風の落し物(神奈川県・鎌倉 2004.10.10 by 提灯鮟鱇)


大型台風22号が直撃した鎌倉を、その翌日に訪れてみた。
古都の路地は折れた枝や木の葉で覆われ、人々は朝早くから後片付けに追われていた。
幾つかの寺では倒れた木で亙が割れ門を閉ざしたままであった。
空を翔ぶことができず一歩一歩地面を踏みしめて歩くだけの人間にとっては頭上高く隠されていて
簡単には知ることのできない世界を、台風のおかげでほんの少し垣間見ることができる。

台風がくれた思いがけない美しい落し物。 満開だったキンモクセイの花がいたるところで地面を埋め尽くしていた。

どんなにすぐれた芸術家でも、このようにキンモクセイの花びらを散りば めることはできないであろう。
まだ未熟な小さく青いアケビの実が小雨降るハイキングコースに落ちていた。
子供の頃に家の近くの山で採ったアケビの甘い味を思い出しながら、熟した 実がぶら下がっていないか思わず頭上を見上げてしまった。
普段は高い樹上にあって近くで見る事がないシロダモの実を足元に発見でき るのも台風のおかげだ。
こんなに赤い実がいつもはほとんど目にする事がで きないのは少しもったいない気がする。
大きな木が倒れると風の流れが変わり遮られていた陽の光が地面に届くよう になって、新しい生命活動が開始される。陳腐な言葉かも知れないが、1つ の終わりは新たな始まりでもある。
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