質問40 「いっしょに」山場と演奏のポイント

 僕たちは今「いっしょに」を練習しています。みんなでどこが山場か考えたところ、ほとんどの人が「ひかりのこぼれぐあい」のあたりかな?といいました。最後「しばらくいっしょにすごしませんか」で、初めて曲名が出てくるので、ここが大切なのかなという意見もありました。どうでしょうか?またこの曲の意味や、うたう時のアドバイスなどがあれば、教えてください。

 アンパンマン 香川県

解答 

  「いっしょに」の構成はかなりシンプルなので、強弱記号を見ながら歌っていただければ、どこが山かおわかりになると思います。この曲でfになるのはたった一カ所、27小節「ひかりのこぼれぐあい」の所です。動きのある中間部の一番の盛り上がりですから、ここが曲の山といっていいでしょう。(どんな曲でも一番強弱の大きいところが曲の山と言うわけではありません。ppが緊張の頂点という場合もありますから。でもかなりヒントになるのはたしかです)。

 構成はA-B-A'というかなりわかりやすいものです。Aの主題提示部は8小節のメロディが2度繰り返すだけです(1〜16小節)が、よくメロディラインを見ると、「いきませんか」の「せん」の所、1回目はニ音なのに、2回目はホ音になっていますし、強弱も2度めはmfが出てきます。それにBassは2度めまったく反復せず違う動きをしています。つまり同じメロディでも、1度めは静かな提示、2度めはコード進行を変化させつつ音楽がぐっと動き出すのがわかります。でもあまりやりすぎないように。

 中間部は音楽がどんどん移り変わっていきます。「ひかりのこぼれぐあい」に向かって、気持ちを前のりに。特に24〜26小節の男声「かぜのはしるすがたや」は山を効果的に作る上で大切な所ですから気持ちを抜いてはいけません。たとえ人数が少なくても埋没してしまわないように。特に25小節「すがたや」で音域が少し下がりますが、けっして音量を落とさないように。crescをかけるくらいでちょうどキープした感じになります。そこからメロディを女声に受け渡すわけですが、渡した後も気持ち、音量ともしっかりキープしてハーモニーをささえてください。中間部でのポイントは山を迎えたあと。ふつう山を迎えると一気に力を抜いてしまいがちですが、この曲は山が一段落したあと再現部までが12小節(35〜46小節)もあります。ここで大切なのは音楽が落ち着いてしまわないこと。音量はpでも音楽は47小節をめざして緊張を保ちつつ流動していきます。

 再現部が提示部と異なるところは音量がppであることです。ppでの豊かな響きは大変むずかしいので、忠実にやろうとしすぎると響きが死んでしまう恐れがあります。あくまで丁寧な柔らかい響きというのを目指してみてください。「ああ戻ってきた」と聴き手に安心感を与えることが大切です。もうひとつ提示部との違いは、54〜58小節頭まで、男声にメロディがくるということです。テノール音域が低くて大変ですが、メロディを担当しているという気持ちを持って歌って下さい。ソプラノもこの間はテノールのメロディを聴きながら歌うようにすると、バランスが大きくなりすぎずにすみます。最後に初めて「いっしょに」というタイトルの言葉が出てきます。この締めの5小節は大事に(しかしrit.をかけすぎないように)歌いましょう。最後のコードは特にきれいに決めて下さい。

 演奏上のポイントはどんな曲でもだいたい共通していますから、前項「はじまり」の注意点とも重複しますが、無伴奏曲の場合特に縦の響きを決めること、ハモることが大切です。日本の合唱の練習法はパート練習に重きを置くことが多いようですが、ハーモニーの耳を鍛えるには全声部そろって縦の響きを聴き合う練習が不可欠です。それから密度の濃いハーモニーに大切なのは各声部の音量バランス。これも全員で歌わないと掴めません。

 日本語はフレーズを繋ぐのがむずかしいですが、私の曲は特にフレーズが長いので、どこまでワンフレーズかをきちんと意識ながら歌う事が大切です。たとえばこの曲なら、1〜16小節までがワンフレーズぐらいの気持ちで歌うと、音楽がだれずにすみます。
「ここで」、「ここで」、「やすんでいきませんか」と音節ごとに気持ちが切れて目線が下に落ちてしまうと音楽が流れません。言葉をはっきり発音しようと思う時に陥りやすい穴ですが、言葉、とくに単語の頭ははっきり発音する必要があるけれど、そのときフレーズを分断しないように気を付けましょう。だんだん言うことが複雑になってきましたが

 最後の「しませんか」の「ん」は響きを出すのが大変でしょうが、なるべく「n」を響かせる工夫をしてみてください。

 それからやや心理的なことですが、愛犬でも何でも、かわいい愛おしいものを心に浮かべて、それに話しかけるように暖かい心で歌う事も大切です。コンクールなどではこれが案外むずかしいのですが。こわばった顔では暖かい音色が出せなくなるので、日頃からメンタルトレーニングしてみましょう。

2003.8.14