9月18日 (日)
劇団四季ミュージカル 「李香蘭」 四季劇場・秋

出演者: 野村玲子、濱田めぐみ、五東由衣、芝清道、芹沢秀明、松宮五郎、青木朗ほか

あらすじ

戦後の上海軍事裁判所で裁かれている李香蘭(野村)。満州事変など日本軍との戦火が広がる中、香蘭は関東軍の宣撫工作の一環としてスターとして扱われ絶大な支持を得るようになる。一方、香蘭の姉的存在であった愛蓮(五東)は恋人の玉林(芹沢)とともに日本軍と戦うことを決意。香蘭と袂を別ち戦いに身を投じていく。スタートしてどんどんと人気を獲得していきながら心の中は孤独に満ちていた香蘭。彼女を支えていたのはいつも兄と慕っていた杉本(芝)あった。しかし、そんな杉本にも召集礼状がきて…

戦後60年ということで、今年は『戦争3部作』として李香蘭・異国の丘・南十字星の3作が連続して公演されることになりました。『李香蘭』はそのトップとして上演。本当はそのあとの『異国の丘』『南十字星』も見ておかなければいけないところだと思うんですけど、3作の中では一番『李香蘭』がグッとくるので申し訳ないと思いつつもこの1本に絞らせていただきました。上演されるたびに観に行っている作品ですしね。本当は2回くらい観に行きたいところだったんですけど、なんといってもこの月は観劇予定が結婚後初といっていいほど詰まっていたので(爆)1回きりになってしまいました。毎回賛否両論が分かれている作品ではありますが、どういうわけか私は何度観てもこの作品が好きなんですよ。四季の会に入るキッカケにもなりましたし・・・(厳密に言うと芥川さんですが 笑)、個人的にも思いいれは深いです。
日曜日ということもあり客席も埋まってましたが、やはり戦争の話ということで年配の方が多いですね。それに男性が多いというのも特徴かな。ちなみに、パンフレットは今回3部作が1冊になった形になってたので李香蘭専用のキャスト表は別で100円販売してました(^-^;。どうしようかかなり迷ったのですが、『李香蘭』は1回きりなので結局購入しちゃいました。そのキャスト表を見ると・・・李香蘭の配役って
野村さんのほかにも沼尾さん、佐和さんがキャスティングされているんですね!愛蓮は五東さん単独だったのも意外〜。でも結局東京公演は野村さん一本できました。なんでも李香蘭ご本人が野村さんをご指名ということだという噂なのですが・・・そろそろ世代交代も考えないと・・・ねぇ(苦笑)。個人的には沼尾さんで見たかったな・・・。

今回の『李香蘭』もかなり泣けましたね・・・。あのオープニングで旗が日本の旗から台湾の旗に切り替わるところからウルウルきちゃいますもん・・・(T_T)。そういえば、オーバーチュアの緞帳、音楽に合わせて満洲の開拓団の写真が映し出されるようになってました。彼らの哀しい運命を知っているだけになんだか胸が詰まってしまった・・・。
上海軍事裁判所で群衆から罵られた李香蘭、そしてまさに処刑の運命にある川島芳子、2人の芳子が過去へ遡り李香蘭の歴史が始まります。序盤のほうは昭和史の学習っていう感じなのですが、正直ここだけはもう少しスッキリしてほしいなぁというのはありますね、やっぱり。日本の軍閥がいかにひどいことをしてきたかの皮肉を川島芳子が歌っているんですけど、どうにもここだけは
段階を追ったように進んでいて李香蘭の話とけっこう離れちゃってるんですよ。ちゃんとした日本の歴史を見せようっていう姿勢はすごくいいと思うんだけど、やはりもうすこし若い人も興味を持ってもらうような演出にしたほうがいいと思うんですよね。まぁ、頑固な劇団四季が(というか、某A先生ですけど 爆)やすやすと変更かけるとは思わないんですけど(苦笑)。
ここに出てくる関東軍が毎回すごい迫力で恐いんですが、今年はちょっとメンバーが変わったことと
深見さんが五分刈り頭にしていなかったこともありちょっと迫力薄れてたかも(笑)。私としてはこのくらいが観ていてちょうどいいんですけど(笑)、実際の関東軍はもっと恐ろしかったんだと思いますよ・・・。深見さんが軍人刈りじゃなかったのはやっぱり次回作の『異国の丘』出演が影響してたんだろうなぁ。裁判長役の種井さんもこの軍人の中に加わっているんですが、何となく優しいお父さん的な雰囲気がある種井さんなので怖さにちょっと迫力なかったかも(^-^;。
軍人達のモンタージュシーンの後の
『マンチュリアンドリーム』はこの作品の中でも特に好きなナンバーです。川島芳子がこのナンバーの直前に「13年しか続かなかった幻のマンチュリア」と歌うんですけど、このフレーズがすごく泣けるんですよ・・・。その言葉の意味を知らずに新しい未来を夢見ながら歌い踊る満洲の人たち。その短い生涯の国家の中で彼らは翻弄されていくわけで・・・その未来を思うと笑顔で歌っている人たちを見るのはなんだかすごく切ないのです。李香蘭こと山口淑子さんも「13年しか続かなかった」というフレーズにはいつも涙しているそうですよ・・・。あの時代、あの場所で生きた人にとっては最も切ない言葉なのかもしれませんね。
香蘭の話に移った中で1幕特にグッと来るのが北京の学校シーンですね。学生たちに
『おまえは日本人と疑う人もいるが』と言われて縮こまる香蘭を必死に庇う愛連も泣けるし、『日本軍が責めて来た時どうする』と詰め寄られた香蘭が『そのときが来たら、北京の城壁の上に立つでしょう』と答える場面も泣けます。あの時代、中国人の日本人憎しといった気運が高まる中で一人日本人だったことをひた隠してきた香蘭の気持ちを考えるといたたまれなくなりますね・・・(T_T)。

そしていよいよ淑子から香蘭へと変わっていくシーン。満映にだまされてスターにされた李香蘭が歌う場面ですが、声に不安はあれど
やっぱり野村さんは美しいです・・・。着飾った彼女は本当に当時の李香蘭観ているような気にさせられます。そこで歌われる川島芳子のフレーズで、いかに李香蘭の人気がすごかったかということを毎回毎回現代のスターの名前を挙げているのですが・・・前回は「浜崎(あゆみ)」「宇多田(ヒカル)」「桑田(佳祐)」「キムタク(木村拓哉)」でした。今回は「浜崎」「宇多田」は生き残りましたが「桑田」「キムタク」が消滅し、代わりになんと「チェ・ジウ」「ヨン様(ペ・ヨンジュン)」目じゃない〜♪と韓流が登場しておりました(笑)。ついに日本人よりも韓国人が持ち上げられる日が来たんだろうか(苦笑)。
香蘭がスターへの道を歩き始めると同時に日本は戦争への道まっしぐら。1幕ラストはかなり緊迫したところで終わります。

2幕に入ってすぐ歌われる「月月火水木金金」のナンバーですが、今回からなぜか
敬礼しながらジャンプしていたパフォーマンスが消えてました。あれけっこう好きだったんだけど、どうしてなくなったのかな?なのでちょっと物足りなさを感じましたね。
李香蘭が日本凱旋したときに劇場の周りを囲んだ客を追い払う丸の内警察署長さん。前回同様今回も
松宮五郎さんが演じてましたが、うーん・・・それなりに面白いんだけどやっぱり光枝さんの味のあるなかに独特のコミカルさがあった所長さんのほうが個人的には好きですねぇ。なんとなく松宮さんだと「無理してませんか?」って目で見ちゃうんだよなぁ(苦笑)。客席も何となく微妙なウケ具合でした(^-^;;。
一方の中国では愛連たちが遊撃隊として戦っているのですが、そのなかで瀕死の重唱を負った戦士に愛蓮が「松花江上」を中国語で歌うシーンがあります。満州事変(9.18事変)で故郷を追われた青年が日本への憎しみを込めて歌ったというこの歌・・・
奇しくも私が観劇したのが9月18日だったということもあり、いつもよりも神妙な面持ちで聞き入ってしまった・・・。今は微妙な平和を保っているけれど、戦争中の9月18日に多くの中国人たちに日本人への憎しみを抱かせてしまったわけですよね・・・。中国人にとっては死んでも忘れられない9月18日だと思うけど、私たち日本人もこの9月18日という日は何があった日なのか知っておかなければいけないのではないか・・・そんなことを思いながらこのナンバーを聞きました。
そしていつも香蘭を支え続けてくれた杉本と香蘭の別れシーン。この2人っていつも「兄弟」のように接してきたけど、いつの間にか「男と女」を意識していて、それでもお互いにこの最後の瞬間まで伝えられなかったんですよね・・・切な過ぎます(T_T)。そうさせない時代でもあったんだろうなぁ・・・。杉本は南方で散る最期の時、「淑子」とその愛を叫んだというエピソードが涙を誘います。
杉本の告白のあと、多くの若い日本兵達の「最期の言葉」が読み上げられるのですが・・・もう、私は
この時点から涙がボロボロ出て止まりませんでした(T_T)。最初に李香蘭を観劇した頃はこのシーンでは涙しなかったんですけど、年齢を重ねてからなんだかものすごい彼らの心情が胸に痛いほど響いてきて・・・泣けて泣けて仕方ないんですよね(T_T)。
さらに「海ゆかば」の残酷で哀しい映像・・・毎回同じ映像を見ているのに
何度観てもここから号泣モード突入です(T_T)。ここはもう、私ごときが語るにはあまりにも重過ぎるシーンですので何も言えません。その後の李香蘭無罪の瞬間まで、今回は特に泣けましたねぇ・・・。カーテンコールが始まっても涙が止まらなかったくらい静かに号泣しておりました(^-^;。戦争の時代を私は実際に体験したわけではないのだけれど、あの時代を必死に生きた人の心は痛いほど伝わってくるんですよ。それだけに香蘭が最後に無罪を言い渡された瞬間はどうしてもこちらの気持ちも高ぶって涙涙になってしまうんですよね・・・。今まで見た中で一番泣いたかもしれないなぁ、今回の観劇。劇場を出るのが少々恥ずかしかったです(爆)。

李香蘭の野村玲子さん、初めにも書いたようにこの方山口淑子さんのご推薦が強いらしく誰にもその座を明け渡すことなく初演から演じ続けてます。過去には井料さんとかセカンドキャストにいたんですけど、彼女にその出番がまわってくることはなかったんだよなぁ(苦笑)。今回も2人後ろにキャスティングされてますが、結局東京は野村さん一人で乗り切りました。これはもう、「ラ・マンチャ」の松本さん目指してくださいみたいなことになっちゃうんですかねぇ(^-^;;;。ただ、もう、彼女にはかなり限界が来てます!特に1幕はかなりヤバくて見ているこちらがハラハラしちゃうんですよ・・・。いつ喉が潰れてもおかしくないような・・・。それに一桁の年齢を演じるのにも既に限界点を超えてます(爆)。長い間演じているので役として野村さんに香蘭が染み込んでいるのは非常によく分かるしオーラもすごいある、特に「李香蘭」としてリサイタルしているときの野村さんは本物の李香蘭に見えるくらい素敵(ちょっと歌い方がブレないような工夫をしてたように聞こえました、今回)です。でも、もうこのあたりが潮時では・・・。痛々しいんですよ、声が。見ているほうをハラハラさせるような歌はこちらの心臓にも悪い(苦笑)。確かな後継者を速く育ててほしいと思います。
濱田さんの川島芳子はすごくよかった!!ちょっとチャーミングでそれでいてカッコイイ。歌声も安定しているので安心して見ていられます。保坂さんの川島芳子もとても好きだったけどそれと同じくらい濱田さんは好きだなぁ。芝さんの杉本、ようやく見慣れてきたんですが、未だに芥川さん(現・綜馬さん)の面影を追ってしまう自分がいるせいかまだちょっと納得できてない(苦笑)。なんとなく芝さんのキャラじゃないんだよなぁ、杉本は。玉林は新人の芹沢さんだったのですが・・・彼はまだ役に溶け込んでいないような印象でした。歌も芝居も不安定で・・・「その他大勢」に見えてしまったのが残念。ただ、この役は過去にもそういう役者さんが多かったので今後の成長を期待したいところです(苦笑)。
そのほかのキャストで一番目立っていたのが
リットン卿役の渡邊今人さん!リットンはイギリス人の役でアジア人が多く登場する中ちょっと異色を放ったキャラなのですが・・・今回一番「リットン卿だ!!」と真っ先に思ってしまうほどハマッててびっくりしました!背の高さはたぶん歴代一じゃないかなぁ。しかも、素顔も何となく西洋人ぽい(ハーフの方かな?)のでまさに「リットン」その人って感じでしたよ。登場するのはほんの1場面なのですが、強烈な印象を残してくれました。そういえば、昔はリットンと満州皇帝溥儀を同じ役者さんが演じていましたが今はそれぞれシングルで役者さんが演じているみたいですね。溥儀役の朝隈さんもなかなかコミカルで面白かったです。

たぶん、次に「李香蘭」が公演される時も観に行くと思います。色々な欠点はあるけど、
私をひきつける何かがこの作品にはあるんですよ。四季の公演の中でも好きな作品のひとつですので・・・。