4 ストレッチ 

 作曲やホームページ作りや原稿書きでパソコンを打ちまくる上に、ピアノを人前で弾く機会が増えて、ほとんど慢性腱鞘炎(けんしょうえん)の私であるが、なんとか大事に至らずに今日まで来たのは、ピアノの練習時間短縮と効率アップに加えて、アフター・ケアをしっかり心掛けてきたからだと思う。たとえ1時間だけでもピアノを弾いた後は、必ず入浴、ストレッチ、マッサージ、湿布をかかさない。とりわけ首、肩、腕のストレッチ。

 ストレッチの効果を最初に知ったのはスキーに出掛けたときだ。ふつう一年ぶりに滑ると、初日の夜には体じゅうの筋肉が痛くなり、翌朝はさらに固まってつらいものだが、ある年一緒に出掛けた友人が、そのままベッドに潜り込もうとした私を引きずり出して、無理矢理ストレッチさせたのだ。体じゅうの筋肉を少しずつ丁寧に引き延ばしていく、といった感じで20〜30分くらい。眠くて痛かった私は友人を呪ったが、翌朝起きてびっくり。筋肉の痛みは取れ、凝りもほぐれているではないか。
それ以来友人から教わったストレッチ法をまじめに実践するようになった私である。

 車の事故でむち打ちになった後も、ストレッチは有効である。
私、時速100キロで壁に激突したことがある。車は即スクラップ、本人は救急車で病院に連れて行かれたのだが、そこでお医者に言われたことは「とにかく安静にして帰ったらすぐ寝なさい!」もちろん言われたとおりにしたが、その結果、翌朝の私の首はがちがちに固まって起きあがることもできなくなっており、それから10日間寝たきり老人と化したのだった。しかし今にして考えると、寝る前にぬるいお風呂に入って丁寧に時間をかけてストレッチしていれば、あそこまで症状を悪化させずにすんだのではないかと思う。

 サラ・パレツキーの探偵小説では、主役の女探偵ウオーショースキーがぼこぼこに殴られて家まで這って帰るシーンがよく出てくるが、そのあと彼女はバスタブにお湯をなみなみ入れてゆっくりつかり、ウイスキーをのんで血行をよくし、睡魔と戦いながら部屋じゅう歩き回るのだ。外傷や骨折がない限り、筋肉の硬直を早めにほぐすことが重要なのだ。         

 それで、次に事故を起こしたときは私もやりましたね、入浴してウイスキーを飲んで、 歩き回る代わりにごく軽いストレッチを30分くらい。そして翌日は全く平常どおりに体を動かすことができたのである。お医者様より探偵小説の方が役に立つ場合もあるということで・・。
 まあ車の事故の後遺症はいろいろあって怖いから、素人判断はいけないのかもしれないが、少なくとも入浴とストレッチが、私の腕の筋肉の硬直防止にかなり貢献してくれているのは事実だ。

2000.7.5