10 ONとOFF

 私の回りには、忙しい外出スケジュールの合間をぬって、わずかの空き時間にばりばり作曲したり、みんなと遅くまで飲んで帰宅したあと、オーケストレーションを一気に20〜30ページ仕上げたりする人が、けっこう存在する。ON とOFFの切り替えがうまいんだと思う。ほんとうにうらやましい。

 私は体力がないせいもあって、その切り替えがとても苦手である。特に一日の中で気持ちを切り替えるのが苦手。一度外出していろいろな人と会ったり、演奏会や映画に行ったりしてしまうと、刺激を受けて気持ちが外向きになり、帰宅しても、その外向きの心をなかなか内側に集中させることができない。ピアノを弾いたり、歌い手の伴奏をしたりするとエネルギーの発散量が多く快感も大きいため、さらに心が開いて浮き立ってしまい、翌日にでもならないと元に戻らない。そうやって毎日外出していると、たまに1〜2日あいても、心は外向きのままなので神経を集中することが億劫になり、何やかやと口実をつけてはすぐ外出してしまって作曲が全然はかどらない。困ったことである。私の場合、一度心をしんと落ち着かせて内面に集中することに成功したら、少なくとも3〜4日はその状態を持続させなくては能率が上がらないのだ。

 そういう私にとって、作曲のべストシーズンは、お正月が終わってからの1月から3月初旬くらいまでであろうか。講習会やコンクールや演奏会や諸行事が少なくて気が散らず、気温の低い(気温が高いと頭の回転が極度に鈍る)この時期、 2〜3ヶ月ONの状態で籠もることができれば、かなり質の高い長編が書けるだろう(気がする)。

 一旦作曲モードにはっきり切り替わると、今度はいつも精神が内面を向くようになるので、作曲だけでなく、家事とか雑務に対する集中力も高まって、ふらふら出歩いているときの私とは別人のように密度の濃い時間の使い方をするようになる。作曲がはかどり始めると、家の中も一挙にきれいに片付き、料理などもまめに作るようになって体にもいい。作曲の合間に本など(小説は気が散るので、評論とか硬めのエッセイ)も読み礼状などもすぐに書いて投函したりする。いいことづくめ。その代わり今度は逆に心を開くのが面倒になり、外出したり人に会ったりするのが極端にわずらわしくなってしまうのである。そう言うときは、電話がかかってきても、不機嫌な応対になるので、すぐわかる。(メールなら大丈夫!)

 もう少しONとOFFの切り替えが上手くなって、ちょっとは効率のいい人生を送れるようになりたいものである。

2000.10.24