質問12 楽譜出版を実現するためには?

 私の夢の一つに「合唱曲の楽譜が出版される」ことがあるのですが、どうすれば実現されるのでしょうか?やはりコンクールなどで名前が世に広まらないと無理でしょうか?それともコネクションが必要なのでしょうか?はたまた、とりあえずお金があれば何とかなる問題なのでしょうか?一冊の組曲・曲集が出版される経緯や裏話を教えていただけたら幸いです。

東京都 N.A.

解答
 最初の一冊が出版になるまでには、長い長い物語があるものなのです。私の例でお話すると、最初の合唱組曲「方舟」を作曲したのはまだ学生の時でした。東京外国語大学コール・ソレイユという合唱団の委嘱で、初演は素晴らしい出来だったにもかかわらず、出版までに5年もかかりました。初出版を心待ちにする新人にとって、5年はめまいするほど長い時間で、ふつうここでいやになったり、あきらめてしまったりするのですが。私の場合はラッキーなことに、その5年の間に、吹奏楽曲「序奏とアレグロ」と合唱組曲「ティオの夜の旅」という二冊があっけなく先に出版されてしまったのです。

 「序奏とアレグロ」は全日本吹奏楽連盟の課題曲公募で選ばれたので、一種のコンクールですね。「ティオの夜の旅」は東京都の合唱コンクールで歌われたのを、たまたまお聴きになった湯山昭先生と池田明良先生が気に入って下さって、出版社に推薦してくださったのです。その時点で私はお二人にお目にかかったことすらなかったのに、見ず知らずの新人の作品を推薦してくださったわけです。そうして出版になった「ティオの夜の旅」が評判をとったので、5年間日の目を見なかった「方舟」もようやく出版されたと・・。

 この経験だけで言わせていただくと、楽譜出版に必要なのは とにかくいい作品を次々書く、上手な合唱団で演奏して貰う(できればコンクールや演奏会など公式の場で、非公式の場ならちゃんと自分で録音をとっておく)、もしくは楽譜出版などの特典付きコンクールを受ける、1〜2回没になったりけなされてもあきらめない、ということですか。一旦出版して信用を得られると、次からは、編集者が初演を聴きに来てくれるようになって、ぐっと楽になります。

 N.A.さんがおっしゃるように、コンクールなどで名前を世に広める、コネクションが豊富、お金がある、なども有効です。私のように、コネはゼロだが、ある日見ず知らずの人から委嘱が舞い込んで、一面識もない先生方から出版の推薦してもらえる、という幸運なことは、めったに起こるものではありません。

 指揮者や合唱団内で発言力のある人と友人関係を持っていると、演奏されるチャンスは多くなるでしょうし、編集者と仲良くなっておけば、アレンジなどの仕事も舞い込むかも知れません。ぜんぜん面識のない人の作品持ち込みに対して、編集者は非情です。けんもほろろ。でも友達なら、すこしは有利かもしれない。

 全然どこからも出版してもらえない場合は、お金さえあれば自費出版という手もあるでしょう。詩の世界では、かなり有名な作品でも、最初は自費出版500部なんてことがよくありますから。あとは、指揮の能力とヴォイストレーニング力のある人だったら、自分の合唱団をうまく育てて、コンクールなどで自作を歌わせる、という手段もあります。ただし、ものすごくタフな人でないと、指揮で疲れて、作曲意欲なくしてしまいかねませんが。いずれの場合も曲が面白くないと出版に結びつきませんので、念のため。

2000.12.4