質問28 「なぎさの地球」演奏のポイント&アドヴァイスは?

 今一生懸命「なぎさの地球」の練習をしています。まもなくNHKコンクールの県大会のオーディションがあるのですが、ポイント&アドバイスがありましたら教えてください!

 掲示板書き込みより

解答 
 もう県大会がはじまるんですか。暑いのに大変ですね。本番直前になって新たなポイントを指摘するとかえって混乱の元にもなるのですが、お困りのようなので、さしあたって今年の音楽教育6月号別冊用に書いた作曲者からの「課題曲演奏へのアドヴァイス」という一文を音楽之友社のご厚意によってここに転載することにしました。なお、音楽教育6月号別冊には作詞者(大岡信先生)作曲者のコメントのほかに、指揮者の栗山文昭先生による具体的な演奏注意点なども載っていますので、興味がおありの方はバックナンバーをチェックなさってみては如何でしょうか。 
音楽之友社 03-3235-2111(代)

2002.7.30

「なぎさの地球」演奏へのアドヴァイス 

 平成14年度の全国学校音楽コンクール高校部門課題曲「なぎさの地球」は、大岡信さんの書き下ろしの詩をテキストに昨年12月から今年1月にかけて作曲したものです。大岡信氏といえば、私の初合唱組曲『方舟』の詩の作者で、最初に「水底吹笛」(すいていすいてき)という美しい大岡詩と出会わなければ、その後これほど多くの合唱作品を書き続けていなかったかもしれません。 NHK課題曲を書くのは、'92年度の中学部門「もえる緑をこころに」、'97年度高校部門「めばえ」に次いでこれで3度目。課題曲のテキストはふつう高校生向きに書かれることが多いですが、「なぎさの地球」はあくまで若者の視点という形をとりつつ、全体に大人の深いまなざしが感じられる作品です。最初にこの詩を読んだとき、私自身心の奥に染みるものがありました。ですから指揮をなさる先生方にとっても感情移入がしやすいのではないでしょうか。 

 歌詞を頭に入れておけば曲の分析はそれほど難しくないでしょうから、あえて練習番号はつけませんでしたが、付けるとすれば詩の各節の頭ということになります。(第13・25・35・41・49・62小節)

 構成上のポイントは二つ、「あまりにも短かった」へ向かう大きな盛り上がりをいかに形作るか。「それとも」以降の独白的な音楽をいかに表現するかです。
 35小節に最初の旋律が再現されたあと「なんともないなぎさのうえの」のpから「あまりにも」でffに至るまで、14小節にわたってじわじわとクレッシェンドし続けます。
はやく大きくなりすぎても、クレッシェンドが足りなくても盛り上がりませんから、ちょうどいい案配を工夫してみてください。三連符などの細かい動きが多いため実際上のテンポはそれほど速くなりませんが、イン・テンポと思って一拍ずつ刻んでしまうと音楽が停滞しますから、フレーズはあくまで、前へ前へ進む緊張感を持ってください。また14小節でffに達してもすぐに気を抜かないで、58小節二拍目まで3.5小節間ffをキープすることが大切です。

 ピアノの分散和音の間奏で熱をさましたあと、「それとも」から終結部に入ります。運動的な盛り上がりは先ほどの長いクレッシェンドにあるのですが、精神的な山場は、実はこの終結部にあります。音取りはそれほど大変ではありませんが、表現力の差が大きく出るところです。言葉のシラブルを強調しすぎると間延びするし、子音を強調しすぎると音楽が痩せます。リズムを正確にと三連符を強調すればごつごつと子供っぽくなりますし。大切なのは音楽の流れと言葉を密着させることです。歌曲の名演奏などを聴いて、フレーズの自然な流れに美しい日本語をいかに連動させるか、ぜひ研究なさってみてください。

教育音楽」(中学・高校版6月号別冊付録 2002.6.1発行)より転載