何を運ぶのか(静岡県 大井川源流部 2006.04 by 兄山女)


静岡県大井川源流部からの画便りです。

南アルプスの深南部と呼ばれる静岡県 本川根町の山犬段、大井川を 遡った尾根筋の山犬段に立派な町営の避難小屋が立つ。ここを拠点に 蕎麦粒山・高塚山・板取山・沢口山を歩く。
「山犬段」とは聞きなれぬ名前 だが、「山犬」とは既に絶滅した狼、「段」とは稜線の鞍部、やや広い平坦 なところを呼ぶらしい。
初日の蕎麦粒山・高塚山歩きは霧と小雨。スズタケが繁る中、太いブナ ・モミの木がいたるところに。視界はほとんど利かないが、人に会うことも 稀で、足元も固く踏み固められておらず、丹沢もかってはこのような光景 だったのではと思いをはせることしばし。
時折、疲れた体には、人を小ば かにしているのかと疑いたくなるような馬のいななきに似たコマドリの声。 それでも落ち着いた、心地よいコースだ。
翌日は小雨の中、板取山から天水を抜け、沢口山、そしてまた避難小屋 へと戻るコース。こちらは多少人の手が入っており、檜や落葉松の林がとこ ろどころ姿をみせる。
高低差はさほどないものの、往路はそぼ降る雨のなか、 復路は幸いにして雨もあがり晴れてはきたがアップダウンの連続。これで、 大無間山や黒法師岳などの秀峰が姿を現さなかったら、疲れだけが残る うんざりするルート。
こんな尾根伝いのアップダウンの道を、昔の人ははるばる信州まで通って いたという。大井川の源流部と伊那谷あたりなのか天竜川流域を結んでい たこの道は信州街道と呼ばれていたとのこと。一体何を運んでいたのだろう。
地図で見る限りでは同じような地形の、同じような山国同士。塩・米・魚・茶・ 鉱物資源・武器の類あるいは花嫁・情報・・・・・?

【兄山女の歌】

霧のたつ山犬段はブナ太く信濃の国へと誘う山みち

尾根みちを信濃の国へ行くという狼を避けなに運ぶらむ

さくさくと鈴竹分ける音ひかる先行く人は霧に隠れて

霧のみち尾根みちなれどいずくより嘶(いなな)きに似た声のするらむ

霧衣払い姿をあらわしぬ暮れなずむ春の黒法師岳
ぬばたまの闇が小屋にも忍びこむダウン・シェラフの帷をおろす

天水という名のいただき晴れぬれば大無間山(だいむげん)に雲わきのぼる

苔のむす樅はいくつの草枕結ぶをみたり信州街道

足腰の弱くなるとは思わねど沢口山(さわぐち)ルート駒鳥うらめし

山峡はなべてしたたるさみどりの茶も山登る川根本町
   
 
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