなかった感情ということでもある。 クロウがカード達を好いていたことはまちがいなく、 それをエリオルが思い出すことはエリオルにとって苦痛でしかない。

カードを引きつぐにあたっての災いとした「一番が無くなった世界」、 現在の世界はエリオル自身にとって既に「一番が無くなった世界」ということになる。 クロウの発想法として一貫性があるのがとても恐い。

エリオルが無のカードのことを忘れていたのは当然だ、 クロウ自身も封印したあとは既に覚えていなかった。 封印が解けたことによってようやくエリオルは思い出した。 なお、ケルベロス、ユエを本の表紙にして封じたのはクロウの死とほぼ同時のはず (クロウ存命時は封じる必要がない) なので、無のカードを「想い」で封じたのも 死とほぼ同時のはずである。もちろん封印したあとにカードのことを覚えている必要はない。

この時、無のカードの封印条件が恣意的なものになっている理由も分かる。 ユエが言うように、クロウは災いだけのカードをつくるつもりはなかった。 封印条件は「大切な想い」と引き替えにしなければならない、 これは無のカードの力を考えればやむを得ないこととして、 クロウがこの条件を飲むことはエリオルにとって幸いだとしても 次の主であるさくらには不幸をもたらすことだろう。 だから、条件付けを出来るだけ複雑にした ── 抜け道があるように。

条件は単純であればあるほど抜け穴を探すのは困難になる。 極端な話、封印と引き換えに術者は死ななければならない、という条件でもクロウは かまわなかったはずであり、こういう条件付けをした日には抜け穴どころのさわぎでない。

誰の「一番大切な想い」が失われるかはカードが決める。 この不確定さは、現実にカードを封じなければならない さくら達にとっては迷惑千万ではあるだろう、 どうなるか分からないんだから。だけれど、この条件なら 現実にあったように誰も不幸にならずにすむ道を「カードが」選ぶことができる。 ここで誰が不幸になるべきなのかを、さくら達に決めさせる訳にはいかない。 現実に小狼が自分で引き受けようとしたように、 封じる側が決めようとすることは確実に誰かを不幸にする。 封じられるカードが決める場合に限って、誰も不幸にならずにすむ道が存在するようにできる。

封じられるカードが誰も不幸にならずにすむ道を探すようになるということは、 封じるさくらがどれだけその無のカードに好かれるか、という一点に かかってくることになるけれど、 それこそクロウはそんなことを心配してはいなかっただろう。

魔術の枠組の限界の中でクロウが後の誰をも不幸にせずにすむよう 全力を尽くした様子が透けてみえる。

この物語の語り口には『CCさくら』特有の説明の煩さがやっぱりある。 したがって、ここまで深読みさせるべく作られた話では無い。 それでも、クロウという人物が創りだされ、 それに性格を与えて物語のバックグラウンドとした中で、 こういう読み方が安定感を持つということ自体が、 クロウ=リードに想定された人物像として、それほど外した位置にはないだろう と思うのである。

演出上の不満点
ラスト「だーい好きっ!」に合わせて朝日が昇り、II のテーマソングの「明日へのメロディ」が かかった訳だけど、導入で叩く音が大きいこともあって演出過剰に感じた。 絵とさくらのセリフ、感情だけで語れるところだから、ここまでしなくていいと思う。 つーかですね、CHAKA の歌、全般に「CCさくら」にあんまり合ってないと思うんですけど。 I の「遠いこの街で」は素晴らしかったのにぃ ...

ここで私なら "Catch you Catch me" 流す。ここで流すのが最後の音楽になるなら、 最初の音楽を流すのは定石の一つだし、メロディの入り方終り方も合ってると思う。 歌詞入れるとやっぱり煩くなるので instrumental で :-)

CHAKA で流すなら同じタイミングで「見えない地図」流して この物語の主要シーン(つーかデートシーン)を背景でフラッシュさせるでも可、 というか事前に曲聴いた時は、これが ED だと思ったんですが ...

もうひとつは、さくら告白前後の小狼の動かし方。

小狼は「自分の想い」がなくなることをこの時点で覚悟してたんだし、 そのことをさくらに覚悟させてたんだから、 さくらの告白に応える前に、 「自分の想いが失われてないこと」に驚き、それをさくらに伝えるのが先でしょ? さくらの告白は小狼が想いを失ったことを前提としたものになってることが分かるんだから、 みなまで聞かずにまず最初にそのことを伝えなきゃダメです (どきっぱり:-)

さくらの告白を全部聞いてから ... ってそれって騙し討ちだってば。

つまり さくらの告白に至る論理と合わせて、ごく僅かに脚本の恣意を感じた部分ということでもある。 ここで小狼の想いが失われてないことを先に伝えてしまうと さくらの条件がまた元に戻ってしまうんで、 ここでは何としても小狼の条件を動かしておかねばならない、という圧力があったという意味で。

シールドのカード
なんかカウントダウンしてるから、てっきり意味があると思った最後の 1 枚、シールド。

なんの意味もなく取られてしまった ... どーせなら心の「壁」くらいの意味をもたせると、 この物語を観る気を無くしそうでおもしろかった :-)

ミラーのカード
ミラーハウスにて、小狼が「スルーのカードだっ」と叫ぶとこ、 流れ的に鏡の専門家、ミラーが登場するのかとかなり期待していた。あうぅ。

確かに専門分野は違うんだけど、違うんだけど ... ;_;

タイムのカード
久しぶりのタイム発動。 さすが 52 枚すべてを合わせた力の無のカード、時の止まった空間で平然と。

無の力のほどを感心したシーンでした ... が、 『超人ロック』にありそうなシーンだなとか思ったりもした。

イレイズのカード
バグ。エリオルが説明したところでの「クロウカードは何かをうみだすカードだ」 ってとこで、
「をいをいイレイズはどーすんだ?」
ってやつ。無のカードで景気良く街とか人をけしまくってったんで、 一度消えたらもとに戻らないというわけでもなし、おもいっきりカブってんですが ...
ケロちゃんにおまかせ
... まあねぇ、 本当に「ケロちゃんにおまかせ」らしく 悪代官な知世とか 小狼とのお揃いのコスチュームとか苺鈴の仕掛けとかをケルベロスが解説してまわるわけには いかないか ... たこ焼きのタコ一片が輝くシーンは見てて楽しかったけども、 「ケロちゃんにおまかせ」というタイトルから期待するものとは ちょっと違ってたという失望感を拭うところまではいかなかった。 ちっともおまかせられてないもん。

にしても、山崎くん愛されてるねぇ。さくらや知世よりセリフ多いやん。

そうそう、忘れるといけないからメモ: 「小狼くんは(コーヒーにミルクを)入れるよね」
いや、なんでもないです ... (*^_^*)

この話、この一言
「だぁい好きっ!」
文句なし、これ以外なし、コメント付ける必要もなし :-)


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