「発見の日々(3)」

今回は、コラムの方は実に1年以上ぶりの更新になる。実は昨年の連休中に更新を狙っていたのであるが、そこで追突事故を起こしてしまい、謹慎の意味をかねて沈黙していた(?)のである。

ところが、この間本田や日産のハイブリッドが世に送り出され、プリウス自身のマイナーチェンジもまもなく行われるところまで来てしまった。

と言うわけで、「いまさら」発見の日々でも無かろうとも思うのだが、一度公約したことは何が何でもやり遂げるのが私の理念である。多少古びた話になってしまうかも知れないが、歴史に残る初期型プリウスに関する情報を残しておくことも重要と考え、引き続き更新を開始することにした。


全てが必要ではない

新型プリウスでは、随分いろいろな改良が行われるらしい。しかし、この手の革新型商品は、初期型に開発者の思い入れというかアイデアがより純粋な形で盛り込まれているものである。

中には従来のクルマでは必須アイテムになっているものが、プリウスでは(いろいろな技術的問題があるのだろうが) バッサリと切り捨てられているのだ。しかし、だからといって不自由を覚えることが(私にとっては)意外に少なかったので、翻ってクルマにとって何が必要なのかを垣間見ることになった。今回はそれらの点の中からいくつか気付いた事を記してみたい。

1)一体塗装カラードバンパーの廃止

最近のクルマの多くは、ボディーと同じ塗装をわざわざバンパーにも施して、見てくれを良くしようとしている。その結果、ちょっとした接触によるバンパーの傷を直そうと思っても、バンパーを丸ごと交換することになり、非常に高いコストを払わなければならない。

「新車情報」と言うテレビ番組でおなじみの三本氏(この方もプリウスオーナ)も、このような一体塗装バンパーは環境負荷が高いばかりでなく、オーナーに不要な経済的負担を強いるものだ、としてかねてからメーカーに改善を要求しておられた。

ところがクルマメーカーとしては、やはり「見てくれのいいクルマ」が世間一般に受ける以上、そういう車を作る必要があり、最近のほとんどの新型車にはカラードバンパーが採用されている。

「環境型コンパクトカー」を売り物にしているヴィッツでも、カラードバンパーでないのは一番下のグレードのみである。このグレードは、どちらかというと営業車としての利用が多いので、「一般ユーザーにはカラードバンパー」というトヨタのマーケティング戦略はここでも不動のようである。

ところが、ことプリウスに関しては、バンパーの一部は再生可能で取り外しが簡単な無塗装の部品(モール)が用いられている。従って軽い接触でこの部分がいたんでも、モールのみの交換で済むので、大変経済的だ。しかもこの部品はリサイクル効率も高くなっているのである。こういう点は本当に志が高い点であり、私はある意味燃費以上にプリウスにかけたトヨタの心意気に感心した。

しかし、残念なことに未確認な情報では、「顧客アンケート結果」を重視してか、コスト削減(バンパーモールはコストが意外にかかるらしい)のためか、新型プリウスでは一体型カラードバンパーになってしまうようである。私としては木目調のベースよりも、こっちの方がセンスがいいと思うのであるが。

2)トランク・スルーがない

初代型プリウスは、後部座席の背中部分にハイブリッド駆動用のニッケル水素電池がどっかりと鎮座している。その関係で、最近ではどのクルマにも標準で採用されている分割可倒式リヤシートやトランクスルーが実現できていない。

この点は実は私自身も購入時に躊躇を覚えた点である。しかし、よく考えてみると以前乗っていた車でも、トランクスルーを頻繁に活用した覚えはないし、人が後ろに乗っているときにはそもそも使いものにならない事に気付き、プリウス購入に踏み切った覚えがある。

実際、プリウス購入後、トランクスルーがあればいいのにと思ったことは一度もない。自家用車で引っ越ししたりするときや、大型の荷物を運ぶときに必要なのかも知れないが、そういうときは他人のデカイ車にお願いすればなんて言うことはないのだ。

3)タコメータなどがない

タコメータがないという点の善し悪しは、プリウスのコアユーザーでは意見が分かれるところであろう。実際多くの方が、「たます式タコメータ」という「たますさん」作製のコアなオプションを装着している。かくいう私もあった方がイイナと思ったりするのである。

ところがことコアユーザーでない一般の人を対象にするのであれば話は別である。というのは、プリウスにとってのエンジン回転数というのは、実に解釈が困難なシロモノだからだ。

プリウスは連続可変バルブタイミング機構と、アトキンソン(ミラー)サイクルエンジン(見かけ上の排気量をより小さく使う膨張行程の大きい高熱効率エンジン機構) を組み合わせた、高性能の省燃費型エンジンを採用している。

可変バルブタイミング機構に利用により、高速時と始動時で実排気量や実圧縮比を精密にコントロールしており、高速時には抗ノッキング性の高い圧縮比10近くで使用。発信時には、上死点30度で吸気バルブを開き、下死点後120度で閉じる遅閉じになっている。この場合の膨張比はかなり大きくなっているので、爆発エネルギーが十分低下しており、騒音と振動の低減に効果が絶大になっている。

また暖気運転時のエンジン回転の場合や、エアコン・コンプレッサー使用時、低負荷の運航時にも、遅閉じ機構を活用して小排気量運用を行っているらしい。

このような複雑な制御を受けるエンジンに加え、負荷に応じてプラネタリーギヤやジェネレーターが、モーターとエンジン出力の最適出力配分を行う。従って、極端なケース(下り坂や 時速47-48km以下での定常低負荷走行)では、エンジンは全く停止して、完全なEV走行状態に入ってしまうこともある。これは、プリウスのエンジン回転数には、もはや古典的なクルマのような意味がほとんど存在しないということを意味する。

さらに言えば、プリウスはプラネタリーギヤにより無断自動変速になっており、ギヤのシンクロにエンジン回転数を気にすることは全く必要ない。また、エンジン回転数の上限もコンピュータによって制御されているので、レッドゾーンを気にする必要もない。以上より、タコメーターは細かいメカニックに関心のない人にとっては、混乱を与える以外の何ものでもないわけである。

しかし、もしあなたがプリウスが今何をやっているのか知りたくなったら、たます式タコメーターをつけてみるとおもしろいことが判ることは請け合いだ。

プリウスのメータ類はデジタルの速度計ぐらいしかついておらず、実に素っ気ない。エネルギーモニターもヴィジュアルに現状を示しているが、従来の自動車のメーター類とは一線を画する存在で、むしろギミックに近いものかも知れない。

しかし、ここまで人工知能化が進んだ自動車では、そういう人間の数値認識で制御をコントロールすることはもはや不可能だったり、無意味だったりするのかも知れない。このような特徴をして、何人かの自動車評論家がプリウスの運転がつまらないものと結論するのであろう。

しかしここであえて言いたいのは、プリウスのドライビングは従来の本能的なドライビングとは一線を画するものだと言うことである。ある意味、ドライバーにインテリジェントに運転やクルマを楽しむ姿勢がないと、このクルマのおもしろさは全くわからないのである。その点ではインサイトのような詳細なデータ管理ができるモニターの方が、この手のクルマの走る喜びを感じるために大切なのかも知れない。


以上はなくても不自由を感じなかったものであるが、反面これはやっぱり必要でしょうというものもある。

1)リヤワイパー

インサイト開発者の話では、リヤワイパーというのは空力性能を結構損ねるらしい。おそらくプリウスでもコスト面と言うより、空力性能を向上させるために設定されなかったのでは無かろうか。しかし、雨天時の後面視界の確保には、やはりリヤワイパーは必須であると思う。

2)室内スポットランプ

昔パルサーに乗っていた頃、友人のトヨタ車にはこれがついていて、「トヨタ車は便利なモノがついているな」と思っていた。いざプリウスに乗り換えてみると、質実剛健な日産車のように、これがついていない。イエローハットとかで売っているものをシガーライター(むしろシガーライターをオプションでいい)につけて使っているが、やっぱり標準でついていて欲しい(と思っていたら新型プリウスにはつくらしい)。

3)クルーズコントロール

私はかつてレオーネに乗っていた頃に、このクルーズコントロールと言うものを使ったことがある。これは空いている高速道路ぐらいでしか使う機会が無く、こんなモノ不要だと思ったものである。

しかし、ことプリウスではこのクルーズコントロールが恋しくなった。というのは低燃費定常走行をする場合、アクセルワークを1-5mm単位で微妙にコントロールして、速度一定(なんと言ってもこれが高燃費に一番)に保つ必要があるからである。これが長距離だと、足の筋肉がつりそうになってくるわけだ。

こう言うときクルーズコントロールがあれば、後はプリウスにお任せで、ハンドルとブレーキに集中すればいいので大変楽に高燃費走行ができる。おそらく日本では使う機会が少ないだろうが、この夏発売するアメリカでは必須なアイテムではなかろうか。

この点もやはり多くの要望があったようで、新型プリウスにはオプション設定が為される様子である。


以上とりとめもなく気付いた点について書いてきたが、新型になって良くなる点もあれば、せっかくの良さが失われてしまう点もあるようである。一般にトヨタ車は後継モデルになるに連れて、製品の完成度や使い勝手は良くなる反面、初代の志の高さが失われてしまうように思える。ぜひプリウスに関してはその名に恥じない志の高さを保っていただきたいと思うものである。

次回は、この「作り手の顔が見るクルマ」と言う点について取り上げる予定だ。

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