ヲ01年11月2〜4日
二期会オペラ「ホフマン物語」

 会場 東京文化会館

 二期会の創立五十周年記念公演のひとつ「ホフマン物語」に出掛けた。初日と二日目(二日目は第一幕だけで用事のため泣く泣く途中退場)を見たため、ダブル・キャストの聴き比べができたのがなかなか興味深かった。ストーリーはプロローグとエピローグに挟まれた三つの幻想物語で、ドイツ・ロマン派のホフマンの短編小説を素材としており(「砂男」「クレスペル顧問官」など)、一種のオムニバス構成になっている。私がこのオペラを好きなのは何といっても原作のホフマンの幻想ロマン小説ファンだから。特に「砂男」の熱を帯びた幻想と狂気の世界は好きですね。作曲者のオッフェンバックは喜歌劇や笑劇で一世を風靡した作曲家だから幻想ロマンは一見不釣り合いのようだが、本当はこういうオペラを一番書きたかったのだろうと思う。幻想的なシーンもブラック・ユーモア的シーンも原作の雰囲気をよく出していて実に巧みだし、アリアもドラマチックでとても魅力的、私の好きなオペラ・ベストテンに入る作品だ。

 といっても私のオペラの趣味はかなり変わっていて、学生時代に「ペレアスとメリザンド」「青ひげ公の城」「太陽の征服」がベスト・スリーと言ったら、友人に、それは普通のオペラが好きじゃないってことではないか、と指摘された。今でもポピュラーなオペラ作家の作品はベストテンに入ってこない。今だったら「ペレアスとメリザンド」「青ひげ公の城」に加えて「七つの大罪」「フィレンツェの悲劇」「若い貴公子」「狂気との生活」あたり、もちろん「ホフマン物語」も入れて。残りは「ヴォツェック」か「ルル」。邦人作品では「ヒロシマのオルフェ」「金閣寺」「有馬皇子」など。来年日本初演される「ファウスト博士」も楽しみにしているといったところ。こうしてみるとやはり、やや暗めの幻想的な作品が多いようだ。

 「ホフマン物語」に話を戻すと、やっと悲願の本格派オペラをほとんど書き上げながら気の毒にもオッフェンバックは完成直前に急逝。残された膨大な草稿をもとに、エルネスト・ギローが補筆し漸く初演にこぎつけたのだが、その後火災で初演資料を焼失したためいろいろな加筆や新演出がなされて一種の合作のようになり、あとになって作曲者の自筆草稿が大量に発見されたりして、今ではなにが決定版かわからない状態らしい。それでも魅力があるオペラであることには何の疑いもない。

 最近は舞台の左右に縦型の電光掲示板による字幕がでるので、原語上演を聴きながら、ストーリーを追うことができて便利。日本語オペラでさえ字幕見つつ聴くのに慣れてしまったが、これは日本オペラ界にとっていいんだか、悪いんだか。
 今回はフランス語上演だったせいか全体にやや声量が小さめ(と言うとフランス歌曲のスペシャリストは怒る)な気がしたが、内容的には聞き応えのある演奏だった。どういう訳か二日とも、プロローグだけオケと合唱の呼吸が合わなかったのは残念だったが。

 特に印象に残った演奏者を挙げると、一日目のホフマン福井敬さんは声はやや細めだけれど、切なさがよく出ていて歌も巧み。遠くから(双眼鏡なしで)見たら竹ノ内豊に似ていて(写真だと全然違う)なかなかよかったです。二日目の大野徹也さんは強靱な声がさすがで、ちょっと陽気なホフマン像。そのほか一日目、ミューズ役の寺谷千枝子さん、コッペリウス役の池田直樹さん、二日目オランピア役の鵜木絵里さんなどが特に素晴らしく印象に残りました。とはいえ2日目は1幕しか見ていないので、2幕以降に出てきた人のことはわかりません悪しからず。