ヲ01年6月24日
大阪ハインリッヒ・シュッツ室内合唱団
現代音楽シリーズ

 会場 いずみホール

 宗教作品と並んで、いまや大阪ハインリッヒ・シュッツ室内合唱団のもっとも得意なジャンル、現代音楽のシリーズ12回目。今回彼らが取り上げたのは、間宮芳生氏の「鳥獣戯画」と藤家渓子氏の「楽園の泉」、それに木下作品が三つ(「弦楽オーケストラのためのシンフォニエッタ」「虚無の未来へ」「邪宗門秘曲」)。木下作品はほとんど今年3月の作品個展の再演で、どれも前回に勝るとも劣らぬ名演であった。オーケストラを用いる大作なので舞台にのせるのは大変なはずなのに、初演から3ヶ月で、さっそく関西初演していただけて本当にうれしい。でもこれらの作品に関しては「木下牧子作品展2」(「バックナンバー」参照)の項で詳細に述べているので、今回は間宮・藤家作品を中心に話を進めたい。現代音楽というと重くて暗い作品を連想しがちだが、この2曲はかなり遊び心の入った楽しい作品であった。もっとも楽譜を見ると思い切り難しそうだが・・。

 合唱の現代音楽といえば東京混声合唱団が有名で実績も際立っているが、真面目でストイック(笑ったら罰が当たる)、難解(評論家、さしあたって絶賛)といった感じの東混に比べ、こちらはかなりドラマチックな演奏を得意とし、同じ難解な作品を演奏しても、ピリピリした前衛でなく上質のエンターテインメントとなるのが大変興味深い。
特にシアター・ピースなど演劇性の強い作品でその真価を発揮するように思われる。大阪人のキャラクターも大きいのかもしれないが、今、現代音楽において「遊び心」というのはとても重要なファクターではないだろうか。今回の当間氏の選曲にも、その辺の狙いがはっきり出ているように思う。

 「鳥獣戯画」は、35年前に作曲された記録映画用音楽が、その後改作を経て演奏会用作品となった作品。平安〜鎌倉時代にかけて書かれた風刺絵巻「鳥獣戯画」に対応する形で書かれ、お経やらお囃子やら男女の歌やら実ににぎやかなエンタテインメント。打楽器、コントラバスの伴奏も個性的かつ効果的で、合唱団ものびやかに実力を発揮していた。途中のジャズっぽい味付けも印象的だったが、たぶん35年前にはナウい(!)感覚だったはずのものが、今聴くと逆に少々古くさく感じられなくもない。流行とは、本当にむずかしいモノだ。

 「楽園の泉」は東混の委嘱作品らしいが聴いたのは今回が初めて。響きは意外に聞きやすいけれど曲の構成が個性的。合唱とともに登場するギターとヴァイオリンは伴奏という役割では全くなく、合唱の流れを分断するように「突然ですが・・」と現われてくる。ヴァイオリンは大まじめなヴィルトウオーゾ、ギターは飄々としたとぼけた味わいが面白く、2回ほど吹き出してしまった。真剣に演奏したとき、そこからほのかなユーモアが立ち上ってくる「遊び心のある」あるいはいい意味で「人を食った」作品という気がした。あくまで個人的な感想なので、それは違う!などと青筋たてて反論されても知りません。

 ともかく大阪ハインリッヒ・シュッツ室内合唱団の高い技術と、エンタテインメント性は、この2曲の魅力を十分に引き出していたと思う。