59 動物園のあり方

 昨年あたりから旭川にある「旭山動物園」がいろいろな媒体で大々的に取り上げられ、そのたびに行ってみたいが遠すぎる・・、と思っていた私の元にグッド・タイミングで旭川合唱連盟から審査依頼が。むち打ち症持ちの私にとって一日同じ姿勢で座る審査員の仕事は辛いのだが、今回は二つ返事でお引き受けした。

 そんなに動物園が好きなのか、と聞かれたら実は答えは「No」。ふだん動物園には殆ど行かないし、行くと必ず哀しくなる。だって日本の動物園はだいたい敷地が狭くて、コンクリートで固められた狭い檻には西日が容赦なく照りつけ、悪臭がこもり、もはや大草原を疾走することは一生ないだろう彼ら、猛獣も草食動物も、すべてを諦めた遠い目をしてぼんやりしている。とても哀しい。新川和江さんの詩に「冬の金魚」という作品があるが、その中の「死ぬ日までは生きねばならない、たった一人でも生きねばならない」という一節を思い出してしまう。自然の状態の野生動物はいつも死と隣り合わせの過酷な生存競争を生きるわけだが、狭い檻であの空虚な目をして長い時間生きるよりは、広い草原でライオンに食われるほうがずっと幸せだろう(・・か?)。

 ところが「旭山動物園」は今までの動物園の常識を覆し、動物が自然の状態で動き回れるように、またそれを人間が観察できるようにいろんな工夫がされているという。それが可能なら今までの哀しい動物園のあり方を大きく変えることができる!それを一度この目で確かめてみたかったのだ。

 あくまでもプライベートなので最初はタクシーを呼んで一人で行くつもりだったが、合唱連盟旭川支部のH谷先生、K野先生が車で連れて行ってくださるとのこと。ラッキー。あまり時間がなかったので「ペンギン」「あざらし」「白クマ」「オランウータン」といった、この動物園の目玉を中心に見学していったが、たしかに評判通りこれらの飼育舎はユニークで見学していて楽しかった。

 

   「頭上を泳ぎ回るペンギン」と「大きな水槽をダイナミックに行き来するあざらし」

 特に水槽の作りが凝っていて、水関係の動物はおしなべて広く快適な住環境を与えられているようだった。最初に入ったペンギンの水槽は特にユニークで、大きいプールの中に透明なトンネルが通っており、そこを人間が行き来するので、ペンギンが頭上を泳いでいくのを観察できる。水もきれいで、ペンギンは生き生きと泳ぎ回り、これを見るだけでもこの動物園に来る甲斐はあるというものだ。あざらしの水槽も大きく、かなり凝った作りになっているので、彼らがすごいスピードでダイナミックに泳ぐ様子を観察できる。ペンギンもあざらしも陸上の行動は「よちよち」したイメージだが、水の中では実に美しくあざやかに泳ぐ。特にアザラシの俊敏さと力強い泳ぎには感動。でも動きが速すぎて良い写真は撮れず終い。

 

ぎっしりの観客の前でガラス越しにポーズをとるホッキョククマ

 お次は「白クマ」。陸上の動きと水中での動きが両方観察できるようになっていて、食事の時、えさの魚を水中に投げ入れ、白クマが水中にダイブしてそれを食べるのをガラス越しに観察できる。上の写真に人の頭がたくさん見えているが、ちょうど食事時間近くて白クマ館は超満員で熱気むんむん。ガラス越しに観客の熱い視線を一身に浴びる白クマくん。一階から三階までの客に万遍なく視線を送り、次々といろんなポーズをとる様は名優の風格がありました。でもなんだか可哀想。係員が「一番前列の人は座って下さい」というのに一人だけ女性が座らなかったら、一人の短気そうな老人が「そこの女!、座れ!」と大声で絶叫。最初は場内し〜んとなったものの、何度も繰り返すのでみんなに無視されてました。うしろのことを全く考えない女性もどうかと思うけれど、白クマくんの食事風景を見るだけでそんなに絶叫しなくても。

 ということで、この動物園の唯一のネックはとにかく混んでいること。月曜日の午前中というのに修学旅行バスがずらっと駐車場に並び、人気館はどこも満員。これでは動物が疲れてしまうのではないかちょっと心配だ。たぶん園の予想をはるかに超えて人気が出てしまったんでしょう。

 狭い檻をたくさん作って種類ばかり見せる従来の方法でなく、限られた動物でいいから、野性に近い習性、いきいきした本来の動きを観察できるようアイデアや住環境を整えれば、動物園もこれだけ大勢の人を集められるといういいお手本だろう。ぜひまた訪れたい動物園です。

人気を集めていた赤ちゃんオランウータン。暑い日だったので、おサルさんは皆ぐったり。

2005.7.10