質問35 「春に」徹底解剖3 (奏法)

 今までQ&Aにいただいた質問の中で一番多かったのが、「春に」をうまく演奏するコツは?「春に」はどういう気持ちで書いたか?というもの。掲示板、メールを合わせると100件近くいただいていると思う。ありがたいことだ。ということで今回3回目にしてようやく本題。前回作品の形式と特徴に触れたので、今回は具体的なアドバイスを。

解答 

奏法

 ・まず「このきもちはなんだろう」の出だし。「感情をこめて歌おう」という抽象的な指示だけでは却って力んで表情が暗くなりがち。とにかく歌い出す前に優しい気持ち、
柔らかい顔の表情でスタンバイすることが大切。案外これが難しい。

「このきもちはなんだろう」は2度繰り返すが、前回の特徴の欄でも触れた通り、同型反復する場合に歌い方も全く同じでは演奏が単調になる。2度目は一歩前に出る感じで。

「この」を表現するために「k」を強調しがちだが、子音の不必要な強調はかなり耳障りな場合がある。某大物指揮者によると「o」の口で待っていて、歌う直前にさりげなく「k」の子音を乗せるだけでいいそうだ。いろいろ試してみてください。

「めにみえないエネルギーのながれが」、言葉をはっきり歌おうとして16分音符が立ちすぎ、テンポも走ってしまう演奏が多いが、言葉が多いからリズムが細かくなっている場合はリズムを強調する必要はないので、全体のゆったりした雰囲気をキープしたまま
単語、もしくは文節の意味をはっきりさせることを心掛けてください。その場合シラブルひとつひとつを強調すると「め・に・み・え・ない・え・ね・る・ぎー」のようにほとんど意味不明になって逆効果なので、単語、もしくは文節の頭の音を他のシラブルより少しはっきり目に、「に・えない・ねるぎーの・がれが」と歌ってみるといいでしょう。その場合「見えない」「エネルギー」「流れ」といった言葉が意味を伴って聞こえてくるように工夫してみてください。

・「こえにならないさけびとなって」は高音域でfなのでよく鳴るが、そのあと音域が下がると急にしょぼくれてしまう演奏が多い。でも「こみあげる」まではfをキープして頂きたいところ。実際歌う音より一オクターブ上のGを歌うつもりで、テンションをキープして歌ってみて下さい。そのときピアノ伴奏の右手がやわらかいフォルテで音楽をリードすると合唱も歌いやすい。

・「えだのさきのふくらんだ」は中間部の入りなので、音色を変えて美しいppの響きが欲しいところだが、慣れないうちにppということに気をとられすぎると、のどがしまったり音楽が萎縮する恐れがある。豊かな響きでppを歌うのはかなり高度なテクニックなので、まずは音色を変えて歌う工夫をしてみましょう。

・「よろこびだ」「かなしみだ」「あこがれだ」は同型反復しながらどんどん盛り上がっていく場面なので、3回とも表情を変えながら、徐々にクレッシェンドし、テンポもじりじりと前に巻いていくと効果的。しかしピアノ伴奏はただでさえ前に走りやすい音型(特に左手)なのでイン・テンポをきっちりキープするつもりでちょうどいい。ここも言葉の意味をはっきりさせようと16分音符が強調されがちだが、リズムでなく言葉の意味や表情と音楽を連動させることが大切。

・「こころのダムに〜あふれようとする」まではたっぷりしたfで、ハーモニーを響かせて堂々と歌いましょう。ピアノ伴奏は16分音符が走らないように。イン・テンポで。

・何度もふれていることだが「あのそらの、あのあおに」といった細かい音のとき、むやみに16分音符のリズムを強調するのでなく、ゆったり感はキープしたまま、「あのらの・あのおに」という言葉の意味が自然に聞こえるように歌って下さい。

・再現部が意外と長いので、あまりはやく盛り上げすぎると最後まで持たない。構成をよく考えて「こえにならないさけびとなってこみあげる」に山がくるよう配分してください。途中「ちへいせんのかなたへと」で一旦mfになるが、元に戻るのではなくコーダに突入する場所なので、気持ちもテンポも落とさず、そこから一気に山に向かって下さい。

・「こえにならないさけびとなって」は先ほども書いたとおり「こみあげる」まで気持ちをキープして。とくにピアノ伴奏は「さけびとなって」の小節の3〜4拍目と次の小節の一拍目はたっぷりした音量で。「こみあげる」の伴奏走らないように。最後の「このきもちは」の伴奏、4拍目と次小節一拍目の和音は合唱の山を受け止める大切な役割なので、特に左手は豊かなfの響きで。

・ピアノの後奏は走らず力まず、やわらかく歌ってください。合唱は美しくディミニエンドして。最後ピアノの右手のCからDへの動きは大切です。Dに落ち着くことではっきり終止するので、それを意識して弾いてください。

 肝心の奏法がやや急ぎ足になってしまいましたが、演奏なさる場合の参考にしていただければうれしいです。

2003.4.30