トサッ、と音がしてスースーと声が聞こえてきて驚いた。
振り返ってギョッとする。
まだ戦闘中だというのに、姫様がスースー地面で眠ってしまっているじゃないか。
ああ、まだどこかあどけない寝顔のなんと可愛い事か…!
とか、言ってる場合じゃないっ!

「ひ、姫様?!ってわあああ、スカラスカラスカラっ!」
「ちょ、クリフト?!」

とにかく姫様を守らないと、と焦って唱えた呪文で姫様の周りには青い光が何重にも張られた。
あれならギガンデスに殴られても蚊にかまれたくらいにしか感じないはずだ。
よかった…これで安心だ、と息を吐いた時だった。

「危ないっ!」

ユーリルの声がして、強い力で突き飛ばされる。
衝撃で洞窟の床に転がってしまって驚いて顔を上げると、別の意味で私は固まった。

「馬鹿者が、まだ戦闘は終わっておらぬっ!」

ピサロさんの強い叱責。
僕の目の前でユーリルがランガーの鋭い爪を天空の剣で受け止めてくれていた。

「マヒャド」

凍てつくような声でピサロさんの口から飛び出していった呪文がユーリルの前のランガーを氷付けにする。
一瞬動きの止まったランガーから離れて、ユーリルは天に手を伸ばしてまだ残っている魔物に向けて最強呪文を放った。

「ギガディン!」







ギガディンの威力でもまだ息絶えなかった数匹の魔物たちに止めを刺すとようやく洞窟の中に静寂が帰ってきた。
とはいえ、ここは油断ならない地だ。
ぼやぼやしていたらまたすぐに次がやってくるだろう。
移動するために姫様を起こそうということになった時、ユーリルは私を見て言った。

「……ザメハする前に…、ちょっと殴らせて」

口を挟む隙すら与えられず、ゲンコツが私の頭にガツンと落ちる。

「っいっ…!」

それはもう、かなり痛かったけれど軽すぎる罰だという事も分かっているので何も言えない。

「すみませんでした…」

項垂れた私に、ユーリルはいつのもように困った様子で笑う。

「…もうしないよね?アリーナが心配なのは分かるし、スカラは確かにいい判断だと思うよ。冷静だったらね」

確かにそうだ。
姫様がまとっている装備ならスカラ一回で十分の守りになっただろうし、この洞窟は今までの場所とは違いモンスターの強さも桁外れだ。
四人しかいないパーティーで一人が眠り、一人が錯乱してしまっては危険きわまりない。
一緒に居たのがユーリルとピサロさんだからなんとかなったようなものだ。

「……はい、すみません…」
「確かにアリーナは可愛いから…、顔とかに傷つけたくないよねぇ…。僕にもその気持ちは分かるけど」
「えっ!」

顔が赤くなったのが分かる。
そ、そんなこと、私は言ってませんっ!ユーリルっ!

「でも、戦闘中は冷静でいてね。じゃないと…、この先、君を連れていけないから」

あせった私の体温が一気に下がった。
そうだ…、この先にいる少し変わっている(というかかなり変わっている)二人組みは先程のモンスターの比ではない強さの持ち主だ。
一瞬の油断で臨死体験確実なのは経験済みなのに。

「…はい…、すみませんでした」

再びうなだれた私に苦笑しつつもユーリルは頷いてくれて、その後、姫様を起こすためにザメハを唱えてくれた。
ぱっちりその目をお開けになった姫様は、戦闘中に不覚をとってしまったと悔しそうにしてなさっていたけれど、自分がスカラの光に包まれていることにお気づきなりきょとんとなさる。

「あれ?スカラかかってる。クリフトがかけてくれたんだ〜」
「は、はい」

あれだけ何重にもかけたのだ。
効果もまだしばらく持続するだろう。
姫様は青い光に首をかしげながら言った。

「ありがとう。でも…私が寝ちゃった時にまだまだいっぱい敵が居たとおもったけど、スカラの効果切れてない。すごいね。三人ともあの後一瞬で倒しちゃったの?」

悔しいなぁ、と姫様が言うから私は焦った。
そんなわけない。
確かにいつもよりは早かったけれど、いつもの一回分のスカラならとっくに効果は切れているくらいの時間は経っている。

「そ、そうです。ユーリルとピサロさんがそれはあっと言う間に!」
「ええ〜〜、二人ともいつの間にそんなに強くなっちゃったの〜?」

私ももっと修行しなくちゃ!と、ぶーと頬を膨らませる姫様に、私は背中に嫌な汗をかく。

本当の事がバレたら姫様はきっと私をお叱りになるだろう。
ユーリルのゲンコツはかなり本気が入っていたのかまだジンジン痛いし、姫様に本当の事がバレて余計なことまで追求されるのは勘弁願いたい。
そう思って焦って適当に言い訳をしたのだけれど、無口な(?)ピサロさんは沈黙を守ってくださっているし、ユーリルは呆れた顔をして苦笑している。

「ねぇ、ユーリル、ピサロと秘密の特訓とかしてるの?」
「はぁ?そんなわけないじゃないか…、最近アリーナはずっと前線だから知ってるだろう?」

姫様の追及に、ユーリルがいつ真実を話してしまうか気が気じゃなくて私の背中ではだらだらと冷や汗が止まらない。
本当は戦いは苦手だけれど、なんでもいいから今すぐ魔物が襲ってきてはくれないかと(姫様の気をそらすにはそれが一番だからだ)この時ばかりは神官にあるまじきことを願ってしまった私だった。



 

 

 


「ラリホーマとかで戦闘中うっかりおねむ状態に陥る姫様とか想像すると、きゅんきゅんきます。
そして慌てつつもつい寝顔に見とれてしまうクリフトとか想像すると…幸せ(笑)。」
などとぶやいていたら、なんとっ、
そらつぶ」の安達こまきさんが、このイラストをイメージした素敵なお話をかいてくださいました!

なんかもう、クリフトがすごくクリフトで(笑)、かわいいったらありゃしないですよもう…。
そしてそれをなまあたたかーく(?)見守る約2名…(笑)。
一読者としても、めちゃくちゃ楽しませていただきました。


安達こまきさん、素敵なお話をどうもありがとうございました(^-^)。