質問37 「めばえ」3バージョンでハーモニーが微妙に異なるのは意図的?

 混声版『めばえ』39小節アタマのSop.は、AではなくてGでよいのでしょうか?CDの女声版ではAだと思うのですが。響きが違う箇所はよ〜く聞いてみると他にもたくさんあるようです。これは意図的にハーモニーを変えているのでしょうか。

みきりん  福岡県  他

解答 

 「めばえ」は平成9年度のNHK全国学校音楽コンクール高校の部課題曲として作曲しました。このコンクールでは一つの曲を混声版、女声版、男声版と三バージョン作成せねばならず、当然のこととして、どの版も同程度の難易度、同程度の効果の得られるように書かなくてはなりません。これは毎回かなり頭を悩まされるところです。なぜなら混声は音域が広いので開離位置で和音を構成するのに対し、音域の狭い女声、男声版だと同じ和音でも密集位置で作曲することになるからです。

 三和音の基本形でのみコード進行が成り立っている曲なら別に問題ないのですが、私の曲は一聴わかりやすくシンプルなものの、実は非和声音だらけ、かなり制約が多い中での綱渡り的進行や転調を頻繁に用いているため、開離和音を密集に置き換えるだけでいろいろ問題がおこってきます。はっきりいって全く同じ構成音のみで三バージョン作ることはほとんど不可能な訳です。で、わからない程度にハーモニーを変えつつ何とか似た効果を狙うことになり、結果として微妙に異なる箇所が必ず出てきてしまいます。でもこれは決して誤植や校正落としではなく、意図的な操作なのです。三バージョンを並べて、コード進行の違いを全部チェックできればいいのでしょうが、とてもそういう細かい作業をする元気はありません。どなたかまめな方お願いします。

 今回ご指摘いただいた39小節あたま部分ですが。この曲は最初に混声で作曲していますので、本当はメロディがGなのがオリジナルです。でもこれを密集和音でやると、CFAの和音にGの音がめり込んでメロディが聞こえない上、FGAというきたない音塊となって耳障りです。ほかに和声的な制約もあり、Gの音を外さざるを得なくなりました。結果として混声と、女声・男声ではコード進行が変わっています。

 12小節の第1和音も、混声版だとFCEAなのに、女声・男声版はCFAです。こういう7の和音では根音と第7音の音程が長7度となり、密集位置にすると転回して短2度でぶつかってしまうので、意図的に第7音を取ったものです。

 同じく12小節ア・テンポでの声部の入り方も異なっています。混声ではTen.とBassが反行するのに対し、女・男声では2声が同方向に上行します。混声版ではそのあと女声が加わるので全体に配置が上がるため、入りでBassが反行することで、全体が上方に跳躍したような不安定感を与えないようにしたものです。それに対し女・男声版では新たに加わるのが内声なので反行の必要がないのと、混声版のままいくと内声にできる並行5度進行が目立つ、などいろいろの理由から入りの形を変えたものです。ほかにもいろいろな意図で3バージョン少しずつ書き方を変えてありますので、なぜ書き方を変えてあるのか、その理由を推理なさってみてください。きっと作品解釈に役立つはずです。

2003.6.16