ヲ00年7月8日
2000年モーツアルト劇場公演
フィガロの結婚 

会場 新国立劇場中劇場

 <オペラをもっと身近に日本語で楽しもう>というモットーのもとに1983年に発足したモーツアルト劇場の第26回公演。会長の高橋英郎氏による日本語訳は、わかりやすくて、現代風ユーモアのセンスに溢れ、場内は何度も笑いの渦に包まれた。モットーどおりの楽しく上質な日本語版フィガロであった。原語主義、などとカチコチにならず、ぜひ一度ご覧になることをお勧めします。ダ・ポンテの台本がじつによくできていることを再認識させられます。
 出演者は皆好演であったが、私の好みでは、とても華のある小森輝彦さん、言葉が明瞭でチャーミングな小畑朱美さん、迫力の岩森美里さん、芸達者な近藤政伸さんが、とくに印象に残った。
 それにしても、オペラの歌い方で日本語をはっきり発音するのはむずかしい。特に女声は。日本語歌唱にすぐれた名手ばかりがキャステイングされているモーツアルト劇場ですら、男声は全員言葉がよく聞こえたものの、響きの柔らかい女声は全体に言葉が少し聞き取りにくかった。
 もうそろそろ、日本語のデイクションを専門的に研究して体系立ててくれる人が、現れないだろうか。今、日本語歌唱(日本歌曲に限定するのでなく)のスペシャリストを育成するコースを持つ音大は、どのくらい存在するのだろうか。「ドイツ語が歌えれば、自然に日本語は歌えます」などと、母国語をグリコのおまけ(古い!)のように扱う時期は、もう終わったと思うのだが。

 日本語上演にこだわりを持つモーツアルト劇場や、日本語独自のオペラを目指すこんにゃく座(全然違うテイストだが)のような、骨のある団体が、日本では異端と見なされてしまうのは何故なのだろう。「自国語で歌うのが異端」なんて、なんだかとても哀しい気がするのだが・・。