発見の日々(1)

「静かである」ということは「疲れない」と言うこと

プリウスの特徴の一つに、ガソリンエンジン・モーター走行時に関わらず、車内がかなり静かだと言うことがあげられる。この静かさという長所は、オーディオがきれいに聞こえたり、外国人との会話がスムースにできたりという、はっきりした実利以外にも、長距離ドライブにおける脳の疲労を軽減する働きがあるような気がしている。

以前乗っていた車は、どのクルマもお世辞にも高級車ではなかったが、高速走行時には車内の音圧が相当高く、2〜3時間連続走行すると大変疲れた記憶がある。この疲れは、からだの疲れもさることながら、「なんだか帰ってからもう仕事したくないな」と言う精神的な疲労を伴うものだった。

プリウスの室内も、高速走行すればそこそこうるさいのであるが、やはり他のクルマと音の感じが違うような気がする。私はDNAとか染色体とかの扱いはプロだが、メカニックなことは全くの素人なので、ここからは推測の域を出ない。

私が思うには、プリウスではエンジン内部のフリクションが大幅に減少しているおかげで、神経に障る音圧レベルが低いのではないのだろうか。ついでに言えば、エンジン振動のたぐいもやはり少ないようである。これらは、高回転でトルク・馬力を稼がなくて良いというハイブリッド車の利点を生かした、トヨタのコペルニクス的革新に依存しているのである。

こういう具合に車内の音圧が低いので、高速走行時に比較的精神状態が安定しているような気がする。言い換えると音とスピード感の比例係数が、他のクルマより明らかに小さい為に、車速に応じた緊張感の盛り上がりが少ないのである。

こう書くと、プリウスはスピード感覚を失わせる危険なクルマと取られる方がおられるかも知れないが、その心配はご無用。不思議なことにこの車に乗ると、何故か運転がおとなしくなり、スピードを出しすぎることはほとんどなくなるのだ。スピード違反の常習犯は、こういう車に乗せると良いかも知れないと思えるぐらいである。

もっとも高速時の疲労感は、シートの問題や、見晴らし、走行速度などの他のパラメータも関与する複雑な系なので、単に車内騒音レベルの問題に限定できないことは承知している。しかし、長い時間低周波雑音を聞き続けていると、様々な悪い生理学的影響が出てくることは、私の記憶が確かなら、すでに各所で報告されており、あながち無関係とは思えないのである。この点は、科学番組などで調べてみたいものだが、そういう番組は残念ながらかなり少なくなっているので、難しいかもしれない。


実感できるアクティブ・セイフティー

以前書いたとおり、プリウス納車からしばらくは、私は別の車も所有しており、両車を何回か乗り比べたことがある。そこで感じたことは、いかにプリウスが安全に運転しやすく作られているかと言うことだ。これにはいくつかの点が挙げられる。

まず第1に、プリウスはフロントウィンドゥからの見晴らしがよい、ということである。プリウスは着座位置が高めなので、元々見晴らしがよいが、さらにフロントウィンドゥの開口度が広く取ってあって、とても視認性が高くなっている。また雨の日のワイパーのふき取りもかなり広範囲で、見やすい。ワイパーはおもしろいことに左右でかなり大きさが違っている。ここら辺でふき取り面積を上げているのだろうか。

第2のポイントは、何度も書くがやはりブレーキが利くと言うことである。一度このブレーキに馴染んでしまうと、他のクルマのブレーキは信頼感がなく、踏んでも効かないから、えらく怖い。というわけで、しばらくしてもう一台の車は大変気に入ってはいたが、次第に乗らなくなり、ついに研究所の後輩研究員に譲ってしまった。

当初このブレーキには賛否両論(否定的意見が圧倒的)があり、CS(朝日ニュースター)のクルマ番組でキャスター兼評論家の方が、どうしてこういうブレーキをプリウスに導入したか、開発者に直接聞いていた場面があった。

そこで開発者が答えていたことは、大体以下の通りである。

1)ブレーキにはストローク(踏み込みの深さ)で効かせるタイプと、踏力に応じて減速させるタイプがある。

2)日本車は大方前者を採用しており、ヨーロッパ車の一部では後者が採用されている。

3)プリウスは後者のタイプである。つまり、踏んだら踏んだ分だけ踏力に応じて効く、剛性感の高いイメージのものを採用した。もっと言えば感圧式スイッチのような趣(これはキャスターの印象)。

この開発者の決意は、並大抵のものではないと思った。プリウスはどちらかといえば、ファミリー向けの安全・経済車と思っている人も多いと思う。また、トヨタ車は昔からスポンジを踏むような剛性感のないブレーキを採用してきた会社である。そこが率先して、こういうイメージのクルマに、フランス車や一部のドイツ車的なガッチン(「カックン」ではない)ブレーキを組み込んできたのである。一部の評論家は自動車雑誌で、このブレーキをトヨタの内部基準に合致していないのではと言っていたが、私はこれを市場に対する実験ととらえている。

最近のプリウスは、初期型と異なり、ブレーキの利きが通常のものに近づいてきているらしい。今のブレーキがどうなっているのか知らないが、私はこれをとても残念なことだと思う。と同時に、リスクはあっても初期型を購入できて良かったと思っている。これも、市場からのフィードバックが、理想的なものを台無しにしていく一つの過程なのか。本当にモノ作りは難しい。自分勝手かも知れないが、これ以上保守に回帰して欲しくないと思っている。

これ以外にも、メータ類の視認性が高い、結構粘るサスペンション(タイヤがもっとスポーティーなら良いのに...)に加え、ABSやハイマウント・ストップランプなどの定番の標準装備の点も上げられる。これらのことは、かつてCMを賑わせた「アクティブ・セイフティー」なることばでまとめらる事かも知れない。

以前乗っていたレオーネの時も、スバルはかなり前から「アクティブ・セイフティー」の概念の重要性を強調していた記憶がある。たしかに、乗車4WDのオンザレール・高踏破能力には随分お世話になり、感心もしたが、やはり一番の「アクティブ・セイフティー」は、ストレスなく運転でき、無理な運転をする気が起こらなくなるというのにつきるのではなかろうか?この点はプリウスの長所として、もっと強調されて良いのではないかと思う。


次回「発見の日々(2)」

カーナビはもう必需品

全てが必要ではないと言うこと

その次の「革新的エコ・エンスーという概念」

作り手が見えてくるクルマ

燃費向上の奥義:コンピュータとのシンクロが大切

さらに「プリウスが語るクルマの未来とは」

ハイブリッドの位置づけ

クルマの未来はどっちだ!

をお届けする予定です。こうご期待ください。

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