今まで書いた合唱作品で最も好きな曲は?

 僕はtenなので、パートソロの気持ちよい木下作品はとても好きです。今まで歌った曲は、鴎、春に、夢見たものは、なぎさの地球、物語、邪宗門秘曲等々、たくさんあります。ずばりお聞きしたいのですが、今まで作った合唱作品の中で、先生自身が最も好き、もしくはこの曲は特別思い入れがある、とかそういう曲があったら是非教えて下さい!

 大学3年生 宮城県

解答 

 どの曲も愛情をこめて書いたので、同じくらい好きです!といいたいところですが、やはり曲によって思い入れは違います。「合唱」ってジャンルがとても細分化されていますね。混声、男声、女声、児童とありますし、伴奏型もアカペラ、ピアノ伴奏、器楽伴奏、ブラス伴奏、オケ伴などいろいろ。同じ合唱といってもそれぞれ書き方が微妙に異なるし、困ったことに歌う層もほとんどリンクしていない。だから、せっかく合唱というジャンルが好きになったのだから一通り書いてみようと思ったら、予想外に長い期間かかってしまいました。

 思い入れが深いのは、やはり初めての編成で書いた曲でしょうか。ピアノ伴奏付混声組曲として最初に書いた「方舟」「ティオの夜の旅」はやはり断然思い入れがあります。今でも、これを熱く支持してくれた当時の大学生たちにお礼を言いたい心境です。
 
次に印象深いのは、初めて単一楽章で書いた「邪宗門秘曲」。これは愛情が改訂という形であらわれ、ピアノ伴奏版を2度も全面改訂したあと、一管オーケストラ伴奏版も作って、次は大合唱用に二管オケ版も作りたいと思っています。
 初めて書いた男声組曲「Enfance finie」、同じく女声合唱曲集「ファンタジア」なども気に入っています。この2組曲には自分でも特にメロディ・ハーモニーを気に入っている曲が多く、より大勢の方に知ってもらいたくて、どちらも歌曲バージョンを作りました。「物語」とか「風をみたひと」とかは、すでに演奏会でよく取り上げられ始めています。

 アカペラでも最初に書いた「夢みたものは」「鴎」などは愛着が深いですね。「夢みたものは」は友人の編集者のお祝い事でプレゼントした曲ですが、正直いうと、その原型(うた)を作ったのは芸大浪人時代で(もちろん未発表ですが)、実は最も古い曲のひとつなのです。

 初めてといえば、最初大学合唱団向けの組曲ばかり書いていた私に、某出版社から中・高校生のための曲をと依頼されて初めて書いたのが「春に」。のちに「サッカーによせて」「二十億光年の孤独」「ネロ」などを加えて「地平線のかなたへ」という曲集にまとめました。「春に」は確かに自分でも気に入っていますが、実はそれほど歌いやすい曲ではないので、正直ここまで広く浸透するとは思いもしませんでした。

 最近では、初めて打楽器伴奏で書いた女声合唱とパーカッションのための「BLUE」を気に入っています。これだけ声楽系作品が多いのに実は私は器楽系作曲家。器楽をひとつ使えると、断然作曲が楽しくなります。これはビブラフォンやスネア・ドラムなどを使うことで独特の乾いた透明感を出そうとした作品で、日頃シビアな合唱プロフェッショナルが、この曲を絶賛してくださったのがとてもうれしかったです。

 初めての編成でなくて、大作でもないのに、愛着があり、また多くの人に歌われているものに「愛する歌」「月の角笛」(歌曲集としてのタイトルは「叙情小曲集」)があります。どちらも同声二部合唱曲集として出たので、最初は「シンプル」という点が受けたのですが、この2曲集は私にとって、メロディ・ハーモニーのセンスの面で、とりわけ気に入っている可愛い宝石たちです。これらも例によって歌曲バージョンが出ていて、アンコール・ピースとしてよく歌われています。先日クラリネット・バイオリン・ピアノのための新作を発表した折、委嘱者からの依頼で「うぐいす」をアンコール用に器楽トリオにアレンジしたら、驚くほどしっとり決まりました。曲だけなのにちゃんと「うぐいす」でした。ちなみに「月の角笛」の中の「白いもの」は、作曲を本気で志した高校三年生の時の作品で、私の作品史上もっとも古い曲です。

2004.10.20