鬼無里・奥裾花自然園(信州・鬼無里 2005.05 by 提灯鮟鱇)


北信濃に鬼のいない里がある。その地は昨年までは鬼無里村とよばれていたが、隣の戸隠村とともに
今年の元旦から長野市の一部になっている。鬼無里にはなぜ鬼がいないのだろうか。
鬼がまだ人と共にあった時代、その跳梁跋扈に耐えかねてこの地に遷都が計画されたという伝説や、
都から配流された乙女にまつわる悲しい伝説などが残る。いずれの伝説でも当時の都に関係し、
その伝説の中でこの地の鬼が征伐され、以来鬼がいなくなったと伝えられている。
その伝説を裏付けるかのように鬼無里には、東京(ひがしきょう)、西京、二条,四条、加茂川、
加茂神社、春日神社など京にちなんだ名前が古より伝承されている。

鬼無里を流れる裾花川の最上流部にひっそりとブナの原生林が残されている。この原生林の中に
尾瀬をもしのぐ80万株以上のミズバショウ群生地が発見されたのは、今から41年前1964年のこと。

裾花川上流部、ブナ原生林に包まれたミズバショウ群生地は奥裾花自然園として公開されている。

残雪の下を何気なく覗いてみたら、雪の融けるのが待ちきれないようにミズバショウが葉と花を 伸ばし始めていた。雪がなかなか融けてくれないようで頭がつかえてしまいそう。
雪解け水を湛えた原生林の中の池にクロサンショウウオの卵塊を見つけた。
もう少し木々の葉が大きくなると、池の上に張り出した木の枝にモリアオガエルが真っ白い泡に 包まれた卵を産みつける。 木の葉の間で卵から孵ったオタマジャクシは池の中に落ちていく。
雪の重みで横になっていた若いブナの幹が春の訪れとともに少しずつ立ち上がってくる。
残雪の表面一面に落ちている茶色のものはゴミではない。冬の寒さからブナの芽を守っていた 芽麟だ。いわば冬芽の防寒コートといえる。新芽の芽吹きとともに役目を終えて雪面に落ちてくる。 こんなにもたくさんの新芽が頭上で芽吹いていることを教えてくれる。
新緑のブナに混じってカラマツも柔らかな緑の葉を伸ばし始めた。 枝の上で赤みがかった縁取があるのが雌花、枝の下で逆さまの茶色っぽいのが雄花。
カラマツの黄葉も素晴らしいが、若葉の新緑も目にやさしく美しい。
ほのかに赤みのあるニリンソウを見つけた。 近くにあった蕾は真っ赤な色をしていた。花が開くに従ってだんだんと色が薄くなっていくようだ。 真っ赤なままのニリンソウの花があったら面白いと思う。
ブナの芽吹き、ミズバショウの開花を迎えて鬼無里の人里では棚田の田植えが始まった。 雪融け水の冷たさは稲の生育を遅らせるが清冽な水はおいしいお米を稔らせてくれることだろう。
「秋になったらまたおいで」と呼びかけられているような気がする。

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雪融けを待ちかねたように動植物が一斉に春を迎える様子を見事に伝えています。
それにしてもブナの芽麟の子孫を残すための役割、ブナの枝が雪から立ち上がろうとする 生命力には驚かされますね。 【十三里】
 
 
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