質問14 作曲家に委嘱するときの心得は?

はじめまして、僕は某大学合唱団で学生指揮者をやっているものです。いろいろありまして我が団でもある作曲家先生の委嘱初演が決定いたしました。しかし、昨今の合唱界における委嘱のノウハウがないので具体的な手順など謎だらけです。失礼の無いように委嘱を進めていくには、いったいどうすればよいのでしょうか。

東京都 T.F.

解答
 順番でいうと、まず委嘱の打診の手紙をだすことでしょうね(最初から電話というのはちょっとリスク高いかも知れません。メールの場合は、手紙より歓迎する人もいるようですが)。内容は、委嘱する理由、書いてほしい曲の長さやタイプ、編成、締め切り時期、詩はどういうテキストを使うか、委嘱料はいくらか、いつ、どこで、誰の指揮で初演するか、あたりのことをきっちり押さえておけばよいと思います。手紙が届いたと思われる頃電話してみましょう。運悪く先方が作曲の最中だったりすると、集中を妨げられて、ものすごく不機嫌だったりしますが、いちいち気にするのはやめましょう。

 委嘱料は作曲家によって千差万別。キャリアが長くて、人気がある作曲家の場合、当然作曲料は高くなるでしょうが、そうでなくても高額な委嘱料を請求する方もおられます。作曲家の提示した額を組曲の値段と思って安心して依頼したら、実はそれは一曲分の値段で、4曲からなる組曲だったため予想額の4倍請求されたというケースもあるようです。恐ろしい話ですね。私の場合、(地方自治体などでは当然ですが)一般の合唱団でも、いろいろな取り決めを契約書にしてあらかじめ取り交わす事が多いです。きちんとしておけば前述のようなトラブルも、事前に回避できますね。

 契約後、関係者(作曲者と指揮者と合唱団代表者など)で会食とか、ホテルのロビーでお茶を飲んで顔合わせをやる場合もありますが、全くない場合もあります。お中元お歳暮など非常に豪華なものが届く場合も、せっけん1つこない場合もあります。そういうことは作曲家の心証にはやや影響を及ぼしますが、作品の出来不出来にはほとんど全く影響しません。ですから余裕があれば送ればいいし、なければ割愛しても何ら問題ないと思います。あとは、ひたすら作曲家のしごとを待つのみです。

 純音楽系の作曲家はだいたい、詩の選択や曲の内容に注文をつけられるのをいやがります。委嘱したら最後、どんなけったいな曲が出来上がっても、受け入れるほかないわけでよく考えるとかなり危ない賭けです。作曲家はまた、しつこく催促されるのを極端にいやがります。「今やろうと思ったのに言うんだものなあ」。そのくせ期日は守った試しがなく、時によると1週間前にようやく仕上げて合唱団に死ぬ思いをさせたり、あろうことか締め切りを落としてしまったりします。委嘱とは実にスリリングな賭けです。それでもなお委嘱したいというなら止めません。幸運をお祈りします。

2001.1.14